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44 早朝の来訪者

 ドンドンドンドン!!


「アルトさーん! 起きてますか!? てか起きてください! すぐ出てきてくださーい!」


「んんー? なんだ? 朝っぱらから……」


「ふぁ〜どうしたのぉ……?」


 まだ朝日も上りきらない早朝、俺とソプラの寝室のドアが激しくノックされ、叩き起こされた。

 声の主はユーヤさん、どうしたんだろうこんな早朝に。


 眠い目を擦りながらドアを開ける。


「ユーヤさんどうしたの? こんな朝早くぅええええええええ!?」


 ドアを開けるやいなや、ユーヤさんに手首をつかまれ、ものすごい勢いで廊下に引きずり出される。見た目は子供のユーヤさんだけど凄い力だ!


 そのまま走り出し、途中の曲がり角や階段なんかも御構い無しに引きづられ、あっという間に一階の食堂に着いた。


「連れてきました!」


「イタタ……ちょ、ユーヤさん酷すぎ。一体どう……した……ん……で、しょうか?」


 ユーヤさんが手を離したあと顔を上げると、まだ朝日も差し込まない薄暗い中、ランタンの明かりに照らさる怖い顔のミーシャ、サコさん。その正面には、甲冑を着た細身のカイゼル髭のおっさんと、フルフェイスメットを着用している甲冑姿の衛兵っぽい人がその後ろに3人、そして薄い赤髪ボサボサメガネのトランさんが難しい顔で立っていた。


 えぇえ!? なにこの状況!? めっちゃ空気重いんですけど!? 俺試験でなんかやらかした!? うん……やらかした記憶しかない! え? なに? 俺、捕まるの!?


 状況を掴めずオロオロしていると。


「アルト……昨夜、就寝後に部屋を抜け出して外に出たことはないな?」


「え?」


 これまでに聞いたことのないような重く、迫力のある低い声に驚いた。どしたん、ミーシャさんめっちゃ恐いよ!?


「……ないよな?」


「う……うん。いや……はい。ソプラとずっと寝てました。トイレも行ってないです」


 一拍おいて更に強められた迫力に押されて、吃りながらもなんとか答える。


「ほらみろ! 嬢ちゃんの証言も取れたんだ! あらぬ疑いは取消して、さっさと帰ってもらおうか! こんな早朝に押しかけてきやがって! こっちは大迷惑だよ!」


「サコ、大声出さないの」


 サコさんが腕を組み衛兵の人達に向かって大声で一括する。ミーシャが宥めるがかなり怒り心頭のようだ。


 はたや、カイゼル髭のおっさんは涼やかな顔で眉一つ動かさない。


「申し訳ありません、これも任務ですのでご容赦を……。しかしながら、本人証言も取らずに帰るわけにも行きません……。こちらでもしっかり調査させて頂きたいのですがね……」


 カイゼル髭のおっさんはこちらに向き直り右手を胸に当て、深々とこちらに一礼をする。


「初めましてアルトさん。私は王都守備第三衛兵団の団長、ライナーと申します。早朝の訪問で失礼するが、質問に2〜3答えて頂きたい。」


「はぁ、わかりました」


「ありがとう。ではまず……この男に面識はあるかね?」


 ライナーさんは腰の革袋から一枚の紙を取り出し、よく見えるように顔の前で広げて見せた。


「あっ……魔獣召喚試験の……」


 そこには俺を理不尽な面接で不合格にした憎き面接官の似顔絵が描かれてあった。


「ふむ、魔獣召喚試験のどの会場で見たのかな……?」


「この人は、お……私の三次試験での面接官でした。面接を受けた後、納得いかないけど試験に落とされました……」


 ライナーさんは似顔絵を袋にしまって軽く髭をさすり、質問を続けてきた。


「では、この男に試験を落とされ、多少の恨みがあったと?」


「そりゃ……頑張ってたのに面接で落とされたんだ! ムカついてるに決まっ……むぐぅ?」


 答えてる途中、余計な事言うんじゃないと言わんばかりに、ミーシャの手で口を塞がれた。


「ライナー殿、いささか質問が誘導じみてはいないでしょうか? これではアルトがやったように決め付けているようだ……」


 見上げると、ミーシャが普段見せない眼光で鋭くライナーさんを睨んでいた。


「ご冗談を……私は正当な証言を聞きに来たに過ぎません」


 両手を軽く上げてドウドウと諭すようにするライナーさん。


「それに、現場は西区のはず。ここは東区の隅の宿……いくら夜で人目が少ないとは言え、地区が真逆で土地勘もないアルトにできるはずもない。疑いが向けられるのは少々大げさではありませんか?」


「ええ、私もそう思いますよ。西区の犯人が夜中に人目につかずここまで来れるとは思っていませんよ。……アルトさんか普通の女の子だったらの話ですがね……」


 ライナーさんの眼光も鋭くなり、ミーシャと睨み合いになる。凄い気迫だ、空気がピリピリする。


 でも、寝起きもあってか頭の中が整理されていない。いったい何が、どういう状況でこうなってんの?


