49 魔獣召喚の朝
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「よし! これで完成!」
俺は早朝から厨房で料理を作っていた。
朝食のメニューは、パン、ソーセージ、ブイヨンスープ、モズクックのオーブン焼き、チーズサラダ、スクランブルエッグ、ホットミルクだ。
朝から結構な量かと思うが、みんな朝っぱらバクバク食べるので、これでも少し足りるか心配なくらいだ。
「アルトちゃん凄いね! その年でこの手際の良さと味付けは、お父さんにも引けを取らないよ!!」
料理を作るのを手伝ってくれたユーヤさんが耳をピクピクさせながら、褒めてくれる。はぁぁ……朝からなんて事を……もふりたい、でも我慢。
「いやー、ここの設備の良さと、ユーヤさんの手伝いがあってこそだよ」
これは本当だ、オンボロの外観からは想像も出来ないほど充実した設備と、豊富な調味料。サコさんの包丁も見たけど、よく手入れがされていて、腕は確かなことがよくわかる。
「でも、初めての調味料も調理器具も平然と使いこなしてたし……。うーん、本当アルトちゃんって、不思議な女の子よね」
「あははは……」
ユーヤさんの質問を、なんとかかわしていると、ギシギシと二階の階段から誰か降りてくる音がする。
「んん〜いい匂いね。おはよう、アルト」
「アルトちゃん、おはよう!」
「おはよう。うぅ……お腹空いたぁ……」
ミーシャ、ソプラが元気よく挨拶してくるが、ドーラはまだ調子が良くないようだ。
ドーラは昨日、帰ってきたあとソプラの治療魔法の被験体になってもらった。
トランさんに詠唱を教えてもらいながら治療魔法をかけると、淡いピンクの光が出て部分的に治癒されていった。
自分の属性以外の特殊属性の詠唱まで知っているとは……流石、特殊属性専門のオタク……。
初級の治療魔法だけど筋が良いと、トランさんに褒められると、テヘヘと笑い、嬉しそうだった。
ドーラの怪我は治ったが、体力は戻らないみたい。魔獣召喚の為そのままもう一晩寝ていたのだが、丸一日寝ていたので相当お腹空いているようだ。体弱いなぁ。
ちなみにトランさんは「食材は私が支払うんだから!」と夕飯をしこたま食べたあと、サコさんに調理代も請求され、がっくりとうなだれて帰って行った。
そりゃそうだ、食材だけでは料理にならない。それを調理する技術があって初めて料理として食べれるのだ。調理代は当たり前である。
「おはよう! みんな! 朝食できてるよ! テーブルに並べるから、先に顔洗ってから席について!」
「サコは?」
「今、裏で薪割ってます。呼んできますね!」
俺は急いで料理をテーブルに並べ、ユーヤさんはサコさんを呼びに裏手にパタパタと走っていった。
出来立ての朝食がうっすらと湯気をたてながら、食欲を刺激する匂いが食堂を包んでいる。
みんな早く食べたいのかテーブルの席に着きながらソワソワしているが、まずは全員で祈りを捧げる。
「「「「「「天に召します食の神ターカ様よ、命あるものの糧をこの身の血肉と変え、生きる事に感謝を捧げます」」」」」」
待ちきれなかったのか、皆一斉にフォークやスプーンを持ち、がっつき始める。
「ん〜♪ やっぱりアルトちゃんの作る物は美味しいね!」
「うん! 美味しいわ! ……でも、初めて使う食材も入ってるのに。それに味付けも……」
「くぅ……うめぇ……スープが胃に染み込んでくる」
「やるな嬢ちゃん! このスープと卵にかかってるトマーのソースが絶品だ!」
「おいひ〜モズクックがこんなに柔らかく焼けるなんて、知らなかったよ」
「ここの厨房の設備と食材が良かったからね! おかわりもあるから、いっぱい食べてね!」
朝からみんな食べる食べる! 結構多めに用意していた朝食は、あっという間になくなってしまった。
ここまで気持ちよく食べてもらえると、作りがいもあるってもんだ! お粗末様でした!
