204 誰だっけ?
お祭りの準備中、屋台では何やら揉め事の様で、見るとすでに騒ぎを聞きつけ人だかりができていた。
「やめてください!! 祭り中に食べ物を粗末にするなんてバチ当たりですよ!!」
「黙れ!! 食べ物を人が食えない物にして粗末にしてるのはどこのどいつだ!! 匂いからして反吐が出そうだ!! っこのっ!!」
「あぁ!! やめっ……やめろぉおおお!!」
グワァン!!
「ん?」
何かを蹴飛ばしたかの様な音と共に、人垣の上から悲鳴と湯気が立ち上る鍋がこちらに降ってきた!!
「ソプラ危ない!!」
「きゃぁ!!」
『クックゥ!?』
俺は咄嗟にソプラを庇うように身を挺した!!
がっ! その刹那、俺の前に2つの黒い影が横切るように割り込み、すごい速さで宙に舞う鍋の中身を掬い取った!!
「ふぅ、危ないなぁ!! 溢れる所だったよ」
「「ターニャさん!」」
「おぉお!」という周りの人達の歓声と共に、鍋とロングスカートの裾が優しく舞い降りる。
すごい、あの一瞬であれほどの具材とスープを一滴もこぼす事なく鍋の中に収めるなんて!
食べ物に関する事ならターニャさんは、普段以上のポテンシャルを発揮するよなぁ。
『ムグムグ……ゴキュ。ふむ、多少獣臭さは残るが我はこれくらい野生味溢れる味は嫌いではないぞ』
「てめぇはどさくさに紛れて食ってんじゃねぇ!!」
フワリと頭の上に舞い戻るムートは呑気に鍋の味の感想を語る。
ったく!! 咄嗟の出来事とはいえ、よくあの一瞬で食えるもんだな。
しかしまぁなんだ、ターニャさん今日は赤か。白いロングスカートの中の紅一点はなかなか映えるものが……あ、ソプラの訝しげな目がこっちを見てる。ぼく何も見てないし記憶もないよぉーホントだよー。
と、ソプラの目線から逃れていると。
「ありがとうございます!! あのっ!! 火傷とかお怪我はありませんか!?」
人垣をかき分けて店主であろう少年が涙をうかべて、無事だった鍋に抱きつきながらターニャさんに感謝している。
「いや、礼には及ばない。だが、早く鍋に蓋をしてくれないか? 我慢の限界がきて一瞬で飲み干してしまいそうだ」
ヨダレが滝のように滴り落ちとるぅ!!
ターニャさんは鍋と感謝を述べる少年の方など見ず、必死に握り拳を固め食欲を抑えているようだ。
そうだよねぇ、参拝するまで食べちゃダメなんだもんねぇ、結構いい匂いするし敬虔なターカ教信者のターニャさんには酷だよねぇ。
「あの子ここまで動ける子だったのね。なかなか良い動きしてるわ」
ミーシャはミーシャで別のことに感心してるみたいだ。
そんな中、人垣が割れて一人の男が現れた。
「くそっ誰だ!! 邪魔しやがっ……て、お前は!?」
「ん?」
鍋を蹴り飛ばしたであろう派手な装飾品をつけた男が俺を見て驚愕の表情を見せた。
「あの、どちら様で?」
「貴様っ!? まさか忘れたのか!?」
こんな悪趣味成金みたいな格好したガキなんて知らないけどなぁ……あ、でも後ろの護衛みたいなため息ついてるおっさんはなんか見覚えがあるぞ。
ソプラを見ても首をプルプル降ってるし……さて、誰だっけ……。
「ごめん、思い出せないや」
「ナリンキン・ナリー様だ!! このアホ毛ぇ!!」
あ、思い出した。こいつムートを召喚する前の魔獣召喚試験でソプラにちょっかい出してきた成金野郎だ。
面白いと思っていただけましたら、イイネやブクマ、感想など頂けると嬉しいです!
また、下記の☆などをクリックして評価などをつけていただくともっと嬉しいです!
よろしくお願いします!




