35 一晩を共に……
前回のあらすじ
うまい飯食べて寝ようとしたらソプラがいる。
お腹が膨れた俺たちはユーヤさんに連れられて部屋に案内された。
「この2部屋になります。ベッドはダブルとツインになっています。後程、身体を拭く為の湯桶を持ってきますのでごゆっくりどうぞ」
ユーヤさんは部屋の説明をした後、軽くお辞儀をして階段を降りていった。
「さて、部屋割りはどうしようかしら? 教会では私とソプラ、残りはアルトだったけど今回はドーラもいるからね」
ミーシャが顎を触りながら考える。
「俺ドーラと一緒のベッドなんて嫌だよ! 俺の乙女の純潔を狙ってきそうだもん。だからドーラは残念だけど廊下ね」
「ちょ!? アルト! てめぇのどこに乙女成分があるんだ!? お前と寝るなんて俺だって願い下げだ!」
「もう、2人とも喧嘩しないで。私が床に寝るから皆んなベッド使って。ね?」
「「それはダメだ」」
ソプラが床に寝るなんてダメに決まってる、そこだけはドーラと同意見だ。
しかし、なんで宿屋なのに部屋が2つしかないんだよ。
ユーヤさん曰く、この宿は食事がメインの儲けで宿屋はついでだそうだ。
まぁ、もっと利便性の高い宿屋はいっぱいある。こんな王都の外れの方まできて宿に泊まろうとする物好きはあまりいないだろう……。
「まぁ女3男1なら必然的に部屋割りは揉めるわよね……どうしようかしら? ……ん? 何? その目はどうしたの?」
俺もソプラもドーラもジト目でミーシャを見つめている。あんたオカマだから女じゃない! おっさんだろうが!
「……しょうがないわね。ここは男女で別れるわよ。ツイン部屋は私とドーラが使うからアルトとソプラはダブルの部屋を使いなさい。小さい2人ならベッド半分でも十分でしょ?」
「「「え!?」」」
意外だった。教会に来た時にミーシャはシーラにきつく言われたとか言って同じ部屋で寝させてくれなかった。出発前にソプラが悩み相談で部屋にきてベッドで寝てしまった時があったがミーシャが抱えてベッドに運んだ為一緒のベッドで寝ることは無かった。
ソプラの反応も同じだろう。幼い頃からソプラが俺とベッドで寝ると言っても頑なに許さなかったミーシャがここに来て一緒に寝ろと言ったのだ。
ドーラは……まぁ……わかる。
「ミ……ミーシャ?いいの?」
俺は少し呆けた感じで質問していた。
「なぁにアルト? 嫌なの? それもと私と同じ部屋がいいの? ソプラとドーラが同じ部屋になるけ……」
「ミーシャの意見に賛成します! ソプラも異議ないね!?」
「え!? あっ……うん。はい、大丈夫です」
「うおおおい! なんで俺がミーシャと同じ部屋なんだ! 身の危険を感じる! 反対! 反対!!」
ドーラがわめいていたがミーシャが耳元で何か囁くと驚愕の表情を浮かべたあと、急に大人しくなり素直に応じた。一体何を言われたんだろう、結構気になる……。
部屋に入ると大きなダブルベッドが一台と机と椅子が一つあるだけのシンプルな部屋だった。
宿の外見はボロボロだけど中は意外と綺麗で安心した。ユーヤさんが綺麗すきなのだろう。サコさんはこういうのに疎い気がする。
その後、荷物を片付けているとユーヤさんが湯桶を持って来てくれて、俺とソプラは交互に部屋を出て体を拭いた。終わった頃には日も落ちていた。
* *
コンコン
ドアがノックされランタン片手にミーシャとドーラが俺とソプラの部屋に入ってくる。
ミーシャは椅子に座り子供3人はベッドに腰掛ける。
「明日の予定だけど試験は明後日からだから明日は自由時間よ。王都を見て回るもよし、試験に備えて休むもよしよ。みんなどうするの?」
「俺は試験会場の下見と王都見物に行きたいな! ついでに帰りの旅の食材と調味料を見ておきたい」
「私もアルトちゃんと一緒で王都見物行きたいな……色々見て回りたい」
「俺は親父から王都の商業ギルドに手紙を預かっているからそれを届けに行くよ。王都は何度か親父ときているから一人で行けるから大丈夫だ」
「そう、私はちょっと用事があるから朝から出かけるけど、王都は広いからくれぐれも迷子にならないようにね。あとソプラはアルトが暴走しないように見張っておくように」
「うん、わかったよ」
ソプラが両手でギュッと握り拳を作り、頑張るぞ! って感じのポーズをとる。
ソプラ……そんな頑張らなくていいよ? 俺暴走なんかしないよ?本当だよ?