「いやー美味かった! その年で大したもんだ! 嬢ちゃんが男なら、ユーヤを嫁がせてもいいくらいだ! がははははは!」
「もう! 朝から何言ってるの!! わたしだって思いひt……あっ! そうだ! 洗い物しなくちゃ!」
ユーヤさんは何か言いかけたが、洗い物を思い出したのか、お盆片手にピュー! っと奥に走って行ってしまった。
「!? ……ユーヤ!? おい今!? ユーヤ!?」
なんか察したのか、サコさんも慌ただしく後を追いかけていった。ユーヤさんもいい年頃だろうに……でも娘を持つお父さんってあんなもんなのかな?
そんな光景を目を細めながら見ていたら。
「ん? その箱は何?」
ミーシャが食後の茶をすすりながら、俺の席の横に置いてあった箱を指差す。
「お弁当だよ! 魔獣召喚の前にお腹空くでしょ? ソプラが直ぐに食べれるように用意したんだ!」
「わぁ! アルトひゃんのおへん当大好き!! お昼ご飯も楽ひみだよぉ〜」
最後のソーセージを頬張りながらニコニコ顔のソプラ。はい! 可愛い!
「あら! いいわね! どれ、中身は……」
お弁当の蓋を開けようとするが、その手を俺が阻止する。
バシッ!!
「アイタ!?」
「これはソプラの分! みんなのもあるけど、中身はお昼までお預けだよ!」
「もう、アルトはケチね……」
くねりと身を捩り頰を膨らませて、拗ねた態度を見せるミーシャ。
本当にこの人、元王宮近衛兵第1隊隊長だったのだろうか?騙されてんじゃないかと思うが、昨夜トランさんの裏付けも取れたから本当なんだよなぁ……。
* *
後片付けも終わり時間もあるので、ドーラの魔獣召喚の儀について行くことになった。
午前中に魔獣召喚試験の合格者が、各会場で魔獣召喚を行うらしい。
王前の儀はメインイベントの為お昼過ぎに行われる予定になっている。
ちなみに服装は普段通りだ。王前の儀専用の伝統ある衣装があるらしいので、会場で直前に着替えるようになっている。
全員のお弁当を背負って宿を出発し、大通りに出ると、昨日以上の賑わいだった!
どこを見ても人人人!
露店で串焼きや菓子を買う家族連れ、呼び込みに精を出す商人、昼間から酒を飲み王前の儀の選抜者予想をする酔っ払い達、歩きながらどんな召喚魔獣を引き入れるか打ち合わせをするギルドのスカウト……。
「いやー凄い賑わいだね……」
「こんな人混み初めてだよぉ……」
「これくらいの人混みで狼狽えてるなんて、お前らまだまだだな」
「ドーラ、自信たっぷりだけど、さっきから私のズボンの裾を握って離しもしないじゃない……」
「こ、これは逸れないように掴んでるだけだ!」
そんなやりとりもありながら、人混みをかき分け歩いて、ようやく召喚会場の入り口にたどり着いた。
「お前達見てろよ! 凄い魔獣召喚して度肝抜かしてやるからな!」
召喚会場の前でドーラが鼻息荒く啖呵を切ってくる。とても朝までぐったりとしていて、人混みにビビっていたやつとは思えない回復力だ。
でも、こいつも難関の召喚魔獣試験に合格したのは事実。俺は不合格だったし、ここでの優劣はドーラが上。ここは素直に応援しておくか。
「うん! ドーラくんも頑張ってね!」
「おー気張ってこい! 期待してるぜ!」
「う……お、ぉおう!? よっよし! ……よーく見とけよ!! い、行ってくる!!」
おいおい、本当大丈夫か? 顔も赤くて、滑舌も悪いし、歩き方もギクシャクしてるぞ。まぁ、緊張するのも仕方ないけどな……。せっかく合格したのだから良い魔獣召喚をしてもらいたいものだ。
なんか後ろでミーシャが、クックックッと声を押し殺して笑っているようだが、
どこか笑いどころあっただろうか?
