30 俺の札は?
「トランさんちょっ……目が! 目が怖い!」
俺の呼びかけにも動じずにじり寄ってくるトランさん。
「大丈夫、ちょっと色々聞いたり、見たり、実験に付き合ってもらうだけだから。そう、貴族には頼めないあんな事や、こんな事とか……」
やばい! 完全に目が逝ってる! 魔術オタクやばい! 俺はあんなことやそんな事できません! あっ、チューバ爺さんこっち見た、気づいた? 助けて!
「ほう……トラン君は特殊属性専門のオタクじゃと思っておったが、魔量が多ければ無属性でも興奮するのかね?」
「いえ、私も色んな色(属性)を見てきましたが、赤子でもここまでの純白はありません。この歳でこの純白(無属性)であの輝き……もっと見ていたい、今後何色(属性)に染まっていくのか……そしてどう育っていくのか……いや、染めて見たい……無数の可能性があるのではと……そう思うと興奮が止めどなくわいてくるんですよ!」
はいアウトー! 衛兵さんこいつです! 発言が完全にアウトです! てかジジイ! 更に煽ってんじゃねえ!
「ホッホッホッ、トラン君。無属性を決め付けるのはまだ早いかもしれんよ? のう?」
「へ?」
チューバ爺さんはミーシャをじっと見つめ、トランさんは間抜けな声をあげてチューバ爺さんとミーシャを交互に見ている。
「……そうですね、特大魔石鑑定ならば、はっきりとわかるかもしれなかったんですが……トラン殿、実はアルトは『天属性』かと思われる節があったんです」
「てっ!? ……てててて!! ……天んんんん!!?」
トランさんが閃光を見た時より顔面破壊しそうなくらい驚愕している。顔の筋肉どうなってんだ、あれ?ついでにドーラとソプラもめっちゃびびってる。
「わしもさっきカルロスから聞いたので半信半疑じゃったんじゃが……魔石鑑定であの輝きとこの白さ……単に魔量が多過ぎて特大魔石ですら測りかねると言うこともあるが……。
しかし、それならば何かしらの属性があり、色も付いているはず……しかし、結果は驚くほどに清らかな白のみ……。
もしかすると、アルト君は普通持っている4大属性が無く、天属性一択なのではなかろうか?」
「協会長! 天属性なんて伝説級の属性ですよ! しかも、4大属性が無く、天属性のみしか持っていないなんて前代未聞です!」
「しかし、それしか考えられん!」
なんかチューバ爺さんとトランさんが白熱した議論大会になっている。よくわからんから説明してほしいんだけど……。
「ミーシャ結局、俺なんかおかしいの?」
腕組みしながら考え込むミーシャを見上げて聞いてみた。
「私も詳しくはわからないんだけど、普通は4大属性の内、最低でも1つの属性を持っているの。これは人、動物、亜人、魔物、召喚魔獣、全ての生き物に当てはまるわ。
でもアルトは4大属性が一つも無いのよ、生活魔法しか使えなかった謎が解けたわ。」
「えっ? でも火出したり、水出したりできるよね? 生活魔法にも属性あるんじゃないの?」
「普通は火の粉が出たり、コップ一杯の水くらいが出せる程度だから属性はほぼ関係無いはずよ。ただ、あんたの場合は魔量が多過ぎて馬鹿みたいにでかくなってるだけよ。形、速度、威力、密度などの調整を行えて始めて魔法として機能するのだから、適正属性が無い属性を扱うのは困難なの。アルトが魔法を使っても玉しか出なかったのは適正属性が無かったからなのかもね」
あー納得したわ。確かに何やっても玉しか出なかった。普通の4大属性が無いから無属性と見られると。ってことは天属性を扱えればちゃんとした魔法が使えるのか!?
そもそも天属性とはなんぞや?
