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43 結果報告

ソプラ達と合流するカフェに向かうが、足が重い……。


現実的に重くなった訳じゃない。それでもとても重く感じる……。


召喚魔獣試験の面接で理不尽な面接官に当たり、あっさりと不合格と召魔封印までされてしまった。


試験に向けて頑張ってきた事も、イリス村やベルン町のみんなの期待も全て台無し、何よりソプラと一緒に合格する約束が果たせなかった……。


前世でも試験に落ちて、ここまで落ち込んだ事は無いかもしれない……。それほどショックは強かった。


途中何度か立ち止まりため息が出る。そして、時間はかかったが待ち合わせ場所のカフェが見えてきた。


「あっ! やっときた! おーいアルトちゃん! ここだよー!」


真っ先に気づいたソプラが、両手を振って飛び跳ねながら俺を呼ぶ。

くっそ可愛い……こんな気分じゃなきゃダッシュでハグしてるところだ。


俺は足が重いが小走りでソプラ達と合流した。


「お疲れ様! アルトちゃん! 試験どうだった?」


「おかえりアルト。……一応、結果は聞くわよ……どうだった?」


ソプラはワクワクした目で、ミーシャはカップにおかわりの紅茶を注ぎ、一拍おいてにこやかに結果を聞いてくる……。


やめて! その笑顔めっちゃ怖いんですけど! あと、一応ってなんですか!? 一応って!? 結果わかっていらっしゃるって事ですか!? なら言わなくても大丈夫ですよね?


あっ、なんか凄い魔力を感じる……プレッシャー半端ない。これ言わないと許さないパターンだ。やっぱ言わなきゃダメっすか? ダメっすね。わかりました。


ミーシャとの笑顔のやり取りが一瞬で終わり、背中にねっとりとした汗を感じ、乾いた笑顔を浮かべながらなんとか言葉を絞り出す。


「いや……あの……えっと……。…………ご……合格……できません……でした……ごめんなさい……」


深々と頭を下げながら言い切った……そして、一時の沈黙。ぐおおおおおおお! 黙らないでええぇ! 余計怖いから! ソプラも何か言ってくれぇええ!


なんだろう、この体感時間……長い、長すぎる! ソワソワして落ち着かない! これならミーシャの拳骨1発をさっさと貰った方がマシだ!


頭を下げたままで長い一瞬を体感していたら……。


「っま! しょうがないわね。よく頑張ったんじゃない? お疲れ様」


「うーん。残念……アルトちゃん元気出してね」


「は……えっ?」


思っていた回答とは違う事を言われ、変な声出た。あれ? 怒られない? どして?


顔を上げ、キョトンとしていると。


「あんた、あれだけ言ったのに一次試験でやらかしたでしょ?

あんな制御の効いてない高威力の魔法使える子供ってあんたぐらいしかいないわ。そんなやつが魔獣召喚なんてしたら、手が付けられ無い魔獣が出てきて即脱走。近隣の町村に多大な被害が出る事になるわ。だからあの時点で落ちても文句無いってわけ」


「ぐぅ!」


やっちまったのバレてた……流石に目立っていたか。


「それでも、帰ってこないから様子を見に行ったら二次試験に進んでるって言うじゃない。

どうせトラン殿が裏で手を回して、なんやかんやで無理矢理通過させたんでしょう。

……で、二次試験は体力試験だったはずだけど。あんた、そこでも何かやらかして無い?」


トランさんの裏工作までバレてやがる、ミーシャ意外と鋭いな……。


「あーなんか4人1組で回るように言われて、そこでモーリ家の3つ子かなんだかってのと一緒になったんだよ。そして、遊んでたら……あははは」


後頭をぽりぽり描きながら申し訳なさそうに笑ってみる。


「……呆れた。モーリ家の3つ子って言ったらあの神童達じゃない。二次試験は目立たない様に周りの子と同じくらいにしときなさいとは言ったけど……はぁ……」


「すごーい! モーリ家ってあのモーリ家だよね? やっぱりアルトちゃんすごいなぁ!」


『やっぱりやらかしたか』と言わんばかりに溜息をつくミーシャと素直に絶賛してくるソプラ。


俺の心の支えはソプラの優しさです。あぁ……今すぐ抱きしめたい。


「それで不正を疑われて面接で落ちたって所ね。まぁ、平民が貴族より目立てば、出る杭は打たれるわよ」


おっ? 流石にミーシャでもここまでは読めなかったか。でも、思い出したらなんかムカついてきたなぁ。


「いや……面接も結構順調だったんだけどさ……実は……」


「ん?」


俺は面接の内容を細かく説明した。


「……ふーん。昨日のいざこざが原因って訳ね。……まぁ、落ちて召魔封印までされちゃったならもう後の祭ね。貴族にちょっかい出すとこんな事もあるのよ。でも、もうどうしようもないわ。諦めなさい」


「昨日のあれが試験に響いてたなんて……ごめんアルトちゃん。私にも責任あるよ……」


「ソプラは悪くないよ。元はと言えばナリーが俺らにちょっかいかけてきた事が原因なんだから……(今度会ったら殴ってやる)」


鼻で溜息をつきながら嗜めるミーシャとなぜか自分を悪く言うソプラを宥め心の中でひっそりと復讐を誓うと。


「あんた、闇討してやるとか思ってないでしょうね?」


ギクッ!