「おやおやぁ!? そこにいるのは召喚魔獣試験不合格の小娘じゃないか?」
やけに小憎たらしい声が後ろから聞こえてきた。この声はあいつか……。
振り返ると前髪を書き上げながらドヤ顔している、ナリンキン・ナリーがいやがった。
「あん? 不合格がなんだってんだよ!? 俺の魔法見て、小便漏らしてたくせに」
「誰が漏らすか!! ふんっ!! まぁいい……僕は魔獣召喚試験の合格者だからね! 下々の者達に、いちいち目くじら立てないのさ。
さあ、そこを退きな通行の邪魔だよ」
ナリーは気色悪い笑を浮かべて、手でシッシッと退けとジェスチャーをする。
ほぉ……やはり、てめぇは一発入れておかないといけないようだ。
俺が青筋浮かべて一歩前に出ようした時、横からスッ! と2人の人物が割り込んできた。
「アルト、やめときなさい。ソプラに迷惑かけたいの?」
「坊ちゃんその辺で……」
ミーシャと用心棒のおっさんだ。
2人は一定の距離で互いに睨み合い、異様な緊迫感が出ている……ミーシャの背後にいるが、空気がここだけピリピリするように肌を突いていく。
「元気そうね……」
「……そちらも、お変わりなく……」
え? この用心棒のおっさん、ミーシャの知り合いなの?
軽く言葉を交わした後も、しばらく睨み合いが続き、周りも何事かと集まり始めてきた。
「アルトちゃん……」
ソプラが心配そうに俺の袖をぎゅっと掴んできた。
そうだよ……ソプラはこの後、王前の儀があるんだ。俺が迷惑かけてどうする。
「ミーシャ、ごめんなさい。もう大丈夫」
俺はソプラの手を握り、横に避けるように道を譲った。
「……迷惑かけたわね」
「いえ……行きますよ、坊ちゃん……」
「おっ……うん」
ナリーも2人の気迫に当てられたのか、こちらを見る事もなく、素直に会場に入っていった。
でも、何というか……凄い気迫のぶつかり合いというか、踏み込んじゃいけない雰囲気というか、そんな空気を肌で感じた瞬間だったな。
そんな事を思っていたら……。
ゴスッ!!!!
「フゴォ!!?」
ミーシャお得意の拳骨制裁が降ってきた。
「あんたは反省ってもんを知らないのかしら? 宿に帰ったら……覚えておきなさい」
「〜〜〜〜〜〜〜!?」
頭割れたかと思った!! 不意打ちはマジ勘弁してください!! 死人が出ますよ!! 主に俺が!!
くっそ!! ナリー! あいつマジで許さん!! ぐぅ〜〜頭痛ぇ〜……。
「アルトちゃん後で治療魔法かけてあげるから、ちょっと我慢しててね」
しゃがみこんで半泣きになりながら、頭の痛みに耐えていたら。ソプラが小声で優しく励ましてくれる。
ありがとうソプラ! 大好きだ! でも今は、声も出せないくらい痛いので返事も返せない! すまぬ! その優しさだけで俺は救われているよ!
その後、ミーシャに猫のように首根っこを掴まれ、路地裏へ移動。
ソプラが治療魔法をかけようとしたが「魔獣召喚があるんだから、やめときなさい」とミーシャに一喝され、しばらく地獄の激痛を味わうはめになったのだった……。
ちなみに、ドーラは無事、魔獣召喚を成功させ『ビッグタレポ』という、まだ雛みたいだが大型鳥類で飛べない二足歩行の召喚魔獣を両手で抱えて戻ってきた。
ニコニコ顔で「召喚の瞬間を見てたか!?」と言われたが俺がこんな状態だったので、見に行けるはずもなく、見てない事を伝えるとドーラはガックリと肩を落とすのであった。
ドーラ「俺の扱い雑じゃねぇ!?」