「いっそアルトに首輪でもつけて行ったらどうだ? その方が安心じゃねえのか!?」
ドーラがニヤつきながらこっちを見てくる。
「ほう……そんな口叩くのか。帰ったらミレとファドに『ドーラはミーシャと一晩を共にした』とだけ言ってやろうか?」
「俺が悪かった。すいませんでした」
ドーラは流れるように見事なDOGEZAを見せてくれた。
「はいはい、そこまで。明後日は試験なんだから王都見物も程々にしておくのよ。朝食は下の食堂で、昼食は各々で食べなさい。日暮れ前には必ず帰ること、いい?」
「「「はい」」」
そのあと、ミーシャとドーラが部屋から出て行き完全にソプラと2人っきりになった……。
「あっ……アルトちゃん。じゃあ……寝ようか……」
ベッドの上には寝間着に着替えたソプラが寝転がりながら薄い掛け布団をめくり、抱えた枕で恥ずかしそうに口元を隠している。めっちゃかわいいんですけど!
「っう、うん」
声が引きつってるし……うっわ……めっちゃ緊張してきた。心臓ってこんなにうるさかったっけ?
女性といっしょのベッドで寝るなんて10歳にして初めて(シーラは母親なので除く)。前世から数えると……52年で……。
いや待て、もちつけ俺! ただ寝るだけだ! 一週間ぶりのベッドで明日の為に睡眠を取る、ただそれだけだ!
事をしようにも俺は今、女の子だ! OK OK何も心配いらない、俺は極めて冷静だ。
一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。よし、大丈夫だ。
「おっ……お邪魔しま……す……」
恐る恐るベッドに横になる。ソプラが先に寝ていた事もあり柔らかな温もりがある。
「ふふっ……なんか変な感じだね。いっしょに寝るだけなのに……ちょっと緊張するね」
「う……うん。緊張する。ソ……ソプラは俺と寝るの……嫌?」
「嫌じゃないよ。むしろ今までミーシャに禁止されてたからかな?すっごくドキドキしてる……でも……すごくホッとする。いっしょにいると安心するよ」
ドキッ……!
ソプラの言葉に鼓動が跳ね上がる、さっきより明らかに心臓がバクついて体温が上がる! あぁ……ヤバイ。心臓飛び出しそう……。
「あ……ありがとう。じゃ、じゃあ寝ようきゃ。あしゅた早いし……」
焦りすぎて口が回らねぇぇぇぇぇ!!
あぁ……ソプラと俺のドキドキとは内容が違うだろうけど、嬉しい事言ってくれてそれだけで昇天しそうだ。
邪な考えが少しでもあった俺は……。
「うん……。ねぇ……アルトちゃん?」
「ひゃい!?」
「手、繋いでいい?」
「へぇ!?」
ソプラはそっと俺の右手に手を繋いできた。とても小さく柔らかなその手は少しひんやりしていた。
「えへへ、アルトちゃんの手、あったかい。おやすみなさい……」
そして、軽くあくびをしてそっと目を閉じた。顔はこちらに向けられていて小さいピンクの唇が柔らかそうにこちらに向けられている。
(はうぅぅぅ!!?)
息がかかりそうな距離で無防備な姿を晒すソプラ。ヤバイ! キスしたい!
でもなぜこの状況で手を!? いや、世の中の男女はベッドで手を繋ぐものなのか!? いやいや! 俺今女の子だし!
俺の頭の中は大混乱! 手を繋いだけどそれ以上の事になるとビビってしまっている……寝ているソプラに色々してもいいのか!? むしろ誘ってる!? いや、同意も無しに変な事して嫌われるのはごめんだ! しかし……。
そんな葛藤をよそにソプラは昼間の疲れもあったのだろう、手を繋いだままスヤスヤと寝息を立てるのだった。
こんな状況で寝れるかぁ!!