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22 出発前夜祭

 俺とソプラが召喚魔獣試験に参加する事がわかって一週間、この事はあっという間に町へ知れ渡った。


 毎年試験はあるものの、試験を受ける為の魔量が一定値ある者が、平民から出て来ることはあまり無い。


 以前、試験を受けに王都に行った者が10年前に1人いたらしいが不合格だった。ベルンから試験合格者は50年は出ていないという事で受験する者が3人と言うのは町上げての大イベントでもあった。


 召喚魔獣試験はそれ程、難しい試験なのだ。


 後もう1人は誰かって?町の領主のドラ息子、ドーラですよ。性格はあれだが、コネでも使ったのだろう。まぁ攻撃魔法も使えるから才能はあるのだろし……。


 だがこの前、また商店街で鉢合わせた時は「召喚魔獣でお前達をビビらせてやるから覚えてろ!」とモブっぽいセリフを吐きながら逃げて行った。


 相変わらず小物だ……いや、子供か……。


 そして、王都出発の前夜。教会の中庭に町の知り合いが集まってくれていた……


 細やかながら、試験の前夜祭をミーシャが開いてくれたのだ。中庭に大きめのコンロと金網を用意してバーベキュースタイルだ。


 食材は、朝からお花摘みに出かけて獲れたての豚獣のミリピッグ、1mある鶏のモズクック、野菜、俺が焼き上げたパンとハンバーグ。


 調理はミーシャに任せると大惨事になるのが目に見えている為、俺とソプラが調理していたが、途中で近所のおばちゃん達が変わってくれた。


 おばちゃん達と変わる前に俺は少し薄めのハンバーグを焼いて、パンにレタスに似た『レスタ』トマトに似た『トマー』と自家製ソースをたっぷりと塗ったハンバーグを挟み2人分のハンバーガーを作り、片方をソプラに手渡して椅子に座る。


「んん〜! やっぱりアルトちゃんのはんばーがーは最高だよぉおぉ〜! 毎日食べてもいいよぉ〜」


 なんとも幸せそうにハンバーガーを口一杯に頬張るソプラを見て、胸キュンするがどこかカラ元気なような感じだ。


 俺もハンバーガーを食べながらあたりを見回す。


 参加人数は老若男女合わせて50人くらい。全員この町で知り合った人達ばかりで、この教会によく足を運んでくれる大切な信徒様だ……。


「しばらくアルトちゃんの飯が食べられなくなるかもしれない! しっかり食べて胃液を養おう」

「アルトちゃんの飯がなくて就活できるのか……いや、やらなきゃ……カタカタ」

「この飯をもし王都の奴らが口にしたら間違いなく婚姻話が来るじゃろうて……うーん、うまい」


 うん……色々聞き流しておこう……。


 人間観察していたら、前からのそのそと肩を組んだ二人組がやってきた。


「はははは! アルトもソプラも頑張って来るんだぞ! 合格して帰ってきたらダンと一緒に極上のエールを飲ませてやるぞ!」


「マルクさん2人にはまだエールは早いよ……果実酒でいいか? 商店街から飲みきれないほど買ってきたんだ! 少しくらい飲んでも大丈夫さ!」


 マルクさんとダンはすでに出来上がっていた。


「えーっと……あのー。私達……まだ飲酒は……ねぇ、アルトちゃんどうしよう……」

「はは、大丈夫だよ……」


 ソプラも酔っ払いの扱いには慣れないようだったが、俺は2人の後ろにいる人物に目配せした。


「どっちもダメに決まってんでしょ!」


「「ふぐっ!」」


 エール片手に絡んできたマルクさんとダンを背後からチョップで撃退してくれたシーラ。

 エールが鼻に入ったのだろう、2人とも両膝をついて噎せていた。


「さすが母さん! ありがとう!」


「まったく! 今夜は2人が主役なのにあんた達が1番騒いでどうするの! ごめんねソプラちゃん」


「いえ……大丈夫です。その……ありがとうございます……」


 火の玉事件後、ソプラはシーラが恐ろしい存在とインプットされたようで、まだおじおじしている。


「今夜はソプラちゃんに受け取ってほしいプレゼントがあるの……」


 そう言ってシーラはソプラの前に屈み込み、左指の指輪を外してソプラを見上げた。


「えっ……?」


 ソプラの目の前にはうっすらと青みかかった目をしたシーラがいた。


「この目を見せるのは初めてね。そう……あなたと一緒の青い目よ。この指輪はね、目の色を変えてくれる魔具なの。私はこの指輪のおかげで人前でも普通に生活することが出来たわ。それでも人混みや人前に立つ事は控えて生きていたわ」


 ソプラも口を噤んで真剣に話を聞いている。


「あなたの目は私よりも濃い青色だし、辛い経験も沢山あったでしょう……でも私には人前に出て、切り裂くような目線の中で注目を浴びる恐怖は想像できない……それでも試験に参加するあなたの勇気を私は心から尊敬するわ」


「シーラ……さん……」


「だからこそ、この指輪を受け取って欲しいの」


 シーラは優しくソプラの手を取り、そっと指輪を渡す。


「えっ……でもこれを貰ったらシーラさんが……」


「いいのよ、私も村に住むようになっていろんな人と苦楽を共にして来たわ。今更、目の事なんてとやかく言う人はいないわ。だから、今後この指輪は私には必要無くなってしまったの」


「……でも、こんな大切な物……」


「ふふふ、大丈夫よ。貰っておきなさい、ソプラ……」


 野太い声だが優しい口調で彼女は歩いて来た。ソプラが迷った顔で見上げる。


「ミーシャ……」


「もう、シーラは自分の道を切り開いたからその指輪は必要無いわ。そもそも、その指輪は私がシーラに自信がつくまで貸してあげたものだからね。だから、安心して受け取りなさい。」


「……でも……」


「それに、これはアルトからの提案でもあるのよ」


「えっ?」


 ソプラが困惑の表情のまま隣に座る俺を見る。


「あはは、試験の時は怖くなったら俺を見ろ! なんて大口叩いたけど、実際俺が試験の最中に不合格になっちゃったら近くにすらいられないかもしれないからね……。だから、ミーシャとシーラに手紙で相談してみたのさ」


「アルトちゃん……」


「それに、ずっと頑張ってきたソプラに合格してほしいし、その努力も側で見てきたからよくわかってる……試験に集中するには、他人のあの目はなるべく無い方がいいでしょ?」


 少し気恥ずかしくなり、ぽりぽりと頬を掻いて笑顔で話した。


「ありがとう……私、絶対合格する! アルトちゃんも絶対合格して2人で召喚魔獣を呼び出そうね! 約束だよ!」


 指輪を胸のあたりでギュッと握り、ソプラの目には光が宿ったようにやる気が満ちている。


「あぁ! 俺もサポートとは言わずに全力で臨むさ! 2人で合格だ!」


 2人でがっしりと握手をするとミーシャが俺たちを抱え上げ肩に乗せた。


「うおう! ミーシャ急にどうしたんだよ!?」

「きゃ!? ミ、ミーシャ?」


「ふふふ、2人共大きくなったわね……この前まであんなに小さかったのに……。貴方達は私の自慢よ。必ず合格するわ! 胸を張って王都へ行くわよ!」


「「はい!!」」


「みんな! 召喚魔獣試験に参加する2人の有望な少女に再度祝福を!!」


「「「「「おぉおーー!!!」」」」」


 前夜祭は大いに盛り上がった。ソプラの不安もこれで大丈夫だろう。やるからには絶対合格だ!

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