29 白
特大魔石で詳細鑑定を受ける事になった。
「でも魔石が大きくなっただけでなんで詳しくわかるの?」
ドーラが不思議そうにトランさんに質問してきた。確かに俺も少し気になった所だ、いいぞドーラ……何もないけどな。
「ん? 気になるのかい? じゃあ少し教えてあげようか。君、札は何色ですか?」
「あっ、はい。黄色です!」
「そう……ならば、あの魔石に直接手を触れてごらん?」
トランさんはドーラの背を優しく押して魔石の前に連れて行く。
ドーラが特大魔石に手を触れると魔石の中に緑と赤の光が2つ光っている。よく見ると緑の光の方が若干大きくみえる。
「ふむ、君は風と火の2属性でどちらかと言うと風魔法の方が得意かな?」
「!?……はい! そうです。風魔法は確かに得意です!」
「この魔石は大きいから1つ1つの属性がきちんと分けられて表示できるんだ、だから細かい属性相性がわかるんだよ。火は赤、風は緑、土は茶、水は青、他にも色んな色により区分けされているんだ。入り口にあった小さい魔石くらいだと色が混ざってしまって詳しくはわからないんだよ」
「へー。勉強になります! ありがとうございます!」
ドーラがお礼を言って魔石から手を離すと光は消えた、そして次はソプラかと目を向ける。
「じゃあ、先にソプラさんを見させて貰いますね、どうぞこちらに」
「はっ、はい!」
両手を前で組みながら恐る恐る魔石の前に歩いて行く。
そして、そっと魔石に触れるとドーラの時より明るく青、茶、緑……ピンク? の光が出てきた。
「おぉ!! ピンク! これは希少な治癒魔法の系統の色ですよ! しかも火以外の系統まであります! A級魔術士になれる才能ですよ! 素晴らしい!! 召喚魔獣試験が終わりましたら是非うちに来ませんか!? 歓迎しますよ!! いや! 来てください!!」
「いや……あの……あ……ありがとうございます……」
トランさんの目が輝きソプラの両手を握り賞賛の言葉をかけ、今にも抱きついてきそうだ。おいおい、ソプラが困惑顔で少し引いてるぞ……。トランさん落ち着け! そしてソプラから手を離せ!
俺は少しイラつきを抑え止めようと一歩前に出ようとした瞬間。
「トラン君、程々にしとかんと衛兵呼びかねんぞ」
トランさんの興奮冷めやらぬ所にチューバ爺さんがポンと手を肩に置き、割って入る。
「はっ! 私としたことが! ソプラさん、すいません取り乱してしまいまして。悪気はないんです! ちょっと興奮してしまいまして! 本当申し訳ありません!」
握りしめていた両手を離し、土下座する勢いで謝りまくるトランさん。
「い……いえ。大丈夫です」
ソプラはそう言うと逃げるように俺達の所に戻ってきた。
「ソプラ……お前こんなに凄かったんだな……」
「当たり前だろ! ソプラは俺より魔法の才能に溢れているスーパー美少女だぞ!」
目をまん丸に見開いてドーラがびっくりしている。何を当たり前の事に驚いているのか……。
「いや……アルトちゃん、美少女って……そんな事ないよぅ! もう……私がここまでなれたのはミーシャとアルトちゃんのおかげだよ。それにアルトちゃんの方がもっと凄いんだから!」
ソプラがちょっと頰を赤らめて俺を見てニコッと笑う。めちゃ可愛い、抱きしめたい。しかし、どうやら期待に応えなきゃいけないみたいだけど……大丈夫だろうか?俺、生活魔法しか使えないんだけど。
前を見るとトランさんが更に目を輝かせて手をワキワキさせている……いや、怖いから。次は俺となるとちょっと引く……。
俺が躊躇していると、チューバ爺さんが横に来てそっと耳打ちしてきた。
「トラン君は昔からの魔術オタクでな、珍しい系統を見ると目の色変わるから気をつけるんじゃぞ」
「そういうのは早めに言ってよ!」
チューバ爺さん、トランさんがこんな行動になるのわかってて黙ってたな! ソプラに取った行動はもう少しで切れそうだったわ!
チューバ爺さんが何か吹き込んだのを察したか知らないが、トランさんも我に帰り背筋を正した。
「いや、お見苦しい所を見せて申し訳ありません。では、アルトさんこちらに来てください」
う……。あれを見た後だと俺も少し身構えてしまう。俺も一応10才の少女だ、おっさんにうちに来いと言い寄られるのは絵的にまずい。
それに、流石に中年のおっさんに抱きつかれるのは俺でも引く……。でも、そういうわけにもいかないか。
俺はゆっくり魔石の前に立ち、さっきの閃光を思い出して、眩しくないように瞼をきつく閉じてそっと手を触れた。
カッ!!
「どわぁあ!!」
さっきと同じ白い光。一瞬の閃光が辺りを包んだ! 最初と違うのは魔石がでかくなった分、光量が増した事だ。
身構えていたとはいえ、今度は目の前だったし光量が半端ない! 目をつぶっていても眩しい! 思わず叫んで後ろに飛び上がり、そのまま尻餅をついてしまった。
「あいたたた、ゲートの時よりもすごい光ったけどどうなったの?」
まだチカチカする目をなんとか開けて、トランさんを見てみた。
トランさんは顎が外れんばかりに口を開いて驚愕していた。
隣のチューバ爺さんはいつのまにか、サングラスみたいな物をかけていたが、サングラス越しに目を見開いているのがわかった。
2人とも固まっているけど結果を聞きたい、俺はどんな属性なのだろうか?
しばらく待つと2人とも微かな声を出した。
「………………白ですね……」
「…………白じゃな……」
うん、それはわかってる。それ以上の情報プリーズ……。でも2人は、また固まってしまった……。驚きの白さ! って洗濯物じゃないんだから、いい加減教えてほしい。
「ねえ、2人とも固まってないで教えてよ。白ってどんな属性なの?」
俺の質問に気がついたチューバ爺さんがやっと口を開いた。
「う……うむ。いや……何というか……属性がな……無いんじゃ……真っ白でなーんも無いんじゃ……これが天の特殊系統のせいなのか……ありえん……それよりも、あの輝き……まさか特大魔石でも計りきれない魔量という事か……?いや……まさかのう……」
そう言うと、あご髭をわさわさと触りながらぶつぶつ考え込んでしまった。
「え? 無いって何? どゆこと? 白ってなんも無いの? おーい、トランさーん?」
訳がわからんので、とりあえずトランさんの足を揺すってみる。
「はっ! すいません! 意識飛んでました。アルトさん……あなた何者ですか!? 白色なんて有り得ません! 属性が無いなんて赤子と同じですよ! 普通、属性は赤子の時は真っ白の無属性なんですが、日々の生活をしていく中で必ず環境や性格に作用され、何かしらの属性が現れてくるんです。魔量が低い平民でも、魔量が高い貴族でも同じなんです。
しかも、特大魔石をこれ程輝かせるなんて……いったいどれ程の魔量……」
目を血走らせながら驚きに満ちた表情でにじり寄ってくるトランさん。
トランさん目が怖いです。そんな顔でジリジリ近づいて来ないでください。いや、本気で!
どうやら俺は無属性みたいです。




