58 王様
「アルトちゃん大丈夫だった!?」
『クックー!』
ソプラがニワトリのぬいぐるみ抱きながら……違う、召喚獣抱えながら走ってきた。くそっ! 召喚獣も相まって可愛さが倍増してる!
「俺は大丈夫だよ。そっちは怪我とかしてない?」
「うん、わたしは大丈夫……でも一体何があったの? 気を失っている間に状況変わりすぎだよ……」
周りを見ると会場の壁や柱はボロボロ、王前の儀の為に装飾された、飾り付けや王様の台座なんかも見る影もない……観客は多少落ち着いたものの、外からはまだまだ叫び声などがうっすらと聞こえる。
これ絶対ヤバイやつですやん。神聖な王前の儀をめちゃくちゃにして、多分怪我人なども出してるだろう……死者は出てないでほしいな。
これやらかしたのは、間違いなくバハムートだから召喚した俺の責任になるってことだろうな……あっ……だめだ……平民の俺なんか、間違いなく首ちょんぱ一直線コースだこれ。
『なに!? いかんぞ!? 主は絶対死んではならぬ!! もし、お主を死刑にしようものなら国ごと潰してくれよう!!』
「いや! やめて!! ちっちゃくなって見た目だけ可愛いんだけど、ふつうにできそうだから止めて!!」
バハムートが恐ろしい事を口走る。お前の楽しい異世界生活の為に、国1つ潰されてたまるか!
「やっぱり喋ってる言葉がわかるわ……言葉が交わせる召喚獣なんて初めてよ……会話の内容はとんでもないけどね」
「やっぱり、これアルトちゃんの召喚獣の声だったんだ……試験落ちたのにどうやって召喚したの?」
ミーシャは頭を掻きながら訝しげに、ソプラは「?」を頭に沢山出しながら、俺とバハムートを交互に見る。
ジロジロ見られて気に障ったのか、バハムートがミーシャをジッと見つめ首を向ける。
『そこの者はアルトの味方だな、先程の剣さばきは中々の物だったぞ』
「ふふふ、まさか召喚獣に剣さばきを褒められるとは思わなかったわ……姿は可愛らしくなったけど、中身はさっきのデカイ龍なのよね?」
『いかにも、我が龍神バハムートだ』
「バハムートですって!?」
ミーシャが一歩後ずさり、驚愕の表情に変わる。ミーシャはバハムートが何か知ってるようだ。
「ミーシャ何か知ってるの?」
ソプラが心配そうにミーシャを見る。
軽く開いていた口をグッと締め、唾を飲みにくそうにゴクリと飲み込むミーシャ……。
「かつて、青目の魔女の封印の為だけに召喚され、とてつもない魔力の一息で致命傷を負わせたと言われている伝説の召喚獣よ……」
「青目の……」
『クゥ!?』
ソプラが青目の魔女のワードに反応し、召喚獣を抱き締める手に力が入る。
バハムートが青目の魔女の封印に関わっているだと!?
「なぁバハムート? それ本当なの!?」
『さぁ? わからん。しかし、バハムートと名乗るのは我以外おらんから間違いはあるまい。
ただ、いつも呼び出されては数刻も経たないうちに攻撃を促され、攻撃後にすぐ魔量が無くなり強制送還しておったからな……正直相手の事など覚えてもいない』
「……そ、そーですか……」
改めて聞くと、とんでもない召喚獣だった! そういえば……青目の魔女の飼い主が俺と同じ天の属性だったとか聞いたな……何か因果な関係でもあるんだろうか……?
