28 貴重な平民
駆けつけた関係者らしき、このじいさんはミーシャと知り合いのようだった。
「お久しぶりですチューバ先生、お元気のようでなによりです」
ミーシャが深々とお辞儀をする。爺さんが小さいから、お辞儀をしてもまだミーシャの頭の方が高い。どうやらこの爺さんはチューバと言うらしい。
「いやいや、もう先生ですらないよ。しがない役所の補佐のジジイじゃよ。ホッホッホ」
チューバ爺さんは機嫌良く笑いながらミーシャを見上げて肩をポンポンと叩く。
「して、この子じゃが……とんでもないのう……どこから連れてきたんじゃ?」
マジマジと片眉をあげ俺を見てくる、なんだろう……妙な威圧感があるぞ。
「はい、この子はシーラとダンの娘です。訳あって私が預かっていました」
「ほう! あの泣き虫のシーラちゃんとダン君のか!? 成る程、シーラちゃんによく似ておるな!」
ぽんっと左拳を右手のひらに打ち付け納得のご様子だ。あんなリアクション本当にする人いたんだな……。というかこの人も両親の知り合いだったのか、以外と顔広かったんだな。
「しかし、それでもあの魔量の光量は説明が無いと理解できぬな……。それに何の含みもない白い光は……」
「それに関しましては、できれば……」
ミーシャがチューバ爺さんの耳元でボソボソと呟いたあと爺さんの目がぐっと大きくなりミーシャにコクリと頷いた。
「あー諸君、騒がせて悪かった。どうやら魔石の不具合だったようじゃ。この子達はわしが責任もって引き取るので通常業務に戻ってよいぞ」
チューバ爺さんが周りの職員さんに告げ、集ってきた野次馬も散らしてくれた。
「協会長様申し訳ありません。魔石の不具合に関しましては早急に調べます。そして、こちらは渡し忘れていたそこの青い髪の子の札になります」
ソプラを褒めちぎっていた職員さんが金の札を渡してきた。
「ほほう! 金の札とは! ソプラちゃんも素晴らしいのう! これは召喚儀式が楽しみじゃわい!」
チューバ爺さんはホクホク顔なんだけど……。
「ねぇ、俺には……札、無いの?」
まさかさっきの騒ぎで失格では無いだろうな? できればソプラと同じ札がいいんだろうけど。
「アルトちゃんはもう一度魔石審査を受けてもらうが、ここじゃできんから移動しようかの?」
チューバ爺さんがウインクして手招きしながら歩いて行く、とりあえず俺たちも後に続いてついて行った。
* *
ゲートから少し歩き、煉瓦造りの3階建ての大きな建物に入った。
そこは事務所みたいな作りで、机が並べられ中では忙しなく職員さんが書類整理に追われているようだった。
「あっ! 協会長様! さっきの騒ぎは何だったんですか?」
書類の山の中からくるくる眼鏡をかけた色の薄い赤髪がボサボサの中年男性職員さんが声をかけてきた。
「いやいやトラン君、何もないよ。ちょっとした魔石の不具合じゃよ。急に光よってパニックになっとったようじゃ」
「へぇ? 魔石が不具合? そんなの今まで聞いたことありませんよ? あ……協会長様……また、何か厄介事持ち込んできたんじゃ無いでしょうね……ねぇ!」
「いや……わしは何も知らんし、面白いことなぞ考えてもおらんぞ……」
ジト目のトランさんが詰め寄ってきたが、チューバ爺さんはプイと横を向き目を合わそうとしない。子供か!
「このクソジジイ! 今回の召喚魔術試験は12年振りの当たり周期なんですよ! 普段より倍以上の忙しさなのに、これ以上の厄介事は持ち込まないでください!」
「うっ……しかしな……これは近年では結構重要な……案件になりそうな……」
うっわ……めっちゃ怒られてる。トランさんの後ろにゴゴゴゴゴって効果音と般若の像が見えるよう……。チューバ爺さん絶対目を合わせないし……偉かったんじゃないのかよ!?
