33 宿屋?に到着
久しぶりの投稿です。
俺たちは店を出た後、荷馬車に一旦戻り荷物を持って宿に向けて歩いていた。
「いやー凄いドジな人だったな」
「でも、良い人そうだったよ」
「ソプラちゃん、良い人だったけど感情で就職したらダメだよ」
「そうよソプラ、あなたの能力は素晴らしい物よ。召喚魔獣の力を存分に発揮できる職に就くべきよ」
みんな思い思いに話しをしていた。
召喚魔獣の善し悪しで人生が変わるこの世界。ソプラは4属性持ちで治癒属性もあるから召喚魔獣も凄いやつが期待できる。多分、どんなギルドに行っても高待遇だろう……人付き合いが苦手な点が気になるところではあるが。
けど俺は青目の魔女の飼い主と同じ属性の天属性のみ……正直どんな魔獣が召喚されるかわからない。もしかしたら、青目の魔女を再び召喚って事になれば大騒ぎ待った無しだ。
そうなると召喚魔獣はやめといた方が……いやいや、せっかく貰えたチャンスなのだ! それに、召喚魔獣は主には絶対服従だし俺が言いつけておけば大人しくするはずだ! だから大丈夫! うん。
しかし、召喚試験で落ちた後はどうなるか?俺の天属性は珍しい属性ではあるが多属性が基本のA級魔術士にはなれないだろう……単属性を極めてA級にはなれるが、かなりの年月の鍛錬が必要で貰える頃にはほぼジジイ、ババアだ。
俺はそこまで極めようなんて職人堅気じゃない。むしろ浅く広く色んな事をしたい。そうなると、気ままに国中のあちこちを旅して回る冒険者も魅力的だ。
しかし、俺はランクの低い魔物を倒すことは出来るがランクが高くなるとかなり厳しい。硬い鱗や皮膚を持つ魔物は剣が効かないし、俺の生活魔法は威力は高くても遅くて避けられてしまう。
冒険者も召喚魔獣を従えて旅をするのが常識だし、魔力があるからこそその身を守れる。魔獣との戦いも魔獣と連携して行うことが一般的。魔獣も連れずにその身一つで出歩くなど余程魔物が出ない地域以外あり得ない。
うーん。やはり旅して回るには召喚魔獣は必須だよなー。
そんな考えを巡らせているうちに王都でもかなり端にある宿に着いた。
木造二階建ての大分趣のある宿だった。壁には蔦がビッシリ張り付いており、ドアはキイキイと音を立てて揺らめいている、窓枠のところだけ蔦はなくぽっかり空いている。軒先は今にも崩れそうで、蔦が宿を支えてるんじゃないか? と思えるくらいボロボロだ……。さりげなく吊るされている古びた看板には消えかけの文字で『ハン・パナイ亭』と書いてあった。
「すげー蔦! ここ本当に宿!?」
「看板にはハン・パナイ亭って書いてあるから間違い無いと思うけど……」
「なんでこんな宿に!? ベルンでももう少しマシな宿があるよ!?」
子供3人はジロっとミーシャを見た。一週間ぶりの長旅だったから屋根とベットがある宿を楽しみにしていたのだ。
「しょうがないじゃない、今年は当たり年で普段の倍以上の受験者がいるの。いい宿は殆ど貴族の子達が押さえてて私達のような平民はこういう所しか空いていないのよ」
ミーシャが肩をすくめながら言い放つと3人一緒に深いため息が出る。
「まぁ、確かに見た目はボロボロだし手入れもされていない、今にも潰れそうな宿だけど、ここの店主は食神ターカ様の生まれ故郷で聖地、東の町『ニコン』で腕を振るっていた料理人で食事は絶品よ!」
俺の目は輝いた! 何しろあの騒動で結局朝から紅茶しか口にしていなかったのだ。それに東の町ニコンの料理は辺境のイリス村まで噂がくるほど有名だ、是非食べてみたい!
そして、美味かったらレシピを教えてほしい。なんだかんだで前世の料理人の血が騒ぐ。
「よし、屋根はある! 問題ない! 早く入ろう」
「えぇ!? アルトちゃん切り替え早っ!?」
「いくらニコンの料理人でもこんな所で出される料理だぞ!? 大丈夫か? とか思わないのか!?」
びっくりしている2人を尻目に俺とミーシャはさっさと宿に入った。
軋むドアを抜けた宿の中は薄暗くヒンヤリとしていた。手前には木の四角いテーブルが3つにそれぞれ椅子が2つ、奥には年期の入ったカウンターがあるが人はいなかった。中もかなりボロいが以外とキレイに掃除はしてあり埃もない。
「こんにちはー! 誰かいませんかー?」
人の気配がなかったので大声で呼んでみた。
「あっ! はーい! すぐ行きまーす!」
すぐに高い女性の声してトタトタと走る音が聞こえてくる。とりあえず人はいるようだ。
すぐに奥のカウンターの右の出入り口からひょこっとその人は現れた。
「いらっしゃいませ! お食事ですか? お泊りですか?」
その子は茶髪のショートカットで黒い目がクリクリして小さな口元にちょこっと八重歯が見える。黒のシャツの上には大きなエプロンをしていて腰のあたりを紐で結んでいる。年齢は7〜10歳位の中々可愛らしい女の子だった。
しかし、俺は少女のある一点に集中して目を見開いた!
