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48 マジですか?

「おかえりなさーい! 王城はどうでし……た……か?」


 夕方近くに俺たちは宿に戻ってきた。

 ユーヤさんが元気におかえりと言ってくれたのだが、ソプラも俺も肩を落とし、酷く疲れている様子見て戸惑っているようだ。


「大丈夫よユーヤ、ソプラは疲れているだけ、アルトは馬鹿やらかしただけだから」


「はぁ? ソプラちゃんはわかるけど、アルトちゃんなにやったの?」


「おぉ! 帰ってきやがったな! ……ん? どうした?」


 サコさんも奥から出てきて、ミーシャが王城での事の顛末を説明してくれた。


 * *


「がーはっははははは! さすが嬢ちゃんだ! 期待を裏切らねぇな! 本当最高だ! がはははははは!」


「アルトちゃん、求婚のカテーシーなんてもっと小さい子供でも知ってるよ?『剣と姫』の童話とか知らないの?」


「いや、ユーヤさん本当に知らないんだ……あと、サコさんは笑いすぎ!」


 サコさんは腹抱えて涙目になる程笑い転げ、ユーヤさんは「常識だよ?」と呆れた様子で俺を見てくる。


「ふー……わたしも久しぶりに気疲れしたわ……ソプラは大丈夫?」


「うん……宿に帰ってきたら大分落ち着いたよ。でも、まだ信じられないよ、私が王前の儀に出るなんて……」


 食堂の椅子にぐったりした様子で深く腰を下ろすミーシャと、縮こまる様に浅く腰掛けるソプラ。


「でも、決まってしまったものは仕方ないからね。ソプラ、やるからには縮こまっていてはダメよ! 胸を張りなさい! 大丈夫、わたしの自慢の娘なんだから……必ずできるわ」


「ミーシャ……」


 お互いに見つめながら頷き、ソプラにも決心がついた様に目に力が入る。

 この辺の信頼関係は、小さい頃からソプラを育ててきたミーシャにはとても勝てないな。


「ところでミーシャ……」


「ん? なに? アルト」


 この際だから思い切って聞いてみようと、いつもはぐらかされる話を切り出してみた。


「ミーシャって本当、何者なの? カルロスって名前の時はどんな人だったの!? チューバさんやトランさんみたいな偉い人からも認められているし、ビオラ様も尊敬してるみたいだし……」


「あっ……実はそれ、わたしも気になったよ。王都に来てからみんなの反応見て、ミーシャってどんな人だったんだろうって思ったよ」


 俺とソプラのじっとりとした視線がミーシャに注がれる。


「あぁ……そうね……」


 ミーシャが少し俯き加減に言葉を詰まらせる。この話になると、大体こんな感じになり、聞き辛くなってしまってしまうのだ。


「なんだ?お前、まだこの子達に言ってねぇのか?」


 サコさんが呆れた様に鼻息をフンと吹きながら話に加わってきた。


「過去の事よ……わざわざ言わなくても支障はないわ……」


「お前そういう所、本当頑固だよなぁ……」


「サコさんは知ってるんだね?」


 ミーシャは喋りそうに無いから、サコさんに標的を変えてみる。


「あぁ、こいつとは俺が冒険者時代、同じパーティーだったからな」


「えっ!? ミーシャって冒険者だったの!?」


「……私も知らなかったよ」


 俺とソプラは目を見開いてミーシャを見るが、プイと横を向き目線を合わせてくれない。


 A級で召喚魔獣もいたと聞いていたから軍か国の衛兵あたりかと思っていた、まさか冒険者だったとは……。


 いや、別に冒険者が悪いというわけでは無い。

 冒険者は召喚魔獣試験に落ちた魔術士や、力自慢の荒くれ者が多い職業だし、国中を転々と移動し、自由な職業ではあるが安定した収入は無い。日雇い労働者みたいなポジションだ。

 ミーシャのポテンシャルを考えるとあまりにも勿体ない……。せっかくの才能が埋もれてしまいそうだし……いやまて、国の重鎮が認めるほど何か功績を上げたのか……?


俺が難しい顔で色々考えていると。


「うーむ、ちと言い方が悪かったかな……たしかに俺と一緒に冒険者として国中を回ってたんだが……」


「「ん?」」


 サコさんは再び俺とソプラに見つめられると、ちょっと困ったように眉をひそめながら言葉を続けた。


「カルロスはな、この国の元王宮近衛兵第1隊隊長だった男さ」


 ……。(1カメ、俺)


 …………。(2カメ、ソプラ)


 ………………。(3カメ、全員上から)


「「えぇぇぇええええぇええええぇぇええええええええぇぇぇぇええええぇぇええええぇぇぇぇぇえええええええぇええええええ!!!?」」


2人して顔が変形するかのように、驚愕の声を上げる!!


 王宮近衛兵第1隊隊長!? くっそエリートやん!? てか国の近衛兵のトップですやん!?

 前世でいう、皇宮護衛官の皇宮警視監と同じくらいの立ち位置ですやん!?


 ミーシャは俺の思ってた以上の人だった!!


