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41 何者だ!!?

 ドゴォォォォォォォォォォォォォオ!!


 突如、王都中に鳴り響く爆音に街中の人々がパニックになり、足を止め、叫び声を上げる。そして、その音の先に目をやると高々と燃え上がる火柱が見えた。


 それは、単色の魔獣召喚試験会場から少し離れたカフェのテラスでも容易に確認できるものだった。


 そこには、周りがパニックに陥っている中、落ち着いて席に座り火柱を眺める2人がいた。


「ねぇ……ミーシャ……あれって……」


 青い髪の少女は、まだ淹れたての香りの良い紅茶の入ったカップを手に取りながら火柱を見ているが、目線はどこか遠くの景色を眺めるように語る。


「えぇ……間違いないわね……あの馬鹿……」


 正面に座ってる彼もまた、手元のカップに紅茶を注いだばかりだった。同じく穏やかに遠くを見るように言葉を返す。


 しかし、少女と違うのはこめかみに青筋が立ち、持っているカップがミシミシと音を立てている事だった。



 * *



「火を消せ!! 水魔法班!! 早く!!」


 赤札の召喚魔獣試験会場は大混乱になっていた。


 とてつもない威力で燃え上がる火柱を隣で行なっていた青札試験会場の試験官達が10人くらいで消火にあたっている。


 調子に乗っているナリーに格の違いを見せてやろうと思ったら、やりすぎた。


 ナリーにドヤ顔かました後、5秒くらいたった時にミーシャとの約束を思い出し、ハッと我に返って後ろ見る。


 ゴウゴウと燃え盛る炎……冷や汗が全身につたう俺……未だに動かない周りの人たち。


 いやー。こんな大惨事巻き起こしたのはどこの誰なんでしょうね?


 ……。


 はい、俺です。ごめんなさい、すいません、申し訳ありません。言い逃れなどできません。完全にアウトでございます……。


 俺の試験を目の当たりにした人の目と口が限界近くまで開いて、未だに無言のまま俺に注目している。


 言い逃れは皆無……。よし……ここは一縷の望みをかけて惚けてスルーだ。


「……し、失敗しゃったんで……今の無しでお願いします。てへッ♪」


「「「「「できるかぁー!!!!」」」」」


 ですよねー。


 俺の渾身の可愛いポーズが却下されると共に、皆のフリーズが解除され時は動き出す。


「今のは……エ……エクスプロージョン!!? あんな凄い魔法見たの初めてだ……」

「というか、火を掴んで投げたぞ!? 火って掴めるもんなのか!!? 投擲も見えなかったし……」

「それよりあの威力の魔法を無詠唱だったぞ! 何者だ!!?」

「よくみたら、結構可愛い子だぞ!」


 みんな口々に俺の魔法について喋り始める。そんな中、俺に詰め寄ってきたのは顔がヤバいことになっている、あのおじさんだった。


「アルトさん! あなたって人は! あなたって人はー!!!」


「ウゴゴゴゴ!!? ト、ト、トランさささん!!? ゆらららさないいでへええええ!!?」


 トランさんが片膝付きながら、俺の肩を前後に激しく揺する! やめて! 本気でやめて! てかこの人、人身体強化使ってる!? 掴んだ手が離れない!! 何ニヤニヤしてんですか!!? 怖いんですけど!!? 目がヤバいんですけど!!?


「なんなんですか!!? 生活魔法しか扱えないって言ってたじゃないですか!!? 私に見せた純白は嘘だったんですか!!? ふふふ……こんなに心躍らせる方は初めてだ……離しませんよ……貴女の全てを見るまで離しませんよ!! ……ははは……はははは……はーはははははははははは!!」


 怖ぇえぇえぇえぇえぇえええええ!!!


 目が……目が逝ってらっしゃる!! メガネの奥の目が人間の物じゃなくなってますよ!!? ヤバい! 誰か助けて!!


