25 眠れぬ夜
今回はドーラ回となります。
俺ことドーラは、1人テントの中で昔の事を思い出していた。
俺は町の領主の一人息子で、小さい頃から魔量が高く適性魔術も2つもあり、将来有望と周りのみんなにもチヤホヤされた。
有望な才能、裕福な家庭、何不自由ない生活、俺はなんの不満も無く自由奔放に育った。
家では暇なのでよく家に来る、商人の娘レミと道具屋の次男のファドとよく遊ぶようになった。
2人は俺の言う事をなんでも聞く、子分みたいな存在だった。
周りの持ち上げる環境と子分ができ、4才くらいには完全な有頂天に立っていた。
ある日、いつもの様に商店街で遊んでいたらオカマシスターが青い髪の子供を連れていた。
オカマシスターにはいつもちょっかい出して遊んでいたので
「やい! またきたのかオカマシスター! 今日は子分連れてるのか!?」
「いつも大っきいわね!」
「……こんにちは」
「あら、またでたわねやんちゃ坊主達。あっ! そうだ一昨日から教会に来た子がいるのよ。仲良くしてくれないかしら?」
オカマシスターのでかいスカートの後ろからおずおずとその子は出てきた。
「は……はじめ……まし……て」
サラサラの肩まで伸びている青い髪、恥ずかしそうに下唇を軽く噛み、上目遣いでおずおずと瞳を潤ませながら見て来る。そして、透き通るような吸い込まれそうな青い瞳の可愛らしい女の子だった。
ドキィ!!
電撃だ……俺の背中に今まで感じた事の無い、痺れるような感覚が頭から足の指先まで一気に駆け巡った。
魔術では無い……痺れたが嫌な感覚では無い、逆に興奮を覚えてしまうような衝撃的な感覚! 心臓がバクバク早くなっている!
俺が何かわからない衝撃を受けていると隣のレミが。
「ひい! こいつ青目じゃない! 魔女よ! こっち来ないで!」
「……あー」
大声で叫び声を聞き、俺も思い出した。メイドに読んでもらった呪いをかける青目の魔女のお話。
青い瞳の女の子は酷く怖がったようにオカマシスターの後ろに隠れてしまった。
その時俺は思った。俺はこの青目の魔女に何かとんでもない呪いをかけられたんだと!
「おい! 青目の魔女! お前! 俺に何か呪いをかけたな! このやろー!」
女の子に殴りかかろうとしたらオカマシスターに頭を鷲掴みにされた!
「おい、小僧。この子に何かしてみろ。領主の一人息子だか知らんが、私は容赦しないからね……」
目を見開きながら顔を近づけて本気で威嚇して来るオカマシスターに俺は初めて恐怖を覚えた。
「は……はい……」
さっきまでの威勢は無くなって完全にびびってしまった。あと少しちびった……。
「ちょっと! 離しなさいよオカマシスター! ドーラが怖がってるじゃない!」
「……だーめー」
助けに来てくれたレミとファドに「はいはい」とオカマシスターも手を離してくれた。
俺はそこから余り記憶が無くどうやって家に帰ったのかも覚えてなかった。
その日からだ、毎日あの青目の魔女を思い出すと胸が締め付けられるようになった。絶対呪いだ……早く呪いを解かなきゃ死んでしまう!
