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31 扉の外は……

「あぁ、ソプラさんアルトさん少しお待ちください」


特大魔石鑑定を終えてさっさと建物から出ようとした時、トランさんに呼び止められ何枚かの書類を手渡された。


「アルトさんは試験を受けてもらうのでこちらの試験会場案内図を、単属性試験の会場は西区ですね。そして、ソプラさん合格おめでとうございます。試験合格の書類と召喚儀式説明書をお渡ししておきますね。あと、もしかしたらソプラさんは王前の儀での召喚となるやもしれませんので所作についてのマニュアルもお渡ししておきます。文字は読めなければ今、私が読み上げますが?」


「ちょっとまて! 今さらっと凄いこと言わなかった!? ソプラの試験合格!? 王前の儀!? どういうこと!?」


試験を受けに来たのにソプラだけもう合格とかどういう事だ!? A級魔術士の素質があるからか?それとも可愛いからか!? てか俺も免除してください!


ソプラもなぜ? といった感じで惚けながらトランさんの返答を待っている。


「ソプラさんは4属性を扱えながら貴重な治癒属性を持っています。ここまでの人材はそういない為、不合格にしてその力を無くしてしまうのは国の為になりません。また、召喚試験後は国からの手厚い対応と処遇が約束されますので、平民からとなれば超破格対応となりますね。

そして、その中でも特に優れた人材は王前の儀での召喚儀式となります、これは大変栄誉なことであり、同時に他国に国の力を示す事となります。ソプラさんはその素質が十分にありますので先にお渡ししたのです。是非、国の為にも受けて頂けると嬉しいです」


俺たちの前に片膝を付き目線を合わせながら説明してくれたあと、ソプラに優しく微笑んでくれた。


「ソプラやったじゃん! 試験受けずに合格だってさ! しかも凄い待遇付きみたいだし!」


「えへへ、あ……ありがとうございます。でも、いいのかな? 私だけズルしてるみたい……」


「いいのよソプラ。あなたの力が認められたんだから胸を張りなさい! 頑張ったものね……」


「ミーシャ……うん!」


曇った表情のソプラの頭をミーシャがポンと撫でて励ますと、目に少し涙を浮かべたソプラが見上げて力強く頷いた。


ソプラは頑張っていた。生れながら青い目で人々に避けられ続ける日々。召喚魔獣試験で魔獣を召喚して認めてもらう為に2日おきのミーシャとの魔術の訓練も、影でこっそり毎日やっていたのも俺は知っている。


そんな努力家のソプラが俺は大好きだ。だからそれが報われたとなると俺も泣きそうになる……いかんな年取ると涙脆くなる。今10歳だけど。


「ホッホッホッ。ソプラ君、合格おめでとう。属性もさる事ながら魔量も申し分無し、立派な魔獣召喚を期待しておるよ」


あご髭をさすりながらチューバ爺さんもニカッと笑みを浮かべている。ソプラも深々と頭を下げてお辞儀をする。


「はい、ありがとうございます」


「そうじゃソプラ君、これを持って行きなさい」


チューバ爺さんがソプラに歩み寄り、渡したものは緑の札だった。


「え? 私、札貰ってますよ?」


「ホッホッホッ、表に出たらわかるわい。試験は明後日じゃから長旅の疲れもしっかり取っておくんじゃよ。じゃあ、わしは仕事を片付けんといかんから退散するわい」


チューバ爺さんは困惑するソプラを尻目に片手をヒラヒラさせながら部屋の奥へ歩いて行ってしまった。


「もう合格したのになんで別の札くれたんだろ?」

「んー? 私もわからない……」

「表に出たらわかるって言ってたぞ?」

「くくく、確かに出たらわかるわね」


ミーシャは何かわかっているみたいだ。でも、この少しうつむいて右の口角を少し上げて目は細める顔はあれだ……俺たちをからかったりする時の顔だ。

扉を出た後はどうも禄でもないことが起こりそうだ。


「ははは、確かに出たらわかりますね、すいません私はこういう配慮が足りない者でして……協会長はよくわかっていらっしゃる……。皆さん、今回の騒動は魔石の不具合とでも言っておいて下さい。では、宿に着くまでお気をつけて下さい」


