205 臭いスープ?
「お貴族様がお祭りで賑わう屋台の商品ぶちまけるなんて……コイツがなんかしたのか?」
俺は鍋を抱える少年の前に立ち、腕組みしながらナリーを睨みつける。
「ふん!! 何かしただと!? 僕はね、この神聖な祭りにドブ臭いスープを出す店を排除しにきてあげたんだよ」
「嘘だ!! いきなり来て、ここに自分の屋台出すから退けって言ってきたんだろう! 屋台の場所が気にいらないからって横取りなんて横暴だ!!」
「黙れ!! 僕はそんな事言った覚えは無いぞ? 悪臭振りまく店が通りの入り口付近にあり食欲無くなってしまうと通報があったから、ここの区画屋台責任者であるパパの代行で僕がわざわざ出向き、皆んなを代表して退けと言ってあげてるんだ。勘違いされては困るなぁ」
「そうだそうだ臭え臭え! 早く店仕舞いしてその場所から退きな!」
「ナリー様が嘘つきだと!? 庶民が偉そうに!!」
「怪我する前に臭いスープ持って帰んなぁ!!」
ナリーの取り巻きだろうか? やたらガラの悪そうな連中が人混みの中から野次を飛ばしてくる。
「とっ、父さんのスープはドブ臭くなんか無いやい!!」
「おーおー、お前の親父もそうだが貴様も頭と嗅覚が絶望的なんだなぁ? いいか? 周りを見てみろぉ、どっちが正しいと思う? 僕を止めようとする奴なんていないだろぉ? 空気読めよヴァーカ!」
そういうとナリーは仰々しく腕を広げて、嘲るように少年に笑みを向ける。
「くぅ!! 嘘だ!! 皆んな父さんの屋台仲間なんだ!! そんな事思ってないやい!!」
周りを見ると野次るやつらと見物するやつはいるものの、屋台仲間らしき人々は苦虫を噛み締めるように目線を合わせずナリーを止めようとする奴はいない。
まぁ、親の七光お貴族様のコイツに歯向かえば自分の屋台にも飛び火するかもしれないから何とも言えないんだろうなぁ。
しかし、少年は貴族のナリーの言い草にも噛みつき今はどっか行ってるのか姿の見えない親父さんの為に必死に屋台を守ろうとしている……なかなか肝がすわっているな。
どれどれここは首を突っ込んだよしみとして、いっちょやったりますか。
事情を聞き、解決するにはやはりグーパンだなと結論をだし、腕を捲りながら一歩前に出ようとすると。
「お待ちください。屋台の配置変更及び営業への口出し等はターカ教総本部で固く禁じられています。屋台の貸し出しを行なっていらっしゃるナリンキン男爵様でも例外はございませんが?」
「あぁん!? 僕に口答えするなんてどこのどい……つ……だ?」
俺の背後から軽く怒気を孕むかのような低い声が降り注ぎ、ナリーはイキリ散らかしていた目線が徐々に上がるにつれて語尾が弱くなっていく。
そりゃそうだろう。顔を隠した修道服の上からでもわかるほどゴリゴリの肉体派巨漢から繰り出されるデスボイスは中身を知る俺でも震えるよ。
ただ、この声はナリーだけに注がれてるものじゃないじゃない……半分は一発かまそうとした俺にも注がれてるやつや。
その証拠に背筋に冷たい汗がつたい、気配を察したムートは我関せずと言わんばかりに頭の上で丸くなっていやがる。
「ご存知ないのであれば総本部へ同行し、確認いたしましょうか?」
言葉遣いは丁寧なのだが、相変わらずの低い声は、これ以上関わるなとナリーに思わせるには十分であった。
「……っ!? ッチ!! もういい!! き、今日はこれくらいにしといてやる!! そこのアホ毛とでかい修道女!! お、覚えとけよ!!」
更なる圧が降り注がれ、ナリーは捨て台詞を吐きながら取り巻きと一緒に去って行った。
曲がりなりにも中級魔術を使えるやつだ、ミーシャの圧力で力量を知ったのだろう。まぁ、これで騒ぎは治ったからよしとするか。
俺はふぅっと一息ついた。
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