54 バハムート召喚!
王前の儀での魔獣召喚が終わった。
結果的には3人とも歴史に残る、素晴らしい召喚獣を召喚し、国の威厳と力の誇示を保ったようだ。
その中でも、ビオラ様のホワイトドラゴンはカッコいいと素直に思った。だってドラゴンだよ!? ドラゴン!! ファンタジー世界の大御所でございます!!
しかもさ、召喚したのが……10歳ながら超イケメンで、優しくて、気取らない、白馬の王子様ではなく、ホワイトドラゴンの王子様だよ!? カッコよすぎるでしょ!! そりゃ女の子は惚れますよ!!
くぅ〜〜、やっぱり魔獣召喚試験、受かりたかったなぁ……まぁ今更だけどさー。
そんな気持ちが態度に出ていたのだろうか……。
「ホッホッホ、召喚獣を見て『自分も欲しかったなぁ……』っと思っておるな? 顔に出ておるぞぉ」
「うっ……!?」
チューバ様に心読まれたかと思った。そんな、あからさまに顔に出てたかなぁ? でも、いいなぁと思ったのは事実だしな……。
「あはは、バレたか……でも召喚獣が欲しくない人って、いないんじゃないかな?」
「たしかに、召喚獣を従える事はこの先の生活にも大きな利点がある。しかし、召喚獣などいなくても、才能一つで色んな事が出来るもんじゃ。今日のアルトちゃんのようにの、ホッホッホ」
そう言ってチューバ様は、ヒゲをしごきながら笑った。
ん? 俺、今日なんかしたか? やらかした記憶しか無いのだが?
そう訝しげに考えていると。
「そんな事だろうと思いましたよ……全く……こんな席が当日に空いているのも、おかしいと思ったんですよ……。まんまと利用された、と言うわけですね……」
ミーシャが不愉快そうに顔を歪めて、チューバ様を睨んでいる。
「ホッホッホ、なんのことかのー?」
等の本人はひょうひょうと笑い、ニコニコ笑っている。
意味がわからない? 2人で勝手に話進めないでくれ! 俺の才能ってなんだよ? なんもやってねぇよ? わかりやすく、説明してくれ?
「要は、あんたがここにいるだけで、他国への脅威になってるって事よ」
ふう……。とため息を一つ吐き、ミーシャがしかめっ面で教えてくれる。
「え? なんで? 俺なんもしてないよ? ソプラの応援してただけだよ?」
「そうだよ! 脅威って、こんなとこで大声出す、馬鹿の事なんて誰が……イダダダダダダダ!!」
とりあえず、ドーラの脇腹をつねっておく。
俺がここにいるだけで脅威とか、どう言う事だ? 他国への抑止力は、ビオラ様に任せるとかなんとか言ってたよね? なんか裏の企みでもあるのか?
よくわからないまま、チューバ様をジト目で見ていたら、片眉をピクリと上げてニコリと笑い、説明してくれた。
「まあ、簡単に言うとアルトちゃんの魔量の多さが、他国への脅威であり、抑止力になっておるんじゃよ」
「俺の魔量が??」
「そうじゃ、この王前の儀に参加頂いている国賓や外交官の方達は、皆優秀な魔術士でな、国でも指折りの猛者達なのじゃ。
それ程の優秀な方々がアルトちゃんの桁違いの魔量を、感知できないわけがない。
そんなアルトちゃんが王前の儀の選抜者に選ばれていないと言う事に、皆さんさぞかし驚いておられるじゃろうて。
つまり、表向きの大衆向けで派手な魔獣召喚とは別に、裏ではアルトちゃんの魔量を見せつけて『我が国には、まだ召喚獣を見せていない、こんな子もいますよ』とアピールしていたと言う事じゃ」
「それに、アルトみたいな平民が、こんな特等席に座っている時点でおかしいでしょ? 注目の的になるのは明白よ……。でも、元王宮近衛兵第1隊隊長を引退した私がいると、側から見ると極秘護衛としてお披露目となり、信憑性が高まる。チューバ先生はあんたを『国の秘密兵器』みたいに見せる事で、他国への抑止力に利用してるのよ……」
「あぁ……なるほど……ってえええええ!?」
それって他国の猛者に目を付けられるって事なんじゃないのか? 何勝手に秘密兵器扱いにしてんの!? 俺、か弱い女の子ですよ!? やめてよ!!
「あっ! でもさ俺、試験落ちて魔獣召喚できないから、いずれバレちゃうし抑止力にならないんじゃない?」
「まぁ、一時的なものだから、いずれバレるでしょうね……ただ、魔量が桁違いに多い平民の女の子なんて、他国から見れば不気味で謎過ぎる存在でしかないわ。
今は私が近くにいるから、早々に手出しはしてこないだろうけど……目を離した途端、命を狙われるか、拐われる可能性もあるわね。」
「えええ!?」
確かに魔量は多いけどさ、それで他国から見たら脅威ってどんだけ!? てか、俺なんもしてないのに、めっちゃ危険に晒されるってことじゃん!!
元王宮近衛兵第1隊隊長のミーシャが近くにいるから手が出せないって事か……。
「他国の脅威を1人の女の子に仕向けるなんて……本当、意地が悪いわ……」
「ホッホッホ! まぁ、カルロスとアルトちゃんなら、なんとかなるじゃろうて!! ホッホッホ!」
得意そうに髭をさすりながら、ひょうひょうと笑うチューバ爺さん。
このクソジジイ!! 軽やかに笑ってんじゃねぇ!! なんて事してくれとんじゃい!! 助けてくれた時、チューバ様とか崇めるように思っていた自分が恥ずかしい……。クソジジイで充分だこんちくしょう!!
俺が怒りを拳に込めて、クソジジイを一発ぶん殴ってやろうとした……その時!