「ミー……いや、カルロス様!? ……ほ、本当です……ございますか?」


「ミーシャ……えっ? カルロス様って呼んだ方がいいのかな? ……でも、え? あれぇ?」


 俺とソプラは大混乱している。


「ほらね、こうなるから、言いたくなかったのよ……」


 ミーシャが深いため息と共に肩を落としてこちらに向き直る。


「過去の事よ。今はベルン町のシスター、

 ミーシャよ。それ以上でもそれ以下でも無いわ。普段通りにしなさい」


「いやいやいや!? ギャップがあり過ぎて、頭ん中落ちつかないよ!? 一体過去に何があったらそうなるんだ!? 今日一の衝撃の事実だよ!!」


「王前の儀が決まった事よりビックリだよぉ……」


「がーはっははははは!! お前らいいリアクションするなぁ!!」


「まぁ、普通はそういうリアクションになりますよねぇ」


 ユーヤさんも知ってただと!? 猫耳ピクピクさせてちょっと困り顔でこっちを見て……いや待て!? その可愛らしい表現何ですか!? たまらないです! もふりたいです!


 しかし、ここはソプラの手前、理性を保たねば……。ふぅ……危なかった。


「サコさんもユーヤさんも知ってたんだね……じゃあ、なんでミーシャがこんな風になったのかも知ってるの?」


 どうせなら更に追求してみよう……もう、気になって仕方ない……。


「あぁ……それは」


「サコ……」


 サコさんが答えようとすると、ミーシャのいつに無い低い声と視線が場を凍らせる様に鋭くサコさんを射抜く。

 こんな冷酷な目をするミーシャは初めて見る。

 これ以上、ミーシャの過去の詮索はやめた方が良いみたいだな……気になるけど。


「おっと……すまんすまん。おしゃべりは、ここまでみたいだな。あとは本人から聞きな。

 ……さぁ! 気分を変えようか!! 今夜はパーと前祝いだ! 腕によりをかけて飯作ってやるぞ!」


「ちょっと! お父さん!? 一昨日もそうやって騒いだじゃない! もう予算オーバーだよ!」


 なんだと!? 昨夜、俺がダウンしている時にそんな楽しそうな事やってただと!?


 けしからん!! でも予算オーバーなのか……俺らも余り手持ちのお金無いからなぁ……。


「まぁまぁ……お金ならそこに隠れてる眼鏡の人が、気前よく支払ってくれるかもよ?」


 ビクッ!!?


 入り口の方で建具がミシィ! と音を立てると同時にミーシャがクイっと親指を入り口の方に向けニヤリと笑う。


 目をやると、そこには暗がりの入り口にこっそりと隠れていたトランさんがいた。


「トランさん!? なんでこんなとこに!?」


「い、いやー……ははは」


 王前の儀の説明会終了後、王城に残り、別れたはずだったんだけど……?


 トランさんは頭をボリボリ掻きながら、バツが悪そうにゆっくりと中に入ってきた。


「どしたの? 王城で別れたのにどうしてこんなとこにいるの?」


「いや、実は前からここの料理は食べてみたいと思っていたんですが、中々入る勇気が無くてですね……せっかく皆様がいらっしゃるのなら、お邪魔しようかと……」


 確かにサコさんの料理は絶品だが、店の外観があれじゃね……。言いたいこともわからなくも無いわ。


「なので私もお邪魔してもよろしいでしょうか? 勿論、みなさんの分も多少はお支払い致しますよ!」


 おお! いいねトランさん! 気前いいじゃない! 只の変態じゃなかった!


 っとトランさんを少し見直していたら。


「というのは建前で実はアルトやソプラの特属性の話でも聞けたらな、と思ってきたのよね?」


「そーなんですよ! 珍しい属性がある人はそれはもう、興味をそそられて、ついつい研究の為に近づい……て…………あ」


 ミーシャの合いの手にまんまと乗せられたトランさん。


 そう言えばこの人、魔術オタクだった……。それが一番の狙いだったのか。


 俺が天属性かもしれないとわかった時の、あの狂気の目はトラウマ物だし、忘れられない……。うん、慈悲は無し。


「ユーヤさん、今からありったけの高級食材をトランさんのツケで買ってきて下さい」


「OKアルトちゃん」


 ユーヤさんも乗ってきた……いいね、悪い顔してるぜぇ。


「はえぇ!? また、私のツケですか!? 朝の服の代金でも結構な料k……」


「トランさんゴチになりまーす!!」

「「「「なりまーす!!」」」」


「いや、あの……」


 顔が引きつっているトランさんを全員の清々しい笑顔で迎い入れる。

 もう、逃げられませんよ。


「じゃあ材料買い出し行ってくるねー!」

「よっしゃ! 仕込みにかかるか!」

「わたし疲れたから少し横になるわ」

「アルトちゃん! 王前の儀の練習、付き合って!」

「よしきた! 明日に備えて頑張ろう!」


「え? ちょっ……ちょっとぉぉぉお!?」


 こうして王前の儀の前夜は、請求書を見て驚愕の表情で固まるトランさんと、素晴らしい晩餐で、慌ただしくも賑やかに過ぎていったのだった。

ドーラ「うぅ……下が騒がしい……いい匂いもするけど、まだ動けない……忘れられて無いよね?無いよね?あぁ……お腹空いたなぁ……」

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