 わからん。空気も張り詰めてるし、とりあえず塞がれていた手をどかして聞いてみよう。いい加減苦しい。


「あのぉ……さっきから疑いとか犯人とかどういう事なの?」


 2人はジロっと眼球だけ動かし、俺を睨む。すいません、やめてください。めっちゃ怖いです。


「さっき見せた男が西区の路地裏で何者かによって殺害されたんですよ」


「え?」


 ライナーさんが言い放った言葉に間の抜けた声で返答してしまう。


 殺害? 殺された? 誰に? って俺、犯人として疑われてるの?いやいやいや、ないないない! 確かに夕方までは一発かましたいとは思っていたけど、殺そうとまでは思っていない。


 というか、なんで俺が犯人と疑われてるのかもわからない。


「確かに落とされてムカついてはいたけど、殺してなんかいないよ! 宿に帰ってからはみんなといたし、夜はずっとソプラと寝てたもん」


「いかがですかライナー殿? アルトにはこのようにしっかりとしたアリバイがあります。それに、このボロ宿を見てわかるように、もし夜中に誰か外に出ようものならミシミシ音が鳴って皆が直ぐに気づきますよ」


「……おい、カルロス。さりげなくボロ宿とか言ってんじゃねぇよ。……事実だけどよ……」


 そんなやり取りの中、ライナーさんは俺の目をジッと見た後、またカイゼル髭をさすりだす。


「ふむ、証言は嘘ではなさそうだ。あらぬ疑いを持った事をお詫びします」


 そう言って俺に向かって一礼して謝ってくれた。


「いえ、疑いが晴れれば大丈夫です。頭をあげて下さい」


「だけどよぉ、そもそもなんで嬢ちゃんが疑われたんだ?」


 サコさんが腕を組み訝しげに問いただす。


「あぁ、それは……」


 ライナーさんは後ろに控えていたトランさんを見る。


「……あはは。いや、これには深い訳があってですね……」


 そう言ってトランさんが言い訳を始めた。


 色々弁明もあったが要はこうだ。


 俺が試験不合格を知り、落とした者を問いただす為、試験終了後に似顔絵の男の所に行く。


 家には帰っておらず、近くの人に聞いたらよく行っている酒場があると教えてもらう。店に着いたが店長さんからすでに女と店を出た、と教えてもらう。


 後を追ったら、男が路地裏で倒れているのを発見。すぐに衛兵隊を呼び、その場で事情聴取を受けるはめになり衛兵隊に何故こんな所にいるのか? などの事の経緯を説明する。


 話の流れで俺が試験の一次、二次を並み居る貴族を抑えトップ通過した事や、『国の宝』『100年に1人の天才』『将来的に美貌と力を得る逸材』などと持ち上げる。


 しかし、自身の奇才としての発言が怪しさを呼び、そんな女の子なら試験に落とされたと言う動機もあり、簡単に殺せそうだと疑いが急浮上。


 トランさんは否定したが衛兵隊を止められず、現在に至ると……。


 ……。


「「「全部あんたが原因かぁ!!」」」


「ひいいいいいい! すいませぇん!!」


 俺、ミーシャ、サコさんの怒号がトランさんを襲う!


 この人、本当なんなんだよ……朝からドッと疲れたよ。

 ため息をもらし、サコさんのアイアンクローの餌食になっているトランさんを見ていたら。


「早朝よりお騒がせした、任務に戻らなくてはいけない為ここで失礼する」


「あぁ……はい。お疲れ様でした」


 そう言って苦笑いを浮かべながらライナーさん達は日が昇る前の朝焼けの中帰って行った。


 見送ったあと、ギィギィと鳴る扉を閉めると、後ろから可愛らしい声がした。


「アルトちゃん大丈夫? なんか凄い空気で、入っていけなくて……」


「ソプラ、大丈夫だよ。心配かけてごめ……んねぇへぇ」


「ふぇ?」


 振り返ると、ソプラが頭からシーツ被り、顔だけ出した状態で階段のところにしゃがみ込んでいた。


 可愛いすぎだろ! なんだその格好!? 可愛いの妖精ですか!? 思わずにやけて語尾がとろけた。

 ソプラもいきなり俺の顔が、にやけ顔になって驚いている。


「うふふ……朝からビックリしたけど、ソプラの格好が可愛すぎて、幸せメーター振り切ったよ……」


 フラフラとソプラににじり寄る。


「あっ……これヤバい時のアルトちゃんだ! ダメ! こっち来ちゃダメー!」


 ソプラは何かしらの危険を察知したのか、パタパタと階段を上って部屋に帰ってしまった。

 くそぅ……逃げるなんて、アルトちゃん悲しいぞ。


「くぁー、すっかり眠気も覚めちゃった。サコ、私ちょっと散歩でもしてくるわ。アルトはどうする?」


 涙目の俺をよそに、2人でトランさんをしばいていたミーシャが伸びをしながら散歩に誘ってきた。


「ん〜そうだなぁ……せっかく早起きしたし、久しぶりにみんなの朝ご飯でも作るよ!」


「あら、いい考えね! 私、あの薄く巻いたオムレツがいいわ! 今日は一般試験者の休養日だし明後日はソプラとドーラの召喚の儀式だからそれに備えて、美味しいのを頼むわね」


「へへへ! 任せといて!」


「おっ? 嬢ちゃんの作る料理は興味あるねぇ! 厨房は好きに使ってかまわねぇよ! ユーヤ!材料を朝市で買ってきてくれ!」


「はーい!」


 ニカッと笑い合う俺ら。

 そこに、さっきまでしばかれていたトランさんがうつ伏せ状態でガバッと顔を上げる。


「そう言えば!! ソプラさんは王前の儀で召喚する事になりました! 本日、打ち合わせがあるので、お昼に王城にいらしてください! 平民から王前の儀に出るなんて何百年ぶりでしょうか? いやーおめでとうございます!」


 ……。


 …………。


 一時の沈黙の後……。


 俺らはふらりとトランさんの周りに歩み寄る。


「……あれ?」


 トランさんの表情が笑顔のまま青くなっていく。


「「「「もっと早く言えー!!」」」」


「ギャーーーーーース!!!!!!」


 こうして俺らは朝日が昇りかけた頃、慌ただしくソプラの王前の儀への準備を始めたのであった。

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