「やだなぁ……そんな事思ってないよーあははは……」


くそ、釘を刺されてしまった……。仕方ない、大人しくするか。

でも、召喚魔獣……欲しかったなぁ。


その後、ドーラが合流。

合格証をこれ見よがしに見せびらかしながら俺の不合格をからかってきたのでブチ切れてみた。


ソプラが止めようとしたが、ミーシャの『あれはドーラが悪い』の一言で次第にボコボコになっていく様子を見守っていた。


1時間後。


なんか体動かしたらスッキリした。そうだよな、魔獣召喚できなくてもなんとかなるさ! クヨクヨしてもしょうがない! こうなれば、ソプラが召喚の儀で緊張しないようにサポートするのに全力を注ぐだけだ! うん、明日は明日の風が吹くだ! 切り替えて行こう!


「はー! なんかスッキリしてお腹空いた! 宿に帰ろう!」


「ええ、そうね帰りましょ」


「ド、ドーラ君生きてるよね?」


ボロ雑巾のような何かを肩に担いだミーシャと俺とソプラは、夕暮れになる前に宿に帰るのだった。



* *


ここは王都の西にある小さな酒場。


「ぷはーーーーー!! ウメェ!! 今日の酒は格別だぁ!!」


「おぅ、なんだ? 今夜はやけに羽振りがいいじゃねぇか大将?」


魔獣召喚試験の仕事を終え、馴染みの店にきていた。


薄暗くて辛気臭くて飯も不味いがそこそこ安い、金が無い俺にとってはまずまずの店だ。


そんな店の店長がカウンターで飲んでいる俺の機嫌がいい事を察して声をかけてきた。


「おうよ! こんな運がいい日に飲まずにいられるかよ!」


「へぇ、富ぐじでも当たったかい?」


「へっ! そんなチンケなもんじゃねぇよ! ング……ング……プハァ! ……なんとなぁ……今まで博打で積み重なっていた借金が無くなって、更に金貨3枚まで付く美味しい仕事にあり着いたのさ!」


カウンターに金貨3枚とジョッキをバンと叩き置く。


「ヒュー。そりゃ凄いね! どんな悪いことやったんだい?」


店長はジョッキを下げ、注文した肉を焼きながら笑い、質問してくる。


「クックック……あまり大きな声じゃ言えねぇがよ。俺が借金してるナリンキン家のご子息に、ある平民の小娘を不合格にしてくれと直々に頼まれてなぁ……。

書類をいじって俺の所に回すように仕向けた後、難癖つけて不合格にしてやったのさ!

いやー、小娘一人落とすくらいで借金帳消しの上金貨3枚だぜぇ? ……笑いが止まらねぇよ!」


「へぇ……そりゃ、その小娘も災難だったな。ナリンキン家の怒りを買うなんて、何やらかしたんだろうね?」


店長は焼けた肉を盛った皿と酒をカウンターに置く。


「さぁな、貴族の思ってることなんざ俺にはさっぱりわかんねーよ。見た目は良い娘だったからな……慰め者にでもと目を付けられたんじゃねぇのかな?

まぁ、俺の借金と金貨の為になったと思えば報われるさ! ハハハハハ!」


出された肉を頬張り、酒で流し込む。相変わらず肉は固いし酒も薄い。

しかし、ここからだ。この金貨を元手にして博打で一儲けだ!


「あら、景気がいいわね。私もご馳走してもらおうかしら?」


「あん?」


ふと横を見るといつの間にか黒いフードを目深に被った女が俺の席の横に座っていた。


「あら、おじさま結構良い男ね。ねぇ私にも一杯奢ってくださらない?」


女は胸元が大きく開いた服で、視線が刺さる場所がよく見えるように身を捩り、甘い声で迫ってくる。


クックック……女運も良いときたか。顔はよく見えないが口元だけでもこりゃ中々だ、スタイルも申し分無しか……今日は本当に最高だぜ!


「おお! いいぜ! 今夜は俺の奢りだ! たっぷり夜を楽しもうじゃねぇか!」


女はフードの奥で妖艶な笑みと緑色の髪を揺らし……。


「あら嬉しい。いい男は羽振りも違うわね。ふふっ……今夜は長い夜になりそう……」


そうして、俺の最高の夜はふけていった。


ドーラ「宿にポーションが無ければ今頃……」

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