するとミーシャがその間に割って入ってきた。
「トラン殿、お忙しい中、申し訳ない。今回の騒動は私の弟子の一人が起こしたもので、先程チューバ先生に助けていただいたのです」
「やや! これは! カルロス様ではありませんか! お久しぶりでございます。あの閃光はカルロス様のお弟子様が何かされたのですか?」
トランさんの目が大きく開き、殺気のこもった表情が一気に明るくなる。
「ええ、詳細を今から説明しますので……」
ミーシャが俺に目で合図を送ってきたので俺が代わりに事の経緯をトランさんに説明した。
* *
「ほう! それは興味深い! そのような光り方は未だ嘗てありませんね!」
トランさんの顔は新しいおもちゃを与えられた子供のような満面の笑みだった。
「ほれ! わしは悪くないじゃろう!? むしろ、事態の収束を速やかに終わらせたのじゃから有難がられる方じゃ!」
チューバ爺さんがニヤニヤとトランさんを見る。
「普段の行いが悪いからですよ! ……ふむ。しかし、あの閃光は君が……。もし本当なら……。カルロス殿、もう一度アルトさんの魔量、属性を調べたいのでお時間を少々頂けませんか?」
トランさんに嘆願されたミーシャはこちらを向いて尋ねてくる。
「どうする? アルト?」
「ソプラと一緒ならいいよ!」
「ソプラさん、あなたも金の札をお持ちでしたね。是非詳細鑑定したいので来ていただけると嬉しいです」
トランさんの表情が明るくなり、ソプラにも興味を向けられる。
「ソプラもそれで大丈夫?」
「うん! 私も大丈夫だよ」
「ありがとうございます。あの閃光は魔石の不具合とは思えないので……では、ついて来てください再度こちらでチェック致します」
俺達4人はトランさんとチューバ爺さんに連れられて奥の扉に入った。
扉の先は通路になっていて両側にいくつも扉があった。連れていかれたのはその通路の1番奥にある、厳重に鍵のかかった重そうな鉄の扉の部屋だった。
部屋に入るが真っ暗だ。
「シャイン!」
トランさんが杖を振ると光の玉がいくつか出てきて散らばっていく魔法で明かりを灯してくれた。
「うわっ! でっかい魔石!」
「本当! おっきいー!」
「流石王都ね、これ程の魔石はそう見ないわ」
「……これ売ったらいくらするんだろう」
部屋の奥には高さ2mくらいのでかい魔石が台座の上に乗っていた。
「鑑定用の特大魔石だよ。入り口にあったのは一般用で、これは魔量が多かったり、属性の多い人に用いるものなんだ。普段の試験なら滅多に使わないけど今年は3回目の使用だね、やっぱり今年は当たり年だよ」
トランさんはニコニコ顔で教えてくれた。
「俺以外にも今年はこれを使った人がいるの?」
「もちろんじゃ!」
チューバ爺さんがここぞとばかりに大きな声を上げて説明してくれた。
「今年の1人目はこの王国の第2王子のビオラ様、2人目は西の領主のパステル公爵の1人娘シアン様、そして君達じゃ。」
「へぇー結構いるんだね、ちょっと特別扱いだったから期待しちゃてたんだけどなー」
子供みたいに手を頭の後ろで組み、軽く口を尖らせてみて言ってみた。
「何を言うか! 貴族でさえそうそう使うものも出てこない上に、平民でこの魔石を使うのは100年以上遡っても一度きりなんじゃから君達は特別も特別! 超貴重なんじゃぞ!」
「え!? そうなの!? 俺ってそんなに凄いの!?」
「確かに平民にこの特大魔石を使う事はありません。しかし、アルトさんの光り方は今まで見たこともない光り方でしたので、前例が無いのです。なのであの光り方を今からもう一度詳しく調べるので凄いかどうかはまだなんとも言えないですね。」
トランさんが優しく説明してくれた。
「そうなんだ、じゃあ早く調べてみよう!」
ワクワクする。俺はどんな結果が出るのだろうか?