腕を組みなんで俺がバハムートなんてとんでもないやつを召喚できたのか考えていたら。
「陛下危険です! お下がりください!」
「危険であれば疾うに国は滅んでおる。大丈夫だ、そこを退いてくれ」
大声のする方を見ると、この国の王ヴォリオ様が、止めようとする護衛騎士を押し退けこちらに歩いてきた。
「国王陛下!?」
国王に気づいたミーシャがすぐさま、持っていたショートソードを地面に置き、片膝をついて右手を胸に当てて深いお辞儀をする。
ソプラも王前の儀でやっていたお辞儀をして座り込んだので、それを見て俺も慌てて真似をする。
「……カルロスか……久しいな。変わりはないか?」
「はい、陛下もお変わりないようで幸いです。……陛下、今回の件全ての責任はわたしの……」
「カルロス! ……何でも一人で抱え込みすぎるのも変わっていないようだな。話したい事は色々あるが、先ずはそこの娘に話を聞いてもよいか?」
「……はい、仰せのままに」
王様は一度立ち止まってミーシャと言葉を交わした後、ミーシャが座ったまま横にずれ、王様が護衛を制して俺の前にやってくる。
俺は座ってお辞儀をしているが、バハムートは頭の上に乗ったままだ。
「娘、面を上げよ……」
「は……はい……」
威圧と言うか威厳と言うか、低くてよく通る声はビリビリと肌を刺激し、貫禄が伝わってくる……。
顔を上げて王様を見ると、王様は俺の前で立ち止まって難しい顔でジッとバハムートを見ている……。頼む、バハムート。なにもしないでくれよ……。
しばしの沈黙の後、バハムートが喋り出した。
『お主がこの国の長か? 我は龍神バハムート。この娘、アルトに呼び出された召喚獣だ』
バハムートが喋ると一瞬目を見開いて驚きの表情を見せたが、直ぐに険しい表情に戻った。
「バハムート……やはり、見間違いではなかったか……」
王様はどうやら、驚きながらも初見でバハムートだとわかっていたようだ。
伝説ではあるが青目の魔女に一撃で致命傷負わせるような化け物。この世界にとっては、いきなり生きた核爆弾が現れたようなもんだ。
それがわかっていて護衛も召喚獣も連れずに単身で来るとは凄い度胸だ……。
「龍神バハムートよ、この国の王として問う。今の世は以前召喚された世とは違い、平和で戦いとは無縁の世となっておる……そなたの力は余りにも大きく、世の混乱を招きかねない……召喚早々で申し訳無いが御帰還してもらえぬだろうか?」
やっぱり以前召喚された事あるんだ。それに早く帰ってもらいたいようだ。
帰ってもらうのに越した事はないけど、素直に受け入れるかどうか……。
『……断る。我は今回、戦いの戦法として呼び出されたわけではない、なので国との戦や争いごとには一切関わらぬ。
しかし、我はアルトに召喚された身、国の混乱をもたらすのも、安寧をもたらすのも、全てはアルト次第だ……』
王様がピクッと反応して俺を見てくる。
うぉおおい!? そこで急に俺に話振るんじゃねぇ!! 俺が国の采配握ってるとか勘弁してくれ!!
「アルトよ、強すぎる力は世の混乱を招く、国の為にどうかバハムートを帰還してはくれぬか?願いを聞いてくれれば、この惨事を不問とし、それ相応の報酬を約束しよう」
おお!! 報酬貰えるの!? 首チョンパと思ってたのに、バハムート帰還させるだけで命が助かり報酬貰える!? よっしゃ! 助かった!!
「あ……はぃ。でもどうやればいいんでしょうか?」
「魔力操作を行い召喚獣と繋がっておる魔力を断ち切れば、召喚契約が切れ召喚獣は元の場所へ帰るはずだ」
「えっと……魔力操作ですか……」
魔力操作……俺の1番不得意なやつだ、ミーシャと特訓したが完全に諦められた分野だ。なにせ魔法をどう構築しても玉にしかならない超ポンコツなのだから……。
俺の顔が青くなり、返答に困っていると……。
「魔力を切るだけ……そう難しくはないだろうが、これ程の召喚獣を帰還させるのは惜しくもある。直ぐにとは言わぬ、言葉が交わせるのであれば折りを見て、帰還を促してしてくれると助かる」
王様はそう言うと踵を返して護衛の人達の方に歩いて行った。
違うんです王様!! 魔力操作して切るのが一番難しいんです!! バハムート全然惜しくないんです!! むしろ帰ってほしい方なんです!!
『我はいつでも帰還させても構わぬぞ……できるならな』
バハムートが頭の上から首だけ下ろして俺を見ながらニヤリと笑う。
てめぇ!! できないとわかってやがったなぁ!!