「んで天属性はどんな魔法が使えるの?」
「それはわからないから、あっちに聞きなさい」
ミーシャが議論真っ最中の2人組を指差す。んー聞きたいのは山々なんだけど……ちゃんと教えてくれるかなぁ……。
「幼い子供でも、純白にシミくらいの色づきがありますよ! 現実的に純白なんてあり得ない!」
「いいや! トラン君も見たじゃろうが! あのシミも無い純白! 汚れも無いからこそ神格的な所があるでは無いか!」
あぁ……真剣に議論してる内容が聞いていると、小さい子の下着の危ない会話にしか聞こえない……。もうやだ、この人達……。
だけど、この世界で常識外れは俺……。まさか俺が腐ってんのか!? 俺がこの世界の常識をまだよく知らないから浮いてんのか!? こんな卑猥な様に聞こえるって事は変態って事なのか!?
2人に声をかけられずたじろいでいると、不意にドーラに肩をポンと叩かれた。
「なぁ、アルト。さっきからそこの2人の会話、やばく無いか?」
「アルトちゃん変態ってこの人達の事を言うのかな? なんか怖いよ?」
セーーーーフ!! 俺、間違ってなかった! この世界でも正常だった! よかった! 本当によかった! 俺の思考は正常だった! ありがとうソプラ!
よし、この変態達の目がソプラに向く前にここを出なくては! 天属性の事は後でいいからさっさと試験に出れるか内容聞いてずらかろう!
「あのーすいません。結局、俺の4大属性は無しでも試験に出れるの?」
白熱する変態達に割り込んで聞いてみた。
「おおう! そうじゃった! アルト君は魔獣召喚試験は受けて大丈夫じゃ! しかし、無属性の白の札なんてないからのう……」
「協会長、ここはひとつ属性特化組に入れてみては?あそこなら単属性ですので一応条件には合うと思いますが?」
「ふむ、確かに……。しかし、あの魔量ならば王前の儀でもよくはないじゃろうか?」
「天属性は、ほぼ情報がありませんから何が召喚されるかわかりません。
それに今年は当たり年です、諸外国からも著名な方々をお招きしていて国の威厳を知らしめる年になっています。
そこでもしとんでもない召喚魔獣を呼び出して、もしもの事があれば……王様も来賓も大変なこととなるでしょう」
「そうじゃな……天属性抜きにしても魔量が多いアルト君の召喚魔獣は他の国の目は避けたい所じゃ。一般の子供に混ざってもらう方がカモフラージュになるじゃろう」
あぁ良かった、とりあえず試験は受けられるみたいだ。試験受けれなかったらきた意味がなくなってしまう。
「ではアルトさんには一応、赤の札を用意しましょう。これで所定の会場で試験を受けて下さい。合格したら召喚儀式に入りますが、そこでは行わないで下さい。日を改めて召喚儀式を行いますので」
そう言ってトランさんが赤の札を手渡してきた。赤い塗装がされた薄い木の札だ。
「もし、不合格ならどうなるの?」
なんか秘密裏に召喚させてもらえそうだけど一応試験だし、ちゃんと受かってから召喚したい。落ちた時の事も考えておかないとね。
「召喚不可の魔術をかけられて、一生魔獣召喚できなくなります。例外はありませんから必ず合格して下さいね」
「へ?」
トランさんがニコニコしながら答えてくれた。
「まあ、単属性試験じゃからな、ほぼ落ちる事はないわい。特別目立ったり会場で暴れたりする様なことがない限り大丈夫じゃよ。ホッホッホ」
チューバ爺さんは合格を確信するかの様な高笑いをしてご満悦だ。よかった、難しい試験じゃなさそうだとりあえず合格さえすればいいんだから大丈夫だろ!
試験も受けられる話も聞いたし、試験も簡単そうだし、よかったよかった! さっさとここを出よう!
ところでミーシャ、ソプラ、ドーラ? どうしてそんな目で俺を見ているのかな? おい、ボソボソと目立たないとか無理、絶対暴れそう、落ちそうとか言うな!言うなー!