38 ゴスロリ娘
「あの……何か?」
俺はとりあえず、何事なかったように目の前のピンク頭のゴスロリに話しかけてみた。
「私の事を無視して立ち去ろうなんて中々いい性格をお持ちのようね……。服装から見ると王都の平民じゃなさそうですけど? あと、あなた女の子……よね?」
足は肩幅、両手を腰に当て、ピンクの縦ロールをフリフリ揺らしながら、ジッと俺とソプラを睨みつけ、チラッと俺の顔と、ある一部分を交互に見てくる。
そう、俺も10歳の女の子。シーラの娘という事もあり、育つ所はなかなか育っている。最初、違和感があったが流石に慣れた。それでもまだまだ子供の身体、自分の体で欲情する事は無い。
ちなみに、女性の月一の物はこの世界には無いらしい。元の世界の女性が知ったらどれだけ羨ましがる事だろうか……。
「あぁ……俺たちはベルンから召喚魔獣試験を受けに王都に来たんだ。あと一応、女の子だよ」
「あっ……ごめんなさい。さっきは助けていただき、ありがとうございます」
俺はたったまま、ソプラは深々とお辞儀をして答えた。
「へぇ、貴方達も召喚魔獣試験の受験者でしたのね……。ふぅん……貴女がた、中々の魔量をお持ちですのね……平民ですのにご立派ですわ……」
ゴスロリは俺達をじっくりと舐めるように見ていく。
「じゃあ、そういう事で……失礼します」
「えっ? アルトちゃん?」
そう言ってソプラの手を引き、その場を後に……。
「待ちなさいよ!! 何あからさまに立ち去ろうとするのよ!! 行かせないわよ!?」
ゴスロリの横を通り過ぎようとしたが、更に回り込まれてしまった。なんなんだよこいつ、ナリーをボコすのを邪魔されてムカついてんのに、更にソプラとのデートまで邪魔してくんのか!?
俺がジト目でゴスロリを睨んでいると。
「……ねぇ? 貴方達、もしかして昨日の魔石暴走騒ぎの2人なんじゃない?かなりの噂になっているわよ? 平民で3属性以上の色を出した少女と、今まで見たことの無いほどの目がくらむ強い輝きを放った少女ってね……」
あぁ、あれか。やっぱり目立ってたから噂にはなるよね。でも他言はするなって言われてるし、この子もなんかめんどくさそうだし、ここはサッサと切りぬけよう。
「あれは魔石の不具合だよ。ほら、赤札だし。ソプラも緑札だよ」
「貴族のご令嬢様なんだからもう少し敬語使ってよアルトちゃん……うぅ、すみません」
俺はポケットから赤札を出し、ソプラも緑札をさっと出して見せる。
「確かに単色札ですわね……でも、わたくしを見くびられては困りますわ! 貴方達の魔量を感知できないほど鈍くは無くてよ! 擬装しているようなら、チューバ様と何かやり取りをしていらっしゃるのね?」
ゴスロリがニヤリと不敵に笑いこちらを見てくる。
うっ……このゴスロリ、魔力感知なんてできんのかよ。魔力操作の手練れじゃないと使えないってミーシャが言ってたのに……。ちなみに俺は使えない。ソプラは少しくらいならできるみたいだ。
てか、なんで絡んでくる!? そっとしておいてほしい。
「さぁね、名前も知らない貴族のご令嬢様には関係ない話だと思いますよ。ソプラ知ってる?」
「うぅう、すみません……私も知らないです……」
「えっ? 貴女! 私の事、ご存知ではないの!!? 本当に!!? この格好を見ても!!? 嘘じゃなくて!!?」
なんかめっちゃびっくりされてるけど知らんがな。自意識過剰なのかな? 私貴族だから知られていて当然よ! みたいな?
「田舎の平民が貴族のご令嬢様の名前なんか殆ど知りませんよ」
「………………。はぁ……私の名声もまだまだですわね。まだ、この国に私を知らない方がいらっしゃるなんて……。
いいでしょう! ご存知ないのであれば特別に教えて差し上げま……」
「いえ、結構です」
「えぇえ!? アルトちゃん!!?」
早くこの場から立ち去りたいのに、なぜわざわざ聞きたくもない自己紹介なんぞ聞かなきゃいかんのだ。
なんか周りから
「おいおいあの子、田舎者にも程があるぞ……」
「なんかシアン様めっちゃ驚愕してるぜ……顎外れそうだ」
「俺、シアン様のあんな表情見たことねぇ……萌える」
とか聞こえてくる。知らんがな。
「……ふっ……ふふふ。悪漢から颯爽と少女を助け出す事で良い噂を広め、王都での私の好感度をさらに上げ、王前の儀でより注目を浴びる事が予定でしたのに……。まさか、逆にここまで平民に無礼な態度を受ける事になるなんて……こんな事初めてですわ……」
なんか下向いてぶつぶつ言いながらプルプルしてる。怒ってるのか、笑ってるのかわからないが口元がピクピクしてる。
「仕方ありません……ご存知ないのならばわからせるまで! 私の素晴らしさをご存知なかった事を……後悔する事ね! 私の歌を聞きなさー……っていない!!?」
ゴスロリが顔を上げて俺達を探すが、俺はゴスロリが下向いてプルプルしているうちにソプラの手を引きサッサと逃げた。
「ねえ! さっきの人何か叫んでるよ!? 戻って謝ろう?」
「別に謝らなくていいよ。こっちの喧嘩に勝手に入って来て、更に俺達の内情を探ろうとしてくる奴だよ? 人も集まってたし、騒ぎになる前に逃げるのが一番だよ」
「うぅう……大丈夫かなぁ……?」
全く、ソプラとのデートが台無しだ、早く宿に帰ってサコさんの美味しい夕飯を食べよう。
こうして試験前日のデートとドタバタした1日は過ぎて行ったのであった。