それからしばらく、呪いを解かせる為、三人で青目の魔女を探した。
見つける度、呪いを解けと脅したが胸の高鳴りは酷くなる一方だった。
お父様に相談して医者や他の町の教会に行き、見てもらったが何も無かった。
ご飯が食べれず、空腹を紛らわそうと寝ようにも瞼の裏にあの子がいる……。しかし何故か嫌な感覚では無い、こんなに苦しいのに……不思議だ。
だが、その感覚もあの子に脅すのでは無く、ちょっかいを出す事でだんだん和らいできた。
多分ちょっかいを出す事で呪いが解けてきているのでは無いかと思った。
そこから会う度に三人でちょっかいを出す事が習慣になった。途中でソプラという名前もわかった。胸が締め付けられる事は無くなったが、少し寂しい感じもあった。
でも、また呪いをかけられてたまらないから、ちょっかいは続けた。
そんなある日、ソプラの横に見知らぬ女の子がいた。金髪の肩まで伸びる後ろ髪が癖っ毛で、前髪が一部ぴょんと跳ねている可愛い女の子だった。
まぁ、気にもとめずいつものようにソプラにちょっかい出したら、いきなり殴られた。
「てめぇ! ソプラに何してくれとるんじゃ! このクソガキ!」
なんだこいつは!? 女の子なのに男みたいな口調で俺に喧嘩売ってきた。
俺もカチンときてそのまま喧嘩になったが……負けた……。
同い年くらいの女の子に負けた……。初めて喧嘩に負けた。いや、そもそも喧嘩が初めてだった。領主の一人息子の俺に喧嘩売る奴なんていなかったんだから。
悔しかった。初めての喧嘩、しかも同い年くらいの可愛い女の子に負けた。
俺だって男だ。プライドはあった。
それからそいつとはソプラにちょっかい出す度に喧嘩になった。
そして負けた。
俺は体を鍛えるようになった。親父に頼んで嫌いな魔術の勉強もするようになった。どんな手を使っても絶対ぶっ殺したい奴ができた。
レミとファドも
「もうやめたら? ちょっかい出さなきゃ、あっちも手出してこないよ?」
「……喧嘩……ダメ」
と言ってきたが聞かなかった。
* *
それから月日は流れても俺はあいつに勝てなかった。
体を鍛えてもその上をいかれ、町中で魔術を使ってもアホみたいな生活魔法でかき消された。
もう、あいつに勝てないのかと諦めかけていた矢先、魔獣召喚試験の紹介状が来た。
これだ! あいつに勝てないなら魔獣で黙らせればいい! 魔量はアホみたいにあるが所詮生活魔法! 勝てる! 忌々しいあのアホ毛を引き抜いてやる!
しかし、俺の思うようにはいかなかった。
なんと、ソプラとあいつも魔獣召喚試験に参加するそうだ。
あいつは生活魔法しか使えなかったんじゃないのか!? そして、ソプラも試験参加!? 青目でも試験参加できるのか!?
色々な不満もあるが、あいつらが試験に合格するはずがない。俺だけ合格して目の前で悔しがる姿を見てやる!
意気揚々と出発しようと思っていたが、何故こいつらと同じ馬車で行かなきゃならないんだ!
お父様曰く、町に王都まで護衛できる者がオカマシスターだけらしい。護衛なんか俺の攻撃魔法さえあれば楽勝なのに……。
待ち合わせ場所に行くと既に3人は来ていた。普段の修道服ではなかった。
久しぶりにソプラを見た、最近は余り買い出しにも付いてこなくなっていたから約半年ぶりくらいに見た気がする。
3人の中でいち早く、ソプラが俺に気付き挨拶してきた。
ドキィ!!?
人生2度目の電撃が走った! ソプラと初めて出会った時と同じような電撃!
また呪いをかけられた!? 一瞬戸惑ったがソプラの目を見て更に驚いた!
「目が……あれ? 茶色? ……え!?」
ソプラの目が透き通るような青目から淡いブラウンに変わっていたのだ。
その姿はいつもちょっかい出していた修道服のソプラでは無く、凄く可愛い1人の美少女だった。
胸の高鳴りは一気に跳ね上がる! それと同時にこみ上げるこの気持ちは……。
俺は自分の意識をなんとか平静に保とうと普段の悪態をついてしまう。
「ふっ……ふん! そんな格好で王都へ行くのか? まぁ……庶民だからーこの程度が限界のようだしーしかたな……ふべっ!?」
喋ってる途中でアホに殴られた。
「会うなり悪態つくのは王都では流行りなのかな? おぼっちゃま?」
「いきなり殴りかかってくんじゃねぇ! この男女がぁ!」
やっぱり俺はこいつが大嫌いだ! 絶対ぶっ殺してやる! アホ女め!
しかし、俺の胸の高鳴りは多分呪いでは無い……。
以前の苦しめられる物じゃない、むしろもっと高めさせたい挙動にかられるようだ……。
よくわからない。でも凄く確かめてみたい。試験前だからかソプラのせいなのか、ドキドキが止まらない。
そして、それは今寝転ぶテントの中でも……。
俺は心地よい高揚感の中、目を閉じて眠れぬ夜を過ごすのだった。




