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52 大きな声援

8/18 15:00大幅に文章表現を修正致しました。

「シアン様、先程はありがとうございました」


 わたしは今、王前の儀に出る為、会場の入場口にシアン様と移動中です。


 控え室でシアン様は、わたしに緊張しなくなる歌を歌ってくれました。歌詞はよく覚えていないですが、とても心地良くて温かくて不安や緊張など全部無くなってしまいました。何かの魔法みたいですが、とても不思議です。


 直ぐにお礼を言いたかったのですが、シアン様は直ぐに席に座って顔を伏せられてしまい、言えずしまいでした。


「別に気にしなくてもいいわ。私の為にやった事よ」


 シアン様はこっちを見てくれませんでしたが、少し嬉しそうに返事を返してくれました。


 会場入り口付近に到着すると、ビオラ様とチューバ様が立っていました。


「おぉ、来なさったな」


「やぁ、2人とも衣装、良く似合ってるね」


 ビオラ様から眩しい程にニッコリとした微笑みを向けられ、褒めていただけました。素直にカッコいいと思ってしまいます。


 ビオラ様は同じような白いローブに身を包み、前開きの袂からは下服の、濃い緑の鮮やかな刺繍が彩りを添えておられました。腰には大きなバックルの付いたベルトを巻き、キュッと引き締まった皮のブーツが、たおやかな立ち姿をいっそう凛々しく見せているようにも思えます。


「お褒め頂きありがとうございます。しかし、遅れて申し訳ありません。少々お色直しに時間がかかりまして」


 シアン様があのカテーシーで挨拶をされました。……そうだ、うっかり挨拶を忘れていました!


「あの、遅れて申し訳ありません。シアン様が私の為に、時間を割いていただいたのです。遅れたのは、わたしの所為なんです」


 わたしもシアン様に並び、カテーシーで挨拶をします。もちろん普通やつです。アルトちゃんのようには……、する訳にいきません!


「あはは、だろうと思ったよ。シアンはいつでも準備万端で、どんな時も手を抜かない、しっかり者だからね。いつも困ってる人には、手を差し伸べないと気が済まないのは相変わらずだね」


「ちっ! 違いますよ! 私はビオラ様の為にですね……」


「さて、そろそろ時間かの?」


 チューバ様が髭をさすりながら、王前の儀の時間を教えてくれました。


「時間みたいだね。じゃあ2人とも、召喚頑張ろうね!」


「〜〜〜〜!」

「あっ……はい!」


 ビオラ様がにこやかに笑って、わたし達に頑張ろうと言ってくれます。それはもう、爽やかとしか言いようのないほどの眩しさでした。


 シアン様を見ると、顔を真っ赤にして頰を膨らませていました。でも、ビオラ様が言ったように、平民の私に魔力を使って歌ってくれたり、化粧もしてくれたり、少し意地っ張りな部分もあるけど、すごく面倒見がよくて、優しい女の子なんだなって思いました。


「……なに、にやけてますの!? 王前の儀での召喚なんだから、失敗しないように気を張っておきなさい!」


「はい! ありがとうございます! えへへ」


 会場で大きな音楽が鳴り響き、多分これが始まりの合図なんだろうと思います。


 シアン様の歌のおかげなのか、これから大勢の注目に晒されることになるのに、全く緊張していない自分がいました。普段通りの気持ちの落ち着きようで、自分でもびっくりしています。


 開式の挨拶の後、会場に続く大きな扉がゴゴゴと音を立てて開かれていきます。

 さぁ、ここからが本番です! 頑張るぞ!


 三人で横一列になり扉を潜ると、入場の音楽と大歓声が頭上から大粒の雨のように降ってきました。


「ビオラ様ー!! 素敵ー!!」

「シアン様ー!! 可愛いー!!」

「おや!? あの青髪の子は誰だ!? 何処の貴族の娘だ!?」

「おいおい!? めっちゃ可愛い子いるぞ!? でも、シアン様も捨てがたい! ……どっちも可愛いー!!」

「俺と結婚してくれー!」


 色んな歓声がかけられて、わたしは気が卒倒しそうになりそうです。ですが、ビオラ様とシアン様はこんな時でも堂々としていて、すごいなと思わずにはいられません。


 今までに浴びた事のない歓声の中、召喚用の魔石の前に敷いてある赤絨毯まで進み出た後、そこで横並びに整列します。


 すると、先程までの音楽と歓声がピタリと止み、風魔法で大きく拡散される声が会場内に鳴り響きました。


『国王陛下入場』


 ビオラ様とシアン様が片膝をつくようにしゃがみ込まれたのを見て、わたしも慌てて同じようにしゃがみ込みます。


 するとわたし達が来た方がとは逆側から、騎士を従わせた国王陛下が歩いて来られました。


 国王陛下は、ビオラ様と同じ銀髪で、顎髭を生やした顔立ちの整った方でした。


 同じような白いローブに赤いマントを羽織った姿で、厳かな雰囲気の中、玉座の前で振り返りマントをはためかせ、右腕が鋭く横に突き出されました。


 次の瞬間、会場内に大きな影が横切り、何かな? と思っていたら、地響きと共にソレが空から降ってきました。


「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」


 会場の歓声が爆発したように唸りを上げて、わたしの体をビリビリと震わせます。


 国王陛下の後ろに降り立ったソレは体長10mはある白くてとても強そうなドラゴンさんでした!


