201 隊長との話
すっかり日も落ちあたりが薄暗くなりながらも行き交う人々は御前試合の熱気が収まらりきれないのか、はたまた酒も入っているのか熱弁を繰り広げている。
そんな中、私は一件の大きな店に入るなり主人に個室に通された。
「お疲れ様でした。カルロス先輩」
「あぁ、こっちこそ無茶してすまなかったなマルシス」
一目でわかる身なりの良い服を着ている男が立ち上がり深々とお辞儀をするが私はそれを制した。
彼の名はマルシス。御全試合の対戦相手ジャイオンズの隊長にして、現国王陛下直属近衛師団隊長を任される男だ。
「とんでもない。試合を申し込んだのは私からなんですから、ご謙遜なさらずに。さぁ、どうぞこちらに」
テーブルには酒と数々のつまみが用意されていた。
席に座り、まずは試合の健闘をたえて乾杯を交わし適度に冷えたエールが喉を潤す。
「たった半年で8軍の選手をここまで鍛え上げるとは思ってもいませんでした……さすが先輩、完敗です」
「現近衛師団隊長が頭を下げることじゃない。私もまさか勝つとは思っていなかったんだ。アルトは良いも悪くもこの国を引っ掻き回してくれるよ」
「例の子ですね。あの投法には驚かされました。ですが、決して打てない球じゃなかった……ジャイオンズはまだまだ鍛錬する必要があります」
「お前の鍛錬思考は相変わらずだな。あまり虐めすぎると大隊の士気が下がらないか?」
「いえ、今回の敗北で日頃の鍛錬を怠っていた事を自覚したようで、皆目の色が変わりましたよ。特にジャビッツは効果覿面でした」
「彼は元々ドン底から這い上がってきた選手だ、目が覚めれば私以上に魔球を極める選手になる才能はある」
「ここ最近は成長が滞っており、国民にもちやほやされすぎて鍛錬を怠っていたんです。ですがある事がきっかけであの子と因縁がついた事でこのような荒療治の場を思いついたんです」
「……アルトはどんな事でも首突っ込みすぎる所がたまに傷だな」
「ですが今回の件にしても、あの子がこの国にもたらす恩恵は計り知れませんよ。魔力も発想も行動も規格外で驚かされるばかりです」
「恩恵は確かにそうだが、それによる弊害と諸々の後処理を片付ける私の身にもなってほしいもんだよ。ソプラと一緒に穏やかに暮らす予定だった計画がパーだよ」
私はあけっぴろげに両手を上げ肩をすくめる。
アルトが来て国が変わってきたのは事実だ。
バハムートを使い流通量と速度が格段に上がったおかげで国内の物流の大河が生まれた。
それに伴い人々の交易も増し、国民の生活が地方も含めて豊かになっている。
生活に余裕が生まれると娯楽に興じる人々も増え文化が発展し、更に国が成長していく。
アルトはそれがわかっているのか、はたまたただ楽しんでいるのかわからないけど、その分野にも非凡な才能を発揮して今回の御全試合の勝利やナカフ音楽祭優勝などもしている。
わすが10才の女の子とは思えない才能だ。
それ故に恐ろしさもある。
アルトがその気になればバハムートを使いこの国を力で掌握する事だって、国の物流をカードにして国王より権力を持つ事でさえやろうと思えばできてしまうのだ。
でも、アルトはそれをしない。
なぜなら、アルトはソプラを1番に思っているからだ。
何事にもソプラを念頭に置いて行動している。
それはアルトがまだ子供だからか、達観した母性本能からなのかはわからない。
それでも一際青い目をして人々から避けられる存在でもあるソプラを愛している光景は私の心も温かい物に包まれるような感覚だ。
「彼女の扱いはカルロス先輩にしかできませんから。……我々はそれを狙う悪き輩の排除に力を注ぐだけです」
マルシスはさっきまでの会話と違い鋭い目を向けてくる。
なるほど、ここからが本命の話か……。
ここから私は、マルシスと明け方まで話し込む事になったのだった。
やっと魔球編終了ー!!長かった……リアルに。
次回は少しプロット煮詰めて再会します!!
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