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24 旅中で……

 町を出発して2日目の昼過ぎ、俺たちは魔物に襲われていた。


「アルトちゃんそっち行ったよー!」


「おう! よいしょー!!」 ズバン!


 ブギー!!


 体長1m位のミリピッグを俺がショートソードを一線、顳顬に見事ヒットして仕留めた。


「よし! 今夜のご飯ゲット!!」


「アルトちゃんお疲れ様。血抜きと解体は私がやっておくから休憩してていいよ」


「うん、ありがとうソプラ」


 ソプラの血抜きと解体も手馴れていて後処理は安心だ。俺はショートソードに付いた血をふき取り、鞘に収めてから荷車に向かう。


「まだビクついてるの? もう終わったよ」


 俺が声をかけたその先には、太い木のうろの中に頭を突っ込んで震えているドーラの姿があった。


「うっ……うるさい! その……魔物が出たから、ちょっ……ちょっとこの木のうろが安全かどうか確かめていただけだ! だいたいなんでお前らは魔物を怖がらず、普通に戦ってるんだよ! そういう仕事はあのオカマの仕事だろ!?」


「別にミリピッグなんて普通に狩で戦ってるし晩御飯の調達も大事だろ?」


 俺は鼻から軽く溜息をつき、当たり前だという感じに言った。


「ばっ……馬鹿か! 子供は10才になるまでは町の外にも出やしないんだ! 出歩くなら護衛も必要だし、魔物との戦いでも足手まといになるから体ができるまで町から出ないのが普通だ!」


「え? そうなのミーシャ?」


 ドーラの横で魔物に襲われないように見張っていたミーシャに問いかける。


「ええ、普通はそうね。10才までに魔量がある子は召喚魔獣試験の為に魔術を鍛え、魔量が無い子は剣術磨いて町の外に出るか、町中で食べていける仕事の練習をするわね。まぁ、町の人は私が魔獣を狩っていたと思っていたみたいだし。アルトやソプラは荷物持ちと思われたのかもね。だから、魔獣と戦える10才の女の子って側から見れば普通じゃない女の子よね」


 ミーシャが楽しげに俺らの現状を話す。


 おいおい、ミーシャ! やっぱりあの特訓はかなり異常だったんだな!?


 おかしいと思ったんだ! 町の子供は外に出てこないし、特訓と言われてモズクックに追いかけ回されたり、魔量が無くなるまで使い果たしたのちに、ミリピッグと戦わせるなど、死にものぐるいで乗り切ってきた。


 もちろん俺だけではなくソプラも一緒にだ。


「やっぱりあの特訓普通じゃなかったんじゃないか!」


「あらあら? 今頃気づいたの?……まぁいいじゃない、お陰で強くなったしご飯も取れたし一石二鳥ね! ははははは!」


 ぐうぅ……。確かにあの特訓があるからこそ、今の実力がある事には否定はしないが……。


「はぁ……まぁいいや。おい、ちゃんと自分の食う分は働いてもらうからな! ソプラといっしょに解体手伝ってくれ」


「なっ!? なんで俺がそんな事やらなきゃならないんだ!?」


「……やらなきゃ今夜のご飯抜きだからね」


「ぐっ…………わかったよ……やるよ」


 そう言うとドーラは渋々ながら、ソプラといっしょに解体を手伝っていた。


「あらあら、最後は意外とすんなり行くのね。あのおぼっちゃま……」


「ふん! 魔物にびびってご飯抜きが嫌だったんだろ? ……ん? あいつソプラに近づきすぎてないか!? またちょっかい出していじめてたら承知しねーぞ!? クソガキめ!」


 休んでいた俺も直ぐに解体をしている2人の間に割って入って行った。


「ふふふ、みんな可愛いわね……」


 ミーシャは和かに3人を見つめていた。



 * *



 その晩……


 ミリピッグの肉を使ったトマーとワインの煮込みを作った。


 ミリピッグのぶつ切りを煮てアクを取り、トマーとワインと自家製コンソメを入れて煮込み塩で味を調整して出来上がり。


 ミリピッグは魔物だからかいつも駆け回っている為赤身に旨味がたっぷり入っている。だからシンプルな料理でも十分美味い。


 焚き火を囲い、ソプラが全員分の皿によそってくれて食べる前の祈りを捧げる。


「「「「天に召します食の神ターカ様よ、命あるものの糧をこの身の血肉と変え、生きる事に感謝を捧げます」」」」


 さて、今日の出来はどうかな?


 スプーンで肉を押すと、ほろっと裂けるくらいに柔らかくなっていた。

 一口頬張ると……


「うん、野菜の甘みとトマーの酸味がいいね。肉も程よく柔らかくて美味しい。上出来上出来」


「んふふ、アルフォひゃんの煮込みはいふ食べふぇも美味ふぃ〜ね」


「そうね、旅中でここまで美味い料理を作れるなんて思いもしなかったわ。アルトの料理の美味さは王宮の晩餐会でも十分通用する味だわ」


 ソプラは口いっぱい頬張りながらとろけ顔になっている、料理はこの顔を見る為に頑張っているようなもんだしね!


 ミーシャの評価は有難いが、所詮は大衆定食屋の店長くらいの実力だ。王宮の晩餐会なんて無理無理。


 ふと、気づくとドーラが俺たちをじっと見ていた。


「ん? どした? 食べないのか?」


「いや、外でこうして食べるのが初めてなもんで……」


「へー、そうなんだ。みんなで食べると美味しいぞ! 冷めるから早く食べな」


「お……おう」


 そうして一口……。


「……っ!? ……うまい……」


 ドーラが目を見開いて一言言ったのちバクバク食べ進める。


「どーだ? 美味いだろ? いつぞやの教会の炊き出しが不味いって言ってた事は訂正してもらえるかな?」


 俺はドーラに勝ち誇ったように言った。


「くっ……悔しいが料理の美味さは……認めてやる。でも、勘違いするなよ! 魔術の扱いなら俺が上だって事をわからせてやる! 召喚魔獣試験で見返してやるからな! ……おかわり!」


 あっという間に空になった皿をソプラに渡す。


「はーい、ドーラ君もいっぱい食べてね」


 ニコッと笑い煮込みの入った皿を返すソプラ。


「う……うん」


 焚き火の光のせいか? ドーラの顔が普段より赤いのは気のせいだろう。


 王都まで残り5日、ワクワクと緊張が高まっていくのを感じながら夜はふけていった。

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