190 カウウのゾーン
「カウウが吠えた!?」
「あんなの今まで見たことないッス!!」
「目ぇ真っ赤だぞ!? 大丈夫か!?」
ベンチで身を乗り出しながら応援していた俺たちは、目が飛び出しそうな程驚いていた。
なにせどんなにやからかわれたりしても温厚だったカウウが、感情を爆発させているのだ。
「おい! マース!? あれヤバイんじゃないか!?」
「わかんないッス!! ただ、興奮して魔力も上がってるみたいッスけど妙に落ち着いた感じもするッス」
「やっと覚悟決まったか……次が命運分ける一球になるわね」
「「「「「「「「監督!?」」」」」」」」
ミーシャはカウウの変化についてなにか知っているようだった。
でも、命運を分ける一球と言う言葉に全員が固唾を飲みカウウを見るのだった。
* *
「おぉ? なんだカウウ? 球を止めれないのがそんなに悔しいか?」
ジャビッツがニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ている。
既に吹っ飛ばされたストライクと、球を後ろにそらしてしまった事で2ストライク。
残り4球、全ての球の勢いを殺さないとここでゲームセットだ。
ジャイオンズのファンの人たちの「あと一球! あと一球!」というコールで球場は盛り上がりを見せている。
しかし、そんな事も気にならないくらい僕は集中していた。
ジャビッツの動き一つひとつが、ゆっくりになり細部までよく見える。
監督との特訓を思い出せ!!
僕は盾を片手に持ち替え、足を広げて腰を落とし、ゆっくりと深く息を吐き、ジャビッツを見据えた。
「ッチ……嫌な目つきしやがって。そんな丸い盾なんかで俺の球が……止められるかよぉ!!」
ジャビッツが放つ球が真っ直ぐに向かってくる。
目で追うのもままならないほど早いはずのに、今は球の模様まではっきり見える。
「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
僕は咆哮と共に球の中心に盾を突き当てた!!
高い金属音のような音と火花が飛び散り、盾に球の重みが伝わってくる!!
……っぐ、重い!
球がドリルのように回転し、盾に穴を開けそうな勢いで押し込んでくる!
腕がミシミシと音を立てて軋み、盾も摩擦で赤く熱を帯びてきている。
だけど……負けられない!!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「なにぃ!?」
咆哮と共に強く押し出した盾は球の回転と勢いを完全に殺し、グランドに球を垂直に落下させた。
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!?
一瞬の静寂の後、観客の驚きと驚愕の叫びがビリビリと球場を揺らした!
『っす、凄いーー!! あのジャビッツの球を完璧に殺しました!! ここまで完璧に球を殺す一球はそうそうありません!! チューバ様! やはりあの盾に何か秘密があるのでしょうか!?』
『うむ、本来魔球で使用される盾は球を後ろに反らさぬよう、受けやすい平面か少し凹型になっとるものがほとんどじゃ。あのように丸みを帯びた凸型だと当たりどころが悪ければ受けるどころか弾かれるだけじゃが、一つだけ突出した物がある』
『突出したもの!?』
『全ての力を一点集中する事ができるのじゃ。それにより少ない筋力や魔力でも豪球に耐えうる事が可能になる』
『なんとあの盾にそんな秘密が!! しかし、力を一点集中させるだけであそこまで完璧に球を殺すことが可能なのでしょうか!?』
『ホッホッホッ、確かにそれだけでは球を殺す事すらできん……アレは的確に急所貫いて勢いを殺す盾技の一つ【一点止心】』
『【一点止心】!? 魔球の盾技にそんなものがあるんですか!?』
『いや、本来は魔球ではなく決闘で用いる技じゃ』
『決闘ですか!?』
『勢いを殺す対象が人や剣か球かの違いじゃが、大きさが違うから当てる事すら困難な為、使う者が少なくなっていった技じゃ』
『そんな難しい技をどうして8軍であるキャビナスのカウウ選手が使用できるのでしょうか!?』
『あの目じゃな』
『目!?』
『牛の獣人の特徴なんじゃが、彼はあるゾーンに入ると目が真紅に染まり度し難い集中力を発揮するんじゃ。今まさにその力を発揮しておる状態じゃな。
しかし、このゾーンに入るには血の滲むような鍛錬が必要なはずじゃ……この日の為、相当頑張ったのじゃろう』
『何ということでしょう!! チームキャビナスのカウウ選手!! この土壇場で藁をも掴むゾーン突入ー!!!! 出塁すれば次のバッターは……!!』
大興奮の観客の声が響き渡る中、僕はジャビッツの投げる一球一球を全力で殺していった。
そして。
「デッドボール!! バッターは一塁へ!!」
「クソッ!!」
ジャビッツが悔しそうにマウンドの土を蹴り上げた。
「よっしゃー!! よくやったカウウーー!!」
「カウウ凄いッスーー!!」
「ガヴヴーー! ウェッウェッ……グス」
そう、僕は耐え切った……集中力が切れた途端みんなの声が聞こえてきて次に繋げられたんだと実感した。
その時、たった数球の打席だけど、今まで感じたことの無いほどの疲労感が襲ってきた。
カクンと膝の力が抜け前に倒れ込むと、巨漢な僕を咄嗟に受け止めてくれた小さな女の子がいた。
あぁ……もう安心している自分がいる。
もうクタクタで動けない僕はその子に笑ってお願いをする事にした。
「あとは〜まかせた〜よ、アルトちゃん」
「おう!! 任せとけ!!!!」
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次回更新は9/18予定です。




