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46 ご挨拶

「これはシアン様! お二人と知り合いなのですか!?」


 トランさんが席を立ち、ゴスロリ娘に近づいていく。


「うっ!? あなたはあの時の変態眼鏡! ちょっ!! こっち来ないで!!」


「えええ!? そんなぁ!!」


 あからさまに威嚇されるトランさん……めっちゃショック受けてるけど、あんたいったい何したんだよ……。なんとなく想像はできるけど……。


 あの子、シアンっていうのか。この前は名前知る前に逃げたからなぁ。ここに来るって事は王前の儀に選ばれた1人なんだろうけど……。


「シアン様〜1人で先に行かないでくださいよ〜」


 シアンとトランさんのやりとりを見ていたら、ちょっと抜けた様な声の後に女性が小走りで入ってきた。その女性を見た瞬間、俺は目を見開いた!


 メイドさんだ! メイドさん!!

 リアルメイドさんだよ!

 喫茶店にいる人じゃないよ!


 栗毛色のショートヘアに、どこか田舎臭さを残す様な可愛らしい顔。

 白と黒のベーシックなメイド服なんだけど、いかんせん露出が高い。

 胸元は大きく開いており、ボリュームもある事が見て取れる。何よりあの短いスカートから伸びる、ムチムチの太ももがけしからん! うん、実にけしからん!!


「ねぇ、アルトちゃん。今、すっごい変な顔してるよ」


「うっ!?」


 隣に座っていたソプラからの不意打ち!? やっべ! どんな顔してたんだ!?

 ニヤけてた!? ニヤけてたんですね? 申し訳ありません。そんなジト目で見ないで。


 でもアレはしょうがない! アレに興味を持っていかれない男は、ミーシャにメイド服着せて同じ部屋に一日中監禁されても平気な程の鋼のメンタルを持っている奴しかいない。


 そう、俺は健全だ。人間の本能がそう語っておられるのだ。だから俺は悪くない。


「そこの貴女!! 何故こんな所にいるんですの!? ここは王前の儀に選ばれた名誉ある者しか来られないのよ!? 代々、王族や名のある貴族でも指折りの者しか選ばないのに!! いくら魔量が多くても、平民の貴女達がきていい場所じゃないのよ!」


 シアンが涙目のトランさんの横を通り過ぎ、俺の前にやってきて指差しながら大声で喚いている。


 なぜ俺に突っかかってくるんだ。逃げた事を根に持っているのか? うーむ、ならばここは同じ子供らしく正直に話してみよう。


「いや、逃げたのはめんどくさそうだったからで他意はないよ。ちなみに俺は王前の儀に選ばれてなくて。こっちのソプラが王前の儀に選ばれたから、付き添いでついてきたんだよ」


「余計に失礼ですわ! めんどくさそうって何ですの!? それに、付き添いできた平民ですのに、公爵令嬢の私に向かってその横柄な態度はなんなんですの!?」


「いや……俺、ほら。礼儀とか分からない、ただの女の子だし」


「ただの平民の娘でも多少なり礼儀はありますわ! それに普通の娘は俺なんて言いませんわ! それに、そんなふざけた態度取られるのも初めてですわ! 貴女! 魔量も大きければ態度も大きいのね!」


「おっ! 今の上手い! さすがシアン様!」パチパチ


「えっ!? そ、そう!? ま……まぁ、わたしくらいになると上手い事の一つや二つ……って何、話逸らそうとしてますの!!?」


 公爵令嬢で偉そうだけど、所詮中身は10歳の女の子。ちょろいぜ……ん?


「はいは〜い、喧嘩はその辺にして席に着きましょうね、シアン様〜」


 シアンの背後にそーと忍び寄ってきたエロメイド様が両脇を抱えあげ、円卓の向かいの席に移動して行く。


「っ!? こらっ! パレット! 下ろしなさい! あの娘にはガツンと言ってやらねばなりませんの! 下ろ……」


「はい、その辺にしておきましょうね〜」


「……はい」


 シアンをエロメイド様が背後からギュっと抱きしめる形で、そっと耳元で宥めると、さっきまで勇ましかったシアンが急に大人しくなり、素直に椅子に腰掛けた。こっち睨んでるけどね。


 でも、いいなあれ……すごくいい。後ろから抱きしめられて、膨よかな弾力を味わいつつ、耳元で囁かれるなんて……あれ絶対ゾクゾクしちゃう……。


「……アルトちゃん」


「っは!!?」


 ソプラがさっきよりも強いジト目でこっちを見ている気がする。とてもじゃないが目を合わせられない。救いを求め、ミーシャを見ても、こちらも呆れた様なジト目で見られていらっしゃる。


 くっ! 逃げ道が無い! 食の神ターカ様よ! どうかこの哀れな娘にご慈悲を!!