 ドラゴンさんはその大きな翼と尻尾で王様の周りをグルリと囲んで、金色の大きい目でわたし達をジロリと見降ろしてきました。


 初めて見ました! ドラゴンさんです! 近くで見るとかなり怖いです! ビオラ様の歌が無ければ、多分失神していたと思います。


 国王陛下はわたし達を見ると、真剣な面持ちで御言葉を述べられました。


「今日この日に選ばれる為、自身を磨き上げてきた我が国の子らよ。これより召喚すべしは国の宝、そして、己の右腕となる。

 召喚された物に驕るなかれ、怠慢する事なかれ、落胆する事なかれ。それすなわち、己が力の一片であり研磨すべき才能である。

 より一層の努力と研鑽を積み、この国の繁栄を担う者となり、目標となり得る者となれ。

 ……ここに、王前による召喚の儀を執り行う事を命ずる!」


「「「承りました! 国王陛下!!」」」


 三人で直立して、右手の握り拳を左胸に押し当てる。よかった、練習通りできてるよぉ。


 さらに儀式が進み、他の偉い人のお話などがありましたが、どれも話がとても難しく、眠くて仕方ありません。

 ビオラ様もシアン様もとても真剣に聞いていて、眠そうな顔は全く見せず凄いなと思います。


 でも、わたしも王前の儀に選ばれたんだから頑張らなきゃ! アルトちゃんも見てる……あれ!? 寝てない!? ドーラくん枕にして寝てるよね!? ミーシャもウトウトしてるし! ちょっと! みんな酷いよぉ……。


 そして、わたしは召喚前の睡魔との戦いに苦戦しながら、ついに魔獣召喚まで耐え抜きました。


 さぁ、ここからが本当の正念場です!


『それでは魔獣召喚儀式を執り行います。……ベルン出身、ソプラ前へ』


 進行役の声が会場内に響き、ザワザワと響めきが広がっていきます。


「え?貴族じゃ無いの?」

「平民からの選抜なんて聞いた事ねぇよ!?」

「どこかの貴族の浮気相手の子かしら?」

「青髪ってこの国じゃあまり見ないよな?」

「ソプラちゃんって言うのか! 娯楽ギルド入ってくれないかな!?」


 ビクッ……。


 全身が強張り、息が詰まってしまいました。


 観客の目がわたしに向いている……色んなこと言われてる……目の事バレてないよね? ……うぅ……足が動かないよ。


 シアン様に緊張を解す歌ってもらったにも、関わらず足が動かない……。呼吸が激しくなり、普段聞こえない心臓の音がドクンドクン耳を刺してきます。


 どうして? 足動いて!! わたしこの日の為に頑張ってきたんだよ!?


「……ソプラ、大丈夫?」


 シアン様がわたしの変化に気づいて、小声で声をかけてくれましたが、それにも反応する事が出来ません。


 呼吸がドンドンし辛くなり、胸が苦しい……。もういっそのこと、ここから逃げだしたい……。


 目をギュッと閉じて、わたしのそんな弱い所を押さえ込もうと歯をくいしばった……。


 すると……。











「ソプラ頑張れー!!!!!!!!」


 会場内にビリビリと一際響きわたったその声は、会場内にいた観客を一瞬黙らせるほどの大きな声でした。


 誰よりも大きく、力強く、元気いっぱいで、わたしの緊張を一瞬で無くしてしまったその声の主は……。


「アルトちゃん……」


 声の方を見ると、アルトちゃんが笑顔でわたしの方に大手を振って声援を送ってくれています。


「また、あの子ですの? 規格外にも程がありますわ」


「あはは、凄い声だったね」


 ビオラ様もシアン様も呆れてます。

 でも、わたしにはこれほど、勇気付けられる声援はありませんでした。


「ありがとう、アルトちゃん……」


 いつのまにか全身の緊張は解けて、心臓の音も安らぎ、とてもリラックスした状況になりました。


 会場のざわめきが収まらない中、世界一の元気をもらったわたしは魔獣召喚儀式の為の一歩を……踏み出しました。

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