「ちょっ!!? 副理事長様!! おやめください!!」


「ぬっ!!? 何をするんですか!? 離しなさい!」


 俺の心の懇願が届いとのか、フリーズが解けた面接官のお兄さんが慌てて来てくれて、トランさんを力で引き剥がしてくれた。


「ぶはぁ……はぁ……。死ぬかと思った……本気でやばかった……」


 四つん這いの格好で息を整えたあと顔を上げると、トランさんは何か叫びながら面接官のお兄さんにドナドナされて行った。


 魔術オタクは本気でやばかった……。


 トランさんがいなくなった事で安堵していると。


「お……おまえ。何者なんだ!? さっき掴みかかっていたのは確か王都魔術研究の副理事長、特魔術の鬼才……トラン様じゃ……」


「ほぇ?」


 振り返ると青ざめた表情で俺を見るナリーが。他にも何人かの受験生がこっちを見ていた。


 くそ……元はこいつに一泡吹かせてやりたかっただけなのに……でも今更な感じだけど、これ以上目立つのはダメだよな……。


「あぁ……なんでしょうか……俺は……何処にでもいる普通の村娘だよ……うん」


「今更そんな見え透いた嘘が通るか! 普通の村娘かあんな威力の魔法使えるか! それにトラン様があんな行動取るのもおかしい!」


「いや……マジで村娘だし。トランさんは王都に来て直ぐ、部屋に連れていかれた先で……あっ! 今の無し!」


「「「「「え!!?」」」」


 ナリーと一緒に周りの子もなぜか驚いている。


 危ない危ない……魔法はさておき、『俺の天属性にトランさんが目をつけている』なんて言ったら目立たないようにすると約束したのに傷口を広げるだけだ……ここは知らぬ存ぜぬでつき通すんだ……。


 俺は耳を両手で塞ぎ、目をつぶってしゃがみこみダンマリを決め込んだ。


「おい! 何やってる!!? 僕の質問にきちんと答えろ! なんで黙るんだ!」

「部屋に連れて行かれた先でって……そういえばさっきトラン様、あの子揺すりながら純白とか全て見るとか……まさか……」

「しっ!! ダメよ!! 女の子はデリケートなのよ! 見て! しゃがみこんで頭抱えてるわ! 何か嫌なこと思い出したのよ!」

「トラン様はまさか……そういえばさっき少し目が合ったのって……ヒィ!」


 なんか周りで叫び合ってるし、何故か知らない女の子が頭を抱きしめてくる。おかげで周りの声がよく聞こえない。まあ、いい。これ以上目立ってたまるか! ダンマリ決め込んでスルーに全力を注ぐんだ!


「くそ! 僕の華々しいデビューが……アホ毛め……覚えてろよ!」


 ナリーも悪態つきながらどっかに行ったようだ。試験終わったらみてろよ……。


 しばらくして、ちょっと目を開けると、火柱の消化も終わっていて、周りはざわついていた。


 遠くでトランさんをドナドナして行った試験官のお兄さんが走って戻ってきて、消火に当たっていた人や他の試験官に何か説明しているようだ。


 声は聞こえないけど、なんか試験官の人達がめっちゃ驚いて言い合いしてる。あっ……何人かこっち見た。……あれ? なんか全員走って向かってくるんですけ……ど……。って……ちょ! 早!!?


「君が先程の火柱魔法の張本人か!?」


「うお!? は、はい!」


 先頭で走ってきた口髭がダンディな、おっさんが俺の前で急停止して、話しかけられた。

 てか、早すぎる100mくらい離れてたのに5秒かかってない! しかも息一つ切らしてないぞ!!?


