56 あなたはだれ?
『どうした?これでもダメか?』
バハムートは、目の前にプカプカ浮かんで小首を傾げている。
「いや……え?も……もしかしてバハムート?」
『そうだ。何をそんなに驚いている?大きさや姿が問題だと言ったのは、お主ではないか』
「いや……まぁ。うん……」
そりゃ言ったけどさ、小さくなれるとか知るわけないやん。問題がどうより帰ってもらいたいんだけど。
呆けた顔でバハムートを見ていたら。
「う〜ん……。ん……あれ? アルトちゃん? あえ!? なんで!? 会場めちゃくちゃ!?」
「ソプラ!? 起きたか! よかった!」
気を失っていたソプラが目覚めた。
「わたし、クジラさんに潰されそうになった時、急な突風で吹き飛ばされて……あれからどうなったの!? どうしてこんなめちゃくちゃなの!?」
「あぁ……それ 『おい、我の姿いいのか? どうなのだ!?』 うぉあ!!」
ソプラと話てたら、バハムートが俺の頭に乗り、無理矢理ソプラとの間に顔を突っ込んできた。とっさに、抱きしめていたソプラを離してしまった。やめんか!! びっくりするわ!
「わぁ! なにこの子!? って喋った!?」
『クー!!』
ソプラもニワトリもびっくりしてるみたいだ。そうだよ喋るんだよ、びっくりするよね、うん。
「どっから話せばいいか……とりあえず落ち着いたら全部話すよ。
ふう……大きさは大丈夫だと思うよ。でも、そんなに小さくなれるんだね」
『大きさは、さほど問題ではない。有意義な異世界生活の為ならば些細なことよ』
些細なことよって……どんだけ異世界生活したいのやら。今のところ危害を加えるような事は無いと思うけど、こっちの世界の常識とか早めに教えていかないと、まずいような気がする。
「ーーーー!!」
「「ん?」」
会場内がまだ混乱状態で騒がしい中、俺とソプラは微かに響く、聞き慣れた野太い声に反応した。
2人で目を向けるとミーシャがショートソードを抜き、全力疾走で走って来ていた!
あぁ、バハムートを危険視して襲われてるとか思ったのかな? まぁ、あれだけの事やらかしたんだから危険視されて当然か……。
とりあえず、ミーシャにも落ち着いてもらってバハムートが危険物ではない事を説明しなくては。
「ミーシャ!? なんか凄い怒ってない? また、何かやったの!? アルトちゃん!?」
「うん……まぁね……」
でも……凄い形相だなぁ……あれ、めっちゃ怒ってるよね。説明しても後で絶対しばかれるコースのやつだよね……。
後のお仕置きを想像し、背筋がスーっと冷える感覚を味わいながら到着を待っていたら……ミーシャが持っていたショートソードを思いっきりぶん投げてきた!
「逃げろーー!!!!」
「「へ?」」
『……む?』
ミーシャの放ったショートソードは、まるで弾丸の様に回転しながらに俺たちに向かい飛んでくる!
……でもおかしい、弾道が俺たちにもバハムートにも向いていない。いくら慌てていても、あのミーシャがショートソードを投げ間違う事はない。どういう事だ!?
唸りを上げて飛んできたショートソードは、俺たちの少し上の壁に突き刺さった!
ガッ!! ガキィィィイン!!!!
ミーシャのショートソードが壁に突き刺さると同時に重なり合う2つの激しい金属音!!
見上げるとフードを目深に被ったマント姿の怪しい奴が突き出したダガーと、ミーシャのショートソードが交錯して、逆立ちのまま止まっていた!
「ふふっ、残念……」
怪しいフードの人は、逆立ちのまま器用に身を翻し着地し、すぐさま右手のダガーを逆手に握り直し、また襲いかかってきた!
ヤバイ人来た!!
「ソプラ!! 離れろ!!」
「うん!!」
魔物との戦闘訓練のように掛け声で二手に分かれ走る!! だが、フードの人は方向を鋭角に変え俺を追ってくる。
なんで襲ってくるの!? バハムート召喚したから!? いきなり危険物排除対象にされちゃったの!?
『なぜ逃げるのだ? このくらいの相手、我を召喚した主ならば敵ではなかろう』
「アホか!! 俺はか弱い女の子だ!! 丸腰状態で武器持ってる相手と戦えるか!! てか頭の上に乗ってないで助けてくれ!! 今ピンチなんだから!!」
全力ダッシュなのにバハムートは平然と頭の上に乗ったままだ。せっかく召喚したんだから働いてくれ!!
『ふむ……わかった』
バハムートが頭の上でクルッと振り返り、口をパカっと開けるとピンポン玉くらい火球ができる。それをパクッと口に含んで、勢いよくプッ! と吐き出した!!
「!?」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!
火球はフードの人に命中すると、20mを超える火柱と共に爆音と爆風を生み出し、会場内を更なる混乱で埋め尽くしていく!!
「また、召喚獣が暴れ始めたぞ!!」
「会場が崩れるぞ!! 早く逃げろ!!」
「今回の王前の儀はめちゃくちゃだぁぁぁぁああ!!」
「いや!! おま!? やり過ぎだぁぁああああ!!」
俺も爆風で吹き飛ばされ、地面に顔面ダイブしてしまった。めっちゃ痛い。というか……フードの人あれ直撃だったけど、大丈夫か? というか殺っちまったか……?
爆破の衝撃で巨大なクレーターができ、土埃が舞う。
そして、土埃が消えていく中そいつは、マントがボロボロになりながらも平然と立っていた。
「うわ……生きてる……ん?」
爆破の衝撃でマントはほぼ吹き飛び、フードが破けてそいつの素顔があらわになっていた。
緑色の髪で、顔に酷い火傷を負っていたが、今ついたものではなく古い火傷の跡だった。右手にダガーを持ち、左手で顔を覆い、指の隙間からでもわかる醜悪で歪んだ笑みを浮かべ、土埃の間からギラついた目で俺を凝視してくる!
あれ? なんかこの人見たことあるような……なんだろう、よく思い出せないけど、なんか知ってる……。
「うふふ……待ってたのよ……ずっと……ずっと……ずっと……ずっとずっとずっとずっとずっとズットズットヅットヅットヅットォォォオオオオ!!!! モウ……モウ、待タナクテ……イイィィイ!!」
「うえぇえ!?」
「ヤットゴロゼル!! ……ロジデヤル!! 殺ジデヤガァァァァァア!!!!」
まるで長年空腹に晒された後、檻から解き放たれた猛獣のようなそいつは、身を仰け反らせ絶叫した後、髪を振り乱し、また俺に襲いかかってきた!
「うわぁぁぁあ!! すいません!! すいません!! すいませーん!! というか、どなた様ですかぁあああ!?」




