197 ゲームセット
『土埃の中から現れる逆転の小さな弾丸! その名はマース!!ホームベース前の攻防を予期していたのか!?逆転をかける栄光のダイヤモンドを駆けるのかーー!?』
コンディーさんの熱の入った実況が聞こえてくる。よかった、マース来てくれたんだな。
そう、俺はこの瞬間にかけた。
マースは必ず走り込んでくると信じていた。
だからわざと派手に立ち回り、俺に注目を集めさせたのだ。
それもコレも新しく追加された魔球の新ルール。
3アウト後に残塁している走者は残塁宣言をしない限りそのまま試合続行。
最初は馬鹿げたルールかと思ったけど最後の最後に助けられるルールとは思わなかったぜ。
アウトになった時点で俺の役割は終わりだ。
あとはこの男に命運を任せよう。
「頼むぜキャプテン!! 試合を決めるのはお前だぁ!!」
* *
もう少し! もう少しでホームベースッス!!
僕はヒットの後、全力疾走でダイヤモンドを駆け抜けた。
カウウがダウンしてる以上次のイニングは回ってこない。つまりこのイニングが最終回!
捕手のバルガウォールさんの鉄壁の守備をアルトちゃんなら突破口を見つけ出してくれるはずッス!
それまでに1秒でも早く走れっ!!
足がもつれようが、息ができなかろうが、心臓が張り裂けようが走れ!! 走れ!! 走れ!!!!
キャビナスのキャプテンは僕なんッス!
砂埃を抜けた先のバルガウォールさんの股下にうっすらとホームベースが見えた。
「マースぅ!!」
ジャビッツが睨みを効かせながら叫ぶ。
球を持ったジャビッツがあそこにいるなら間に合う!!
この勝負もらったッス!!
小さな身体を更に縮ませ、ホームベースめがけて飛び込んだ!!
が。
「うぉおおおおおお!!!!」
「バルガウォールいいぞ! そのまま投げろ!!」
「いや!? ちょっ!? 嘘ぉ!?」
「うぇ!?」
バルガウォールさんが雄叫びを上げながら球を持って飛び上がったジャビッツとアルトちゃんごと僕めがけてはたき落としてきた!?
そんなのめちゃくちゃッス!!
でも、もう止まらないッスーー!!
* *
ドガァン!!
『ホームベース上で繰り広げられた魔球の攻防!! 最後に笑うのはどっちだぁー!?』
コンディーさんのその言葉を最後に球場は誰もいないのかと錯覚するほど静まり返った。
みんな最後のクロスプレイの行方を息を飲み待ち焦がれている。
俺たちの最後の攻撃はうまくいったのか? どっちなんだ!?
俺もマースもジャビッツも盾のおっさんも審判に注目した。
体感として人生で1番長い一瞬だったかもしれない。早く結果を教えてくれ!
サラサラと砂埃が晴れていく中、審判はニヤリと笑い、声高らかにコールした!
「セーフ! セーフ!! セーーフゥ!!!! ゲームセットォォォオオオオ!!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
球場が壊れんばかりの絶叫がビリビリと球場を埋め尽くす!!
「やった!! やったぁ!! アルトちゃん達がかったよぉ!!」
「凄いわソプラ!! 私こんな興奮したの初めてよ!!」
「よっしゃー! アルトちゃん!! 最高ー!! コレでお肉食べ放題だー!!」
『ぬっ!? 勝ったのか!? ならばおい赤いの!! 早く肉食べ放題に行くぞ!!』
「わぁああ!? ムートちゃんまだ行っちゃダメだよぉ〜!!」
みんな腹の底から祝福の声援を送ってくれている……よな?
もう力を使い果たして全く動けそうにない。
隣で悔しそうな顔を浮かべるジャビッツと目をつぶってふぅと息づく盾のおっさん。
タイミングは本当ギリギリだった。でもこの数センチの為に必死で走り込んできたマースを賞賛したい。
「マース、ナイスラン。流石キャプテンだぜ」
「何もかもアルトちゃんのおかげッス……でも、もう動けないッス」
「あははは、俺もだよ」
ホームベース上で寝転び見上げる空はキラキラと輝いていた。
俺たちは勝ったんだ。
ついに決着!!長々とお読みいただきありがとうございました。次回からこの章のエピローグを描いて終了となります。
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次回更新は12/25予定です。




