20 紹介状
ここまでのあらすじ。
大昔に暴れ回った青目の魔女の飼い主と同じ、膨大な天の魔力に目覚めたのではないかと思われるアルト。
撃退したリエルの復讐から身を守る為、ソプラとおかまのミーシャが住む教会で暮すことになる。
飯当番、お花摘み、身を守る為の訓練など日々の生活を送るが、使える魔法は全て玉、玉、玉……さて、どうしたものか。
俺は食堂で朝食を食べ終えた後、ソプラと炊事場で皿のあと片付けを行なっていた。
「じゃあアルトちゃんお願いね」
「あいよ!」
そう言って、いつも通りの生活魔法を発動する。
俺とソプラの間に50cmくらいの水玉を浮かべ、中に勢いよく水流を発生させる。
そこに軽く石鹸をつけた皿を俺が入れると、水玉の中で洗浄され綺麗になった皿がソプラ側から出てくる。
洗い終わった後は乾燥の為に風玉に同じように皿をくぐらせる。玉の中で吹き飛ばされた水滴は玉の下から滴り落ちて排出される。
3人分の皿はあっという間に綺麗に乾燥まで終えて食器棚に収められた。
「アルトちゃんの生活魔法は本当、便利だよねー。洗浄水玉や乾燥風玉なんて私、想像もできなかったもん」
食器棚に皿を入れ終えた俺に、後ろから眺めていたソプラが少し羨ましそうに言ってくる。
洗浄水玉と乾燥風玉は俺が編み出した生活魔法だ。
魔法で食器洗と言えば、皿とブラシと石鹸が一列に並び、音楽に合わせて洗れていくディ◯ニー的なあれを想像していたが挫折。生活玉魔法を食器洗浄機にできないかと工夫して出来たオリジナル生活魔法だ。
「そんな事ないよ、魔量はあっても生活魔法でこんな事しかできないんだし。俺にとってはソプラの攻撃魔法の方が魅力的に思えるよ」
「そうかなー? こんな平和な町に攻撃魔法や防御魔法なんていらないんじゃないかって思うよ。町付近の魔物もアルトちゃんは剣術で倒せるし、アルトちゃんと比べると私ほとんど取り柄がないよぅ」
軽く口を尖らせ、拗ねるようなその仕草は俺のハートをキュンキュンさせる。
ソプラは普段、落ち着いて周りをよく見ている気遣い上手な女の子だ。
だが、俺と2人きりだと時折、こういう子供じみた行動をしてくる時がある。
もうね……たまりません!
「ソプラはその年で既にB級並みなんだから十分凄いと思うんだけど……それに、強くなる必要はないよ! 未来のお嫁さんは俺が守らなきゃね!」
「また言ってるー、女の子同士は結婚できないよ!……そりゃアルトちゃんが男の子だったら……よかったのになぁとは思う……けど……っは! 無し! 今の無しぃ!!」
俺のニヤついた顔に気づき、ソプラの顔が一気に真っ赤になり、隠すように両手で顔を覆う。
毎度ながら、わざとかと思うような天然デレに俺は更にデレデレだ。本当、男だったらと常に思う……。
「はいはい、朝からイチャイチャしないの」
『『ドキィ!!』』
いきなり背後からミーシャが野太い声で声かけるから心臓飛び出るかと思った! ソプラとの桃色時間を現実に戻さないでください!
「ミーシャど、どうしたの? 炊事場に来るなんて珍しいね」
ソプラもビックリしたのだろう、声が上ずっている。
「えぇ、さっき手紙がきてね……2人ともおめでとう、王都から魔獣召喚の儀式の紹介状がきたわよ」
「「えっ!? やったー!!」」
ソプラと顔を見合わせて抱き合って喜んだ!
2人とも紹介状が来るなんて思ってもみなかった。なにせ俺は生活魔法以外はポンコツなのだから……
ミーシャは俺の魔量には文句無いが、コントロールが出来ていないので召喚魔獣の儀式を行えばとんでもない物を召喚しかねないと思い推薦はしていなかったのだ。
魔獣召喚の儀式は10歳になった国内の魔法が使える子供は王都に集められ魔獣召喚の儀式を行うことができる。
但し、全員が出来るとは限らない。人格や魔量のチェック、魔法技術などの試験に合格した者が召喚儀式を行える。
更に、この試験はかなりの狭き門だ、10歳に1回しか受けられない上、かなりの人数がふるいにかけられ、召喚出来るのは一握りの有能な人材のみとなる。
これは魔獣がこの世界にとって有益な役割と危険因子が隣り合わせな所にある。
例えば、ダンのジャイアントバイソンのジムだが重い物資輸送などには1頭で馬の10倍の働きがある。
家畜系統の魔獣なら農作業の手伝いや、同系列の家畜のボスとなり、召喚者の命令を伝えられるなど生産性が向上する
中でも飛行能力を持つ魔獣は1%にも満たないが国の軍隊の空軍入りのエリートコース、国家間の移動手段や物資の輸送など利便性は限り無い。
よって、普通の魔術士より格が一つ上がる、召喚魔獣のランクにより、使える魔法が未熟でもC級〜A級が確定する。召喚魔獣持ち=将来有望となり縁談や就職にも引く手数多だ。
その為、魔量の多い王族や貴族の子などは、より良い召喚魔獣を従える為一流の家庭教師を雇い、召喚魔獣を従える為に己を磨く訓練を幼少の頃よりやらされるのだ。
召喚魔獣は全てとは限らないがプライドが高く、召喚者が魔獣に舐められると言う事を聞かない。なので扱う召喚者には器量と性格など、召喚魔獣を使役する器も必要となってくる。
更に一度暴れ始めると手が付けられなくなるので、ほいほいと召喚してしまって逃げられると野生化して近隣諸国にも迷惑がかかり世界情勢に影響が出てしまうのだ。
なので、召喚魔獣は悪用されたり戦争の要因となる為、各国で厳しい取り決めと情報を共有している。
但し、全てをさらけ出す訳ではない。強力な魔獣=軍事力ともなれば、他国に知られない方が脅威となり、切り札にもなりかねないからだ。前の世界でも常識だ、手の内をペラペラ喋れば、対策を練られて攻め込まれる、そうなれば守る術も無い。
このように、有益ながら非常に危険な存在ともなりうる為、表向きの貴族や庶民は公開召喚をして自国の豊かさと戦力アピール。そして、召喚者と魔獣を早い段階で国が管理登録、優遇処置をする事で他国に流出を防いでる仕組みとなっている。
「ソプラは以前から魔法の才能がある事は私も領主には報告していたんだけどね、アルトの方はこの間の商店街での騒動がかなりの噂になっていたからねぇ。誰かが領主に報告して推薦していたんだろうさ」
ミーシャはやれやれといった感じだ。
「アルトちゃん2人で頑張ろうね! 実は1人で人前に出る事、不安だったんだ……でも一緒だったら私、もっと頑張れるから!」
「うん! 2人ですっごい召喚魔獣呼び出して勝ち組路線に乗るぞー!」
「アルトちゃん……勝ち組路線って何?」
こうして2人で召喚魔獣の試験を受けに王都に行く事が決定したのだった。