 心の中で祈った、そりゃもう全力で助けて下さいと!


 すると願いが通じたのか、扉がノックされ誰か入ってきた。全員の目線がその人物に集まる。ターカ様は俺をお救いになられたのだ!


「やぁやぁ、集まっておるな。待たせたのう。ホッホッホ」


 入ってきたのは白い顎髭をわしゃわしゃしごくチューバ爺さんと、身なりの良い男の子だった。


 男の子は黒のタキシードっぽい服を着ていて、袖や襟などには金色の刺繍がこれでもかと入っている。白のシャツとパンツに皮のお洒落なブーツ、胸元には星の勲章みたいなものがつけてあった。しかし、そんな物は飾りだった。


「うっわ、美少年……」


 そう……男の子は俺でも声を漏らすほどの美少年だった。


 光を反射してきらめく様な銀髪が短く整えられ、大きくありながらもキリッとした眼。目鼻立ちや立ち姿など、理想を全部詰め込んだみたいな非の打ち所のない美少年がそこにいた。


「……お久しぶりでございます。この度は魔獣召喚、王前の儀への選抜おめでとうございます。わたくしも共に王前の儀に参加できる事、大変光栄にございます」


 いつのまにかシアンとエロメイド様が、美少年の前に移動して慣れた動きでカテーシーを行う。


「やぁ、シアン久しぶり。僕も君と王前の儀に選ばれて嬉しいよ、元気そうで何よりだね」


 そう言って微笑む姿は、後光がさす美少女の様でもあり、中性的で何者にも変えがたい魅力があった。


「うわぁ……なんて言うか綺麗な人だね……」


「えっ!? ソプラ!?」


 ソプラが見惚れてる!? そりゃ俺も目を奪われた美少年だけどさ……でも、いけません! ソプラには俺がいる! いくら美少年でもアルトさんが許しませんよ!


 美少年を威嚇しようと向き直ると、頭をペシッ! と叩かれた。


「ほら、何やってるの。挨拶に行くわよ、立ちなさい」


 ミーシャとソプラがシアンの後に続き、男の子の前に移動する。俺もしぶしぶ後ろからついていく。


 ミーシャは男の子の前で片膝をつき、右手で胸を押さえて深くお辞儀をした。

 俺とソプラはその後ろで両膝をつき、両手を胸の前で組みお辞儀をする。


 馬車の中でトランさんに習った目上や高貴な人にするお辞儀のやり方だ。


「ビオラ殿下、この度は魔獣召喚、王前の儀への選抜、誠におめでとうございます。私はベルンで修道院を行なっております、カルロスと申します。我が弟子、ソプラが王前の儀で御一緒する事、身に余る光栄でございます」


 んんっ!? 今、ミーシャ、ビオラ殿下つったか!? え!? この男の子、王子様なん!?


「……カルロス……チューバ様!? まさかこの方は!?」


「はい、あのカルロスで間違いありませんよ。ホッホッホ」


「おお!! カルロス様! 会いとうございました! 僕はカルロス様の過去の武勇伝を聞くことがとても好きなんです! 是非、王前の儀が終わった後、直接お話を聞かせていただけないでしょうか!?」


 めっちゃミーシャに食いついてきた!! なんなん? ミーシャ本当何者なん!? 過去に何やったん!? 誰も何も教えてくれないし、いい加減教えてほしい……。


「承知致しました。こんな私の話で良ければ後日伺わせて頂きます」


「はい!! 絶対!! 絶対ですからね!!」


 ビオラ王子様が憧れのヒーローを目の当たりにしたようなキラキラした眼をミーシャに向けている。仕草を見れば、やはり子供なんだなと思った。


 そして、ミーシャが半身を引いてソプラの背を押して半歩下がる。王子様の前に出るソプラの横顔をチラッと見たが、顔面蒼白だけど大丈夫だろうか?


「ソプラ、ビオラ殿下にご挨拶を」


「はっ! はい! わ、わたしソプラと言います。えっと……この度はお日柄もよく……王前の儀で、えっと……えー……あれ?」


 うおおおおい! ソプラ、テンパり過ぎ! 落ち着け! 目の前の男の子が王子とわかって緊張がMAXになってる! 完全に練習した挨拶忘れている!