トランさんが苦笑いを浮かべながら扉を開けてくれた。


一体何だったんだ? 俺たち子供3人は、大人の考えている事がよくわからないままに外に出た。



* *



今、騒動を起こし連れ込まれた煉瓦造りの建物の扉前にいます。


俺は普通持っている4大属性を持っておらず、天属性という超貴重な属性を持っているのかいないのかわからないけど、魔量は山ほどありました。


そして、ソプラがA級魔術士の才能があり早々の合格したことに、俺は自分のことのように喜び浮かれていました。


そう……そんな風に考えていた時が俺にもありました……。


「青髪と金髪癖毛の君! 是非商業ギルドに来てくれないか!?」

「いやいや! 冒険者ギルドこそ君達のような逸材が輝ける場所だ!」

「君達! アイドルに興味ないかな!? 娯楽ギルドは君達の為にあるような所だ!」

「美少女が2人……お願いします! どっちか結婚して下さい!」


扉を出ると今まで受けたことのないような賛辞と勧誘の嵐だった。人数はざっと50人はいるだろうか。怒声にも聞こえる勧誘の声は俺たちを混乱させるのには十分だった。中には変なのもちらほら混ざっていたが……。


全員あの騒動を目撃したか、それを聞いて駆けつけたスカウトの人達だった。なんでも、試験を受けるのはほぼ貴族しかおらず、町で働いてくれる有用な召喚魔獣を持つ者は貴重なんだとか。


平民の受験者もいるにはいるらしいが、良くても2属性で輝きもそこそこの者で、ほぼ家畜くらいの召喚魔獣ばかりだそうだ。


そこに平民ながら3〜4属性以上でしか出ない魔石の輝きを出し、金の札を受け取った青い髪の美少女と、町外れまで届きそうな強い光を放つ魔量が桁違いの活発そうな金髪癖毛の美少女が出たとなると勧誘合戦が起こらないはずがない。


というわけで只今、絶賛もみくちゃされまくり中です。


「ちょっ!? なんなんだよ!? あんた達!? 一回離れて!うわっ! 唾飛んでるから! 顔にかかるから離れて!! くっさ!」


「えっ!!? えっ!!? はい!? いや、待ってくだ……はぇええええええ!?」


「おお!! 俺にこんなにスカウトが!? ん? あれ? あの……俺も平民ですよー? 2属性ありましたよー? 皆さーん?」


バカは置いといて、俺もソプラも突然の事でテンパって訳がわからない状態だ。ミーシャ! 腕組んだまま微笑んでないでなんとかしてくれ! あぁ! ほら! ソプラの頭からなんか白い煙出てる! なんか出てるから!


ソプラが人から賛辞とかグイグイ来られるとか、全然慣れていないのわかってるだろ!? てかこうなる事大人ども分かってたな!? 面白そうな表情でにやけてんじゃねぇ!


俺の必死の睨みを『あら? もうおしまい?』と言わんばかりに肩をすくめ、軽くため息をつきながら口を開いた。


「皆さんお騒がせして申し訳ありません。この2人の魔石鑑定ですが、やはり魔石の不具合だったようです。ほら、2人とも札を見せてあげて」


ミーシャの言葉に、騒がしかった人達は一旦押し黙り、俺たちの出す札に注目したようだ。


あぁ、そういう事か。俺とソプラはさっき貰った赤札と緑札を目の前に出した。


「「「「「あっ……」」」」」


集まって来ていた人達のボルテージが一気に下がって行くのを感じる。


「なんだ魔石の不具合かよ。平民で金札なんかおかしいと思ったよ。今年は当たり年だから魔石を使いすぎたのかな?」

「なんだよ期待させやがって! 単属性なら召喚魔獣は期待できないな……うちはパスだわ」

「あぁ、そこの男の子。召喚魔獣で良いのが召喚できたら来てもいいよ」

「僕には将来を誓い合った心の中の恋人がいますので貴方とは結婚できません。さようなら」


するとさっきまでものすごい勢いで勧誘してきていた人達の熱が一気に冷え、蜘蛛の子を散らすかのように去っていった。


「手のひら返し、えげつねぇな……」

「こんなにたくさんの人に囲まれるの始めて……なんか怖かったよぉ」

「お……俺にもスカウトが! でも……アルトとソプラちゃんのついで感が半端ない……」


その場にへなへなと座り込む俺たち。びっくりしたのもあるが扉から出るなり、むさ苦しいおっさんに囲まれるのは勘弁してほしい。


「アルト、ソプラ、ドーラ座ってないで立ちなさい。宿に行くわよ! どうせ試験後はまたさっきと同じように勧誘されるんだからいい練習になったじゃない」


ミーシャが手を腰にあてがいニヤリと笑いながら言う。


「またおっさんに囲まれるの!? どうせなら綺麗なお姉さんがいい!」

「アルトちゃん、それなんか違うよ」

「ブレないアルトが少し羨ましいよ」


そんなやり取りをしていると正面から誰か近づいて来た。


年齢は18才くらいで、整った顔立ちのストレートブラウンの髪が肩まである女性だった。


「あのー……もし、よかったら運輸ギルドに来ていただけませんか?」


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― 新着の感想 ―
[一言] >あの……俺も平民ですよー? 領主の息子ってこの世界だと平民なのかな? 平民なら領主じゃなく地主や町長とかな気がするけど
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