「ヴォォォォオオオオ!!!!」
「!?」
突然後ろから、けたたましい雄叫びが聞こえた!! 振り返ると、シアンの召喚獣の緑色のクジラが雄叫びを上げてのたうち回っている!
「いきなりどうしましたの!? 静かになさい!! ……キャア!?」
暴れるクジラをなんとか止めようと、シアンが身を呈して制止させようとするが、弾き飛ばされてしまう! 止まる気配が無い召喚獣は、尻尾を幾度と無く地面に叩きつけている! なんかよく見ると、尻尾の先に赤い物が刺さっているように見える!
騒然となる会場! 観客の叫び声や、衛兵が召喚獣の暴走を止めに、奥の通用口から走ってくる! ビオラ様も召喚獣に止めるよう指示を出しているようだけど、ホワイトドラゴンは状況をわかっていないのか、全く動かない。
国王陛下は王宮近衛兵に守られながら、今にもシアンのクジラに襲い掛かりそうな召喚獣を右手で制している。
何度か尻尾を叩きつけた後、イラついた様子のクジラは何故かソプラの方を見て目つきを変えた!
ソプラはニワトリを抱いたまま、何が起きているかわからず、座り込み震えて動けないでいる!
「むっ!? いかん!!」
クソジジイが危険を察知して、何かの詠唱を始めた!
俺は、思うよりも先に体が動き、ボックス席から飛び出していた。
「っ!! ……アルト!! まちなさっ!?」
ミーシャの手が俺の衣服の袖を掴もうとするが、俺が一瞬早く広場を囲ってある壁を素早く乗り越えた!
自分でも驚いている……
ミーシャとの訓練でもここまで素早く動けた事が無い。火事場のくそ力と言うものなのだろうか?
広場に着地と同時に足を身体強化して思いっきり駆ける! 地面が爆発したような砂埃を上げ、一直線にソプラの元へ!!
「ヴォォォォオオオオ!!!!」
「キャーーーーーァ!!!!」
クジラが再び雄叫びを上げ、尻尾の力で勢いよく跳ね上がり、ソプラをその巨体で押し潰そうと迫る!! あれの下敷きになったら確実にあの世行きだ!!
「くぅ!! ソプラーーー!!!!」
ダメだ!! 届かない!! ソプラが潰されてしまう!! 苦し紛れの腕を懸命に伸ばすが、もう間に合わない!!
刹那の瞬間、ソプラと目が合った。それは助けを求めるものではなく、慈愛に満ちたような眼差しだった。
嫌だ……嫌だ!! 嫌だ!!!! ソプラーーーーー!!!!
無我夢中だった、失いたくなかった、ソプラを救いたい一心だった。
パチン
俺の中で何が弾けたような音がした。
次の瞬間!!!!
体から迸る程の何かが放たれた!!
可視化できる程の濃密なそれは、金色に輝き、体から止め処なく溢れる黄金の津波のように会場内を埋め尽くす勢いで一気に広がって行く。
でもその中にいる俺は、そんな事どうでもいい!! ソプラを救えるならなんでもいい!! 神様でもドラゴンでも悪魔でもなんでもいいから助けてくれ!!!!
そう思った瞬間!! 前方で黄金の波に飲み込まれた召喚魔石が渦を巻き会場全体に広がった波を飲み込んでいく! 全てを飲み込み一瞬の間のあと、まばゆい光を放ってパーーーーーンッ!! っと粉々に吹き飛んだ!!
吹き飛んだ召喚魔石の輝く粉が、複雑な魔方陣を描き出し、一瞬にして会場外にまで広がる! 金色の光が激しく明滅して、地鳴りの様な音が響いてくる!
直後、魔方陣の中心から黒い雲の様な物が稲妻と轟音と共にうねりを上げ、まるで大きな龍の様に勢いよく立ち昇っていく!!
雲は熱を帯びているのか、周りの空気が一変する! 重々しくうだる様な熱さと共に上昇気流を生み出し、会場はさながら竜巻の中の様な暴風が吹き荒れた!
会場はそんな一瞬の出来事に我先に外に出ようと大パニック!! 俺もいっしょに大パニック!! 一体何が起こっているんだ!?そうだ!! ソプラは!?
ソプラに目を向けると、クジラはその身をプルプルと震わせて立ち昇る黒雲を見上げていた。ソプラは幸いその暴風で吹き飛ばされ押し潰されることはなかったが、壁に叩きつけられたのだろう……ニワトリを大事に抱えたまま気を失っている様だ。
「ほっ……とりあえず助かったか……けど、これ……どーしよ……」
立ち昇る黒雲を見上げると、ゆっくりと中で雲と雷がひと塊りに収縮していく。ひと塊りと言ってもそれは超高層ビル程に高く、耳をつんざく様な轟音と共にだ。
これ、素人でもわかる……やばいやつやん……。なんでもいいから助けてとは言ったけどさ……これは流石にやばくない?
会場は阿鼻叫喚に包まれ、手がつけられない状態に陥っている。国王陛下もビオラ様もシアンもミーシャもクソジジイも他国の猛者さん達も、黒雲から放たれる圧倒的な魔力の前に言葉を失っている……。
俺は呆然と尻餅をついたまま、それを眺めるしかなかった。
黒雲の塊の中に鋭く光る大きな目が見え、黒雲が薄れていく。圧倒的な質量と風を巻き上げながら、会場が壊れそうな程の地響きを立て、それは俺の前に降り立ち、魂すらも戦慄するような低く重い声音で俺に語りかけてきた……。
『我は龍神バハムート、此処に呼び出した召喚者は貴様か?』
やっとタイトル詐欺が取れます。長かった……。
でも、ここでプロローグに戻れば永遠にループできます笑




