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21 ソプラの思い

 ミーシャに召喚魔獣試験の紹介状をもらった夜、俺は寝付けなかった。


「ミーシャに召喚魔獣試験は諦めろって言われてたけど挑戦もせずに諦めたくは無かったからめっちゃ嬉しいな!」


 ベットの上で紹介状を眺めながら嬉しい気持ちを抑えられずバタバタしていた。


 正直どんな召喚魔獣が出て来るかはわからないが、必ずこの世界で役に立つのならばやらない手はない。


 しかし、魔量が多くても扱いが下手ならば魔獣は暴走して多大な被害を与える事を考えると……魔量は過多、調整はポンコツ、俺は最も召喚するには危険人物になるのは確かだ。


 でも……やりたいじゃない! 無駄に男の子心擽ぐるじゃない! これだけ魔量があればドラゴンとか召喚して背中に乗って飛び回るとかやばいじゃない! 年甲斐もなくワクワクが止まらない!


 まぁ……受かればだけど……。


 コンコン……。


 1人悶えている最中ドアがノックされた。


「えっ? 誰?」


 急な訪問に声が上ずってしまった。


「私……あの、いいかな?」


 ソプラだった、こんな時間に珍しい。

 俺は急いで扉を開けに、ベットから飛び起きドアを開けた。


「どうしたの? こんな時間に……」


「ごめんね。少し話がしたくて……」


 寝巻き代わりの白いワンピースに枕を抱えたソプラが寂しげな表情で立っていた。


 俺はソプラを部屋に入れ扉を閉めた後、ランタンに火をつけ2人でベットに腰掛けた。


「……どうしたの?」


 俺は問いかけをしたが俯いたままで沈黙が続いた。

 しばらくしたら、消え入りそうな声でソプラは質問してきた。


「……アルトちゃんは……召喚魔獣試験の紹介状は……嬉しいよね?」


「そうだね、嬉しいよ……半ば諦めていたから余計にね。ソプラは嬉しくないの? 昼間は嬉しそうにしてたけど……」


「うん……嬉しいのは本心よ。でもね、正直な話、怖くて仕方ないの……」


 俺は無言で頷き、ソプラの目を見ながら話を聞いた。


「私、小さい頃海岸でミーシャに助けられてこの教会に来たんだけど、来た当初は酷い目で見られたんだ……青目の魔女の呪いと言われて酷い扱いを受けたの……」


「うん……」


「ミーシャはそんな私を庇い、時には私よりも酷い扱いを受けながら私を守ってくれたの……今は辛いけど、必ず魔法を使えるようになって、みんなから認められる存在になりなさいって……認められれば必ず報われるって。だから召喚魔獣試験の為に必死に魔法を覚えて頑張ってきたの……」


「うん……」


「そのおかげで、今は周りに認められて、青目の魔女の呪いだーって事も余り言われなくなってきたけど……まだ、たまにドーラ君みたいに毛嫌いする人はいるんだ……どんなに笑顔で頑張っても、どれだけすごい魔法を覚えても……」


「うん……」


「嫌われるのは慣れちゃった……でもね……あの鋭く嫌悪感をもつ目線がまだ慣れないの……。召喚魔獣試験は大勢の前でやるんでしょ?……私……怖くて……怖くて……試験に受からないかもしれない……せっかく……頑張ったのに……不安しかなくて」


 目尻にうっすらと涙を浮かべながらまた俯いて、不安な心境を絞り出すように訴えてくるソプラ。


 確かにソプラはこの町では魔術士としてそれなりに認められ、気軽に挨拶してくれる人もいる。でもまだソプラを見つけると目線を外す人もいる。


 だが、それでもまだましな方だ。酷いやつは明らかに蔑んだ目でソプラを睨みつけてくる。この少女の何が悪いんだ。何もしていない、ただ目が青いだけだ。


 こんなあからさまな差別は実に不愉快だ。見ている俺も怒りが込み上げてくる。


 しかし、そんな状況にもソプラは折れなかった……必死に魔法を覚え、皆んなに認めてもらえるよう頑張って掴み取った試験の招待。


 俺は……おまけに過ぎないのに1人浮かれていたのが恥ずかしい。隣にこんなにも必死な少女を見ていたのに……バカだ……俺は……。


 いつのまにか、ソプラの頭を抱きしめていた。


「ソプラ……皆んなの目、怖い?」


「……うん。怖いよ……」


「じゃあ俺の目は怖い?」


「……ううん、怖くないよ。アルトちゃんの目は凄く安心する……」


「なら……もし怖くなったり、不安になったら俺を見て。必ずソプラを見てるから……そしたら、他の目は見なくていい。世界中の人がソプラを酷い目で見ても、俺は絶対にソプラが傷つくような目では見ない……だから安心して」


「うん……ありがとう。私、アルトちゃんがいてくれて本当に良かった……」


「俺こそありがとう……ソプラがいたから、ソプラの笑顔を見たかったから、ソプラの頑張る姿を見ていたから魔法も料理も剣術も頑張れたんだよ。だから何もできない俺が召喚魔獣試験を受けられるのもソプラのおかげなんだ……ありがとう」


「……うん……」


 お互い無言で抱きしめあい、どれくらいの時間が経っただろうか……とても心地よく、ずっとこのままでいい、とさえ思う時間が過ぎた。


 いつのまにかソプラは腕の中で眠っていた。


 俺はベットへソプラを寝かせてシーツをかけてあげた。寝顔は、まだあどけない少女だ……口では強がって言ってはみたものの試験での目線は確実にソプラにとって障害だ。


 俺に出来る事はないか……? ランタンの火の揺らめきの中静かに考えた。










 しばらくした後、親心とも、なんとも言えない責任感を感じながらソプラの頭を撫でてベットから降りて扉の前に立った。


「ミーシャ……いるんでしょ?」


「あら、よく気づいたわね……」


 扉の向こうにはミーシャが扉に寄りかかって立っていた。


「ソプラは強いね……俺と出会うずっと前から戦っているんだから」


「そうね……あの子は私達とは比べ物にならない程の過酷な人生になるわ……だからこそ幼少から鍛えてきたわ……あの子は、強くならなきゃいけない。技量や力ではなく、精神的にね」


「わかってるよ……それでもまだ小さな女の子だ……俺はソプラの支えになるよ」


「ふふふ……素敵なナイト様ね……ソプラはあなたが来て変わったわ。明るさと前向きな考え、向上心とがむしゃらな考え……全てあなたのおかげよ。召喚魔獣試験をクリアしたらあの子には大きな道が開ける……ソプラを任せるわよ」


「任せといて。でも今のままなら不安が大きい……ミーシャ、一つお願いがあるんだけど……」


「何かしら?」


 そのままミーシャは俺の考えを聴いてくれた。


 ソプラには必ず合格してほしい。俺は全力でサポートするだけだ!

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