191 アルトの最終打席
カウウは一言そういうと意識を手放し、俺に倒れかかってきた。
「うおっ!?」
咄嗟に受け止めたものの、か弱い少女の俺ではカウウの巨体を支えるにはサイズが小さかった。
やばい推し潰されそう! みんな助けて!! と思った瞬間、カウウの巨体がスッと大きな腕に持ち上げられた。
誰だ? と見上げると盾のおっさんだった。
「あ、ありがとう」
「礼はいらぬ。この者の【一点止心】見事だった。魔球人としての敬意を示すだけだ」
「……へへ、でもそれは起きた本人に言ってくれないかな?」
始めはキョトンとしてしまったが、盾のおっさんの態度は好感が持てるものだった。
その後カウウは観客の拍手に包まれながらベンチで寝かされ、前のバッターが代走として出塁し試合続行となった。
『1番ピッチャー、アルトちゃん』
ウグイス嬢の風魔法で拡散されるアナウンスが球場を巡り、打席に入ろうとするとこの日1番の盛り上がりを見せた。
「ついにあの子に回ってきた!! こりゃ大逆転の一発もあるぞ!?」
「ジャビッツ様ー!! そんな小娘早く倒してー!!」
「弱小チームが最後まで食らいつく展開……泥臭いが嫌いじゃねぇなあ!! いいぞ!! ぶちかませーー!!」
熱気が狂気に変わるのではないかと思える程の応援と罵倒がビリビリと肌を刺してくる。
そんな中、俺はある一点を見つめた。
「お嬢の見せ場だ!! 野郎どもジャンジャン盛り上げろ!!」
「「「へいっ!!!!」」」
「逆転さよならホームランでご褒美の肉パーティだー!!」
『そうだ!! 早く肉パーティーだ!!』
「アルトちゃんとジャビッツ様……どっちを応援したらいいんですのーー!?」
そこには俺の応援の為に必死で曲を演奏するバハムートオーケストラのみんな、既に打ち上げパーティーを想像して涎垂らしてるターニャさんとムート、なんかオロオロしてるシフォンちゃんがいる。
でも、そんな中で一番目を釘付けにしたのは。
「アルトちゃん!! 頑張れーー!! ホームランだよぉーー!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら青い髪を揺らし必死に応援してくれるソプラの姿。
はいッ!! 勝ち確定!! もう俺無敵です!! ホームラン? 余裕でございます!!
あんな健気でかわいくて素晴らしい応援見たら体力の限界なんて吹き飛んで、むしろ全快120%の力しか出ないわ!!
残念だったなジャビッツ……今の俺はどんな球が来てもスタンドに叩き込む事しかイメージができない。
最高の応援を貰いながら打席に立ちジャビッツを睨みつけると、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ていた。
「さあこい!! ジャビッツ!! 最後の勝負だ!!」
俺は気合を込めて剣を構えた!!
ジャビッツは打たれると観念したのか、ゆったりとしたフォームで投球モーションに入った。
なんだそのやる気のないフォームは!! そんなんじゃ場外まで飛ばしちまうぞ!!
「……ん?」
放たれた球は、予想と違ってなぜかゆるい放物線を描き少し離れた位置に移動したキャッチャーの盾のおっさんのミットに収まった。
………………。
一瞬静まり返る球場。
あれ? 思考が追いつかないけど……コレってまさか……。
『なぁあああああんと!! ここでまさかまさかの敬遠だぁー!!!!!!』
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!?
盛り上がっていた球場は阿鼻叫喚と変わった。
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次回更新は10/2になります。