「猫耳!?」
俺が驚く声に猫耳少女はビクッと身じろぐ。そう、少女の頭にはピンッとつき出た三角もふもふの猫耳があった。
「おぉぉぉぉぉ! 猫耳少女! 可愛い!! ミーシャから南の方には色んな獣人が住んでいるとは聞いてたけど王都にもいたんだ! おぉ!? 耳ピクピク動いてる! 本物だ! 本物だぁぁぁあ!! ねぇ! ちょっとその耳触らせて!? いい? いい?」
興奮した俺は、手をワキワキさせながら猫耳少女ににじり寄る。
「ぴぇぇぇえ!? なっなんですかこの人!? なんか怖いです! 顔がヤバめです! 耳はダメです! 耳はダメですぅ!!」
少女はそう叫びながら両手で耳を隠しながら奥に逃げて行ってしまった……。
「あぁ……猫耳少女が行ってしまっフグゥ!!?」
頭上からミーシャの容赦ないチョップがドスっと落ちてきた。
「見境なくそんな行動するなといつもいってるでしょ! まったくあんたは美人だけかと思ってたら獣人も好きなのね……」
ため息混じりの呆れ顔で俺を見下ろしてくるミーシャ。好青年から渋い爺さんまで中々のストライクゾーンを持つあんたに言われたくねぇ! 俺は健全な反応だと自負している、この体が女性なのがもどかしいが……。
あと2mの巨体から振り下ろされるチョップは、かなりの衝撃が来るので本当やめて下さい。当たりどころ悪けりゃヤバイから!
頭を抱えて悶えているとソプラとドーラも入ってきた。
「アルトちゃん何叫んでたの? 他の女の子の悲鳴も聞こえてきたけど?」
「ぶはははは! ミーシャに怒られてやんの! ぶはははは!」
ドーラはあとで締める。涙目でドーラをキッと睨む。すると背後から怒号が聞こえてきた!
「誰だぁぁぁあ!! うちの娘を泣かした奴は!!」
振り返るとミーシャと変わらない位の身長だけど筋肉ムキムキで、腕なんか俺の腰くらいありそうな黒髪短髪の髭男が血塗れの包丁とエプロンをつけてカウンターの奥に姿を現した。
「こいつです」
俺はとっさにドーラを指差した。
「あぁん!?」
眉間に深く傷跡がある恐ろしい面構えの男はギロリと鋭い眼球でドーラを睨む。
「うぉぉおい!!? ちょっ!! 違う!! 違いますからー!!?」
ドーラも必死で両手をバタつかせ否定するがカウンターからのそりと出てくる大男を見て涙目になっている。ザマァ!
「久しぶりねサコ、相変わらずおっかない顔してるわね」
ミーシャが大男とドーラの間に割って入る。
「あん!? なんだてめぇ……ん? カルロス? おぉ!? カルロスじゃねーか!! おいおい! 久しぶりだな!! がはははははは!!」
さっきまでの怒気は吹っ飛び満面の笑みでミーシャと抱き合う大男。この人もミーシャの知り合いだったのか。
「しばらく泊りたいんだけど部屋は空いてる?」
「うちは年中ガラッガラよ! まぁたとえ客がいても、お前が来るなら他の客を追い出すさ! がはははは!!」
なんとも豪快な人だ。ミーシャとここまでスキンシップ取れる人なんて始めて見たかもしれない。ミーシャは中々昔の事は話してくれない。昔、国を旅していた事とカルロスが本名って事以外は殆ど『乙女の過去は詮索しないものよ』とか言ってはぐらかされてきたのだ。
「みんな、この人はサコ。私が国を旅していた頃にチームを組んでいた1人よ。ニコン出身で料理人兼タンクとしてチームを支えてくれた人なのよ」
「がはははは! 今じゃこのボロ宿の店主だがな! この子達がお前の連れか、全員召喚魔獣試験みたいだな! 怖がらせて悪かったな! がはははは!!」
よく笑うなこの人、なんだかこっちも楽しくなって来る。さっきまでの強面が見る影もない。
「ねぇ……父さん。その人達、知り合いなの?」
カウンターに目を向けるとさっきの猫耳少女がドアから半身だけ出してこちらの様子を伺っていた。
「おぉ! すまんすまん! こっちおいで、この人達は大丈夫だ。昔の旅仲間とお連れさんだ」
サコさんが手招きして猫耳少女がこっちに来る。改めて見るとやっぱり可愛らしい。おお! さっきは見えなかったが細いシッポもある! あぁ……もふもふしたい。
俺の視線に気づいたのか、少女はジト目で俺を警戒しながら両手を重ね深々とお辞儀をして挨拶してくれた。
「改めていらっしゃいませ。娘のユーヤです。よろしくお願いします」
こちらも頭を下げて挨拶をする。
「はじめまして、アルトです」
「はっはじめまして、ソプラです」
「ドーラです。よろしくお願いします」
グゥ〜……。
挨拶と同時に誰かの腹の虫が鳴った。誰だ?
顔を上げるとソプラの顔が耳まで真っ赤になっていた。ちくしょう! こっちはもっと可愛い。
「がはははは! お前達腹減ってんだな! すぐ飯作ってやるからそこで待ってな! ユーヤ飲み物出してやれ! がはははは!」
「はーい、ちょっと待っててね」
そう言うとサコさんとユーヤは厨房に歩いて行った。
嵐のような初対面が過ぎて、空腹の中、俺たちは椅子に座って料理が来るのを待つのだった。どんな料理が来るのだろう、楽しみだ。