「あははは、慌てなくて大丈夫だよ。君は100年以上振りの平民からの選抜なんでしょ? 凄いね! まぁ、王族に面会する事なんて無いから緊張するのも無理はないよ。でも今は同じ王前の儀を行う者同士なんだから、共に頑張ろうね」


 ビオラ王子はまたニコっと微笑んでソプラにそっと握手を求める。


「あっ……はっ! はい! よよ、よよよ、よろしくお願い致しましゅ!」


 ソプラは真っ赤になりながら王子と握手を交わす。

 おい、王子。早くその手を離せ。ぶっ飛ばすぞ。


「さすがビオラ殿下、平民の娘にも寛大なお心。素晴らしい限りですわ」


 シアンがその様子を見て、すかさず王子をよいしょしてくるが、目線が鋭い。何やら俺らに睨みをきかせているみたいだ。こっち見んな。


 というか、王前の儀の選抜者が王子様に公爵令嬢か……平民のソプラって今更ながら場違い感半端ないな……。なんで選ばれたんだろう。


「ところでカルロス様、後ろのもう1人の女性は?」


 どうやらビオラ王子の興味が俺にも向いたようだ。


「こちらも私の弟子、アルトと申します。昨日、召喚魔獣試験を受験しましたが惜しくも不合格となってしまいました。但し、平民ながら魔量が多く中々の逸材です。本日は、ソプラの付き添いと己の、見識を広める為、トラン殿に無理を言い、同行させて頂きました」


 ミーシャはそう言うと、俺の腰を軽く小突いて挨拶するよう促してきた。


 中々の逸材って……ミーシャ俺の事ちゃんと評価してくれてたんだな……。試験落ちて申し訳ない気持ちだったけど結構嬉しい。


 しかし、王子様に挨拶か……正直めんどくさい。でもミーシャの顔を潰したくないし、ソプラのフォローもしなくては……うん、ここはしっかりした挨拶するべきだよな……。


 とりあえず、ミーシャの事みんなカルロスって呼んでるから呼称は合わせて、一人称も俺はやめておこう。


 俺はビオラ王子の前に出て、軽く膝を折って挨拶を始める。


「ビオラ殿下、お初にお目にかかります。私、カルロス様の元で修練の為、身を置かせて頂いております、アルトと申します。

 この度、王前の儀への選抜、謹んでお喜び申し上げます。

 私のような召喚魔獣を従える事すら出来ない平民が、付き添いとは言え、他の貴族様方を差し置き、この様な場に立ち会える事は、身に余る光栄にございます。

 これも一重にビオラ殿下、カルロス様、トラン様の寛大なる御配慮あっての事と思っております。

 この貴重な経験を自身の宝とするよう、しかと目に焼き付けさせて頂きます」


 そう笑顔で言い切って、その後の礼の仕方がわからなかったので、さっきシアンがやっていたカテーシーをしておく。

 ははは! どうだ!前世で地元の商工会議所のお偉いさん方へ媚を売る為に身につけた、社交辞令挨拶! まさかこんな所であの経験が活きるとは思わなかったぞ!


「あっ……う、うん。君は平民なのに、随分しっかりした挨拶するんだね。ちょっとビックリしたよ。……それに……いや、さすがカルロス様の御弟子さんだ……」


 ビオラ王子は目ををパチクリさせながら俺の足元からゆっくりと視線を上げ、目が合うと慌てるように目を逸らした。


 王子様やばいですよ、その表情。一部の趣味の方にはハートを渾身のコークスクリューでぶち抜きかねない威力がありそうです。


 それはそうとして、シアン……目を見開いて口パクパクさせて何やってる? 餌を待つ鯉のモノマネでもしてんのか?


 あれ? ソプラもミーシャもポカンと固まってどうしたん? トランさんも口半開きだよ? ん? みんなしてどーした?


「アルト……あんた、そんな挨拶いったいどこで……いや、一昨日のアレの当たりどころが悪かったとか」


「アルトちゃん……どうしたの? 熱でもあるの?」


 ミーシャとソプラが何故か俺の心配してくる。


 なんでやねん! 俺、頑張ったよ! さすがに王子様の前で下手な挨拶できないでしょうが! 俺の全力のフォローを無駄にしないでほしい。


「ホッホッホ! これはなんと! 実に堂々とした淑女のご挨拶でしたな!」


 チューバ爺さんが笑いながらビオラ王子の方を見る。ビオラ王子は曖昧な返事を返すと、直ぐに表情を引き締めて部屋に入ってきた時の凛々しい表情に戻った。


「さ……さあ、挨拶も終わった事ですし、王前の儀の説明を始めましょう!」


 トランさんがパンパンと手を叩き、みんなそれぞれの椅子に着席していく。目の前のシアンがさっきより鋭い目線を送ってくるが、騒ぎを起こしたくないので無視を決め込む事にした。


 こうして慌ただしい中、王前の儀の説明が始まった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シアン様? 初登場時は公爵令嬢になってた気がするんですけど、伯爵令嬢に変更されたんですか? 巨大魔石で属性判定してた時の今年の有望株の公爵令嬢もこの子なんですよね?
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