 口髭おっさんはなんとも苦々しい表情で俺にこう伝えてきた。


「とりあえず君は一次試験合格だ……次の試験に望んでくれたまえ……」


「えっ? はい、ありがとうございます」


 予想外の言葉に呆気に取られていたら。


「いったいトラン様は何を考えているのか……」

「あれを無視しろと言うのが無理な話とわかっているのか……」

「魔法制御は召喚の基本だと言うのに……こんな制御の効かない奴の召喚は、危険が伴う事はご自身が一番よくわかっているはずなのに……」


 なんか周りから色々聞こえてくる。

 どうやら俺の一次試験の合格はトランさんが口利きしてくれたみたいだ……。


 これだけ騒ぎ起こしといて次の試験に進める上にお咎めも無し。素晴らしい、あとでトランさんにはお礼を言っておかねばならない……と思うけどあの変態にお礼を言ってからの見返りが怖いとも思ってしまう……。


 何はともあれ俺は一次試験に合格することができたのだった。


 * *


 二次試験は体力測定だった。


 走力、筋力、持久力、俊敏性、などを測定し身体に魔力をどれだけ巡らせられるかを見る試験だ。


 実は俺はこっちの方が得意で、魔力の形成はミーシャから皆無と言われたが身体強化はお墨付きだ。


 二次試験は単属性一次試験の合格者を集めて一括して行うみたいだ。


 4人一組で班を組まされ、与えられた体力測定をこなしていく。


 いちおう、目立たないようにする為に同じく班になった男の子3人とそれほど大差がないようにこなしていく。他の子がどれくらいの成績かよくわからんからな。


 でも俺以外の3人は顔馴染みみたいで、試験が進むにつれ、なぜか俺に敵意剥き出しで勝ちに向かってくる。いいね! 若さゆえの闘争心! 嫌いじゃないよ!


 それでも、負けるのは男として悔しい……なので目立たないように、この3人と遊ぶことにした。


 相手が100m走を8秒で走れば7秒8くらいで、懸垂を50回なら52回で、反復横跳びを80回なら83回くらい微妙な差で試験を続けた。


 3人は二次試験が終わる頃には、疲労困憊で汗だくになりながら「くそ!」「悔しい」「化け物か……」と言っていた。


 よいよ! その悔しさが今後の精進のバネとなるのだ! 若い時は沢山苦い経験をすることが大事なのだよ! うんうん。


 という事で無事、目立つことなく二次試験も合格できた。いやー目立たないって中々難しい。


 合格を伝えてくれた試験官の人は、なんだか引きつったような笑顔だったけど一次試験の余波だろうと気にはしなかった。




 * *




「あいつは何者だ!!? ただの村娘じゃ無いのか!!?」

「僕達の今までの訓練はなんだったの!!? こんなのおかしいよ!!?

「落ち着け! モーリ家始まって以来の天才と言われた3つ子の僕達が負けるはずがない! 村娘に負けてたまるか!!」


 僕らはこの国で身体強化を得意とし、国有数の剣の達人を多く輩出している名家、モーリ家の三つ子だった。

 それぞれ土属性、水属性、風属性を得意として更に、家系の身体強化の特殊な訓練を受け10才にして『神童の三つ子』としてその将来に大きく期待を寄せられていた。


 この魔獣召喚試験の為、幼少の頃から辛く苦しい訓練も3人で切磋琢磨してこの試験に臨んでいた。


 一次試験を終えて、僕達は二次試験を同じ組みで行う事になった。まぁそれも仕方ない、一次試験の成績上位より組む相手が決められるからだ。


 各属性の上位3人をモーリ家で独占していたのだ。日頃の訓練の賜物だった。


 しかし、二次試験で僕達以外の同じ組みに来た奴は、ただの村娘だった。正直侮っていた、今回の試験のレベルはこんなものかと思っていた。


 だが、状況は違った……。


 何をやってもこいつに勝てない。


 この試験の為に厳しい訓練をお父様から受けて来た僕達だからわかる。こいつは異常だ!


 必死で喰らい付こうにも相手は楽にその上をいく。


 こちらが汗だくにもかかわらず、汗ひとつも無く、涼しい顔でこちらを見ながら、わざと僕達に合わせて、手を抜いているのがわかった。


 ……屈辱だ……だが……。


 二次試験を終える頃には全員、魔力を使い果たし、立ってもいられなかった。


 そんな僕達を見て村娘はどこか満ち足りたようにうなづき、試験官から合格を聞くと満面の笑顔で手を振ってから去って行った。


「「「なんで可愛いんだよ! チクショー!!」」」

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