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19 喧嘩の結末

 ドーラは領主の息子ながら中々の魔量を持っていて、魔術もかなり扱える優秀なおぼっちゃまだ。

 しかし、街中でチヤホヤされ過ぎて天狗になっていた。


 ある日、ソプラの青い瞳に絡んできた所で俺と喧嘩になり、撃退した事でやたら目をつけられるようになった。完全な逆恨みだ。


 因みに俺はドーラの言う通り攻撃魔法も防御魔法も使えない。

 全ての属性の初級から上級の魔法をミーシャに習い、詠唱してみたが全て『玉』毎日努力してみたが大きさを調整できるくらいで相変わらず玉ばかりだった。


 ミーシャからは『ここまで魔法が不器用な人は見たことないわ、魔量があるだけに酷く勿体無いわ……』と肩を落として言われ、悔しがられた。


 俺だって好きで不器用じゃ無いんだよ……なんで出来ないのかもわからないんだよ……あぁ……泣けてくる……。


 そこからは、身を守る為の護身術を習った。主に攻撃魔法を躱す身のこなし術、対人護身術、木刀での剣術、魔法による身体強化などだ。


 ミーシャの指導は分かりやすく、俺もこっちが性に合っていたみたいでみるみる腕を上げていった。

 こんな強く教え方も上手くて、なんでシスターなんかやってるんだろうと本気で思う。



* *



「あとで泣いても知らないからな!! ……我が心風の源より……」


 そうこうしてるうちに、ドーラが後ろに飛んで距離を取り、詠唱を始めやがった。こいつ……本気でこんな街中で魔法ぶっ放すつもりか?


「ドーラのバカ! あたし知らないよ!」

「怒る……ダメ……」


 そう言いながら取り巻きのミレとファドも、ドーラから巻き添えを喰らわないよう、左右に分かれ距離を取る。


 さて、身体強化で間合いを詰めて詠唱をキャンセルさせれば楽だけど、今回はちとやり過ぎだ、少しお灸を据えてやらねばいけないようだ。


「貫け! ウインドランス!!」


 ドーラの掌から風で模られた緑に光る一本の槍が勢い良く俺めがけて飛んでくる! 距離は約5m、避けられ無くもないが、避ければ後ろのソプラに当たってしまう。


「アルトちゃん!」


 ソプラが腕を取り一緒に避けようとしたが身体強化で踏み止まる。

 俺は迫り来る風槍とドーラを睨みながら

「ふぅ……」1つため息をついたあと魔法を発動した。


 ぼしゅっ!!


 風槍は俺の目の前で一瞬で消え去った。


「んなっ!!!!?」

「えええ!??」

「………………っ!!?」

「「「「おおおぉおぉ!!?」」」」


 ドーラ、ミレ、ファドが仰天しているが周りのギャラリーも一緒に仰天している。


 俺は防御魔法は使えない、使えるのは生活魔法のみだ。しかし、規模が規格外だけどね……。


 目の前には直径1mの炎玉ができていた。

 真円を描いた炎玉の中は目まぐるしく渦を巻いており、まるで生き物のように中でうねっている。

 炎玉から放出される熱は全て上空に昇るように調整して、周りは熱くないようにしてあるおまけ付きだ。


 風槍は炎玉に取り込まれ一瞬で拡散され消え去ってしまったのだ。


「アルトちゃん……魔法……」


 ソプラが困り顔で腕を握ってくる。


「大丈夫。これは正当防衛だから。先にあっちが仕掛けてきたんだし文句言わせないよ」


「でも……」


 ソプラがチラッと目線を周りに送る。

 俺も周りに目をやると、見ていた全員目ん玉引ん剝いてフリーズしてる……。


(ありゃ……? やり過ぎたか?)


 実は、ミーシャに町中での魔法は禁止されていた。規模が規格外で目立つので、リエルに見つかるとも限らないからだ。


 周りの反応に戸惑っていたら、ドーラが

 逸早く正気に戻ったようだ。


「おっ……おまえ! 生活魔法しか使えなかったんじゃないのか!?」


「そだよ、俺は魔量がちょっと多いみたいだから。少し大きい火の粉を出せるだけだよ」


 人差し指をくいっと上に向けると炎玉もヒョイと持ち上がる。


「そんなデケェ火の粉があってたまるかぁ!!」


 ドーラのツッコミに周りのギャラリーもコクコクと頷く。


「まぁ実際、生活魔法なんだし何言われてもね。それより……さっきお前泣いても知らないからなって言ってたよね?」


 そう言ってニヤリと笑ってみた。


「うっ……!? そ……れは……」


 ドーラは顔が青ざめて、汗が噴き出している。


「因みにコレ、生活魔法の火の粉だから何か燃えるものに着火しないといけないんだよねー……今、目の前によーく燃えそうな服着た人がいるんだけど……どーしよーかなー?」


 人差し指で炎玉を揺らしながら、ゆっくりとドーラに歩いていく。

 もちろん満面の笑みで!


「はひぃ!? ……うわっ!! ……いゃ……やめ……!?」


 ドーラが慌てて尻餅を付いた。そのあともずりずりと俺から離れようと必死になって尻を引きずって後ずさる。


 それでも構わずジリジリと歩いていく。


「アルトちゃん! もういいよ! かわいそうだよ!」


 ソプラの慈悲も分かるが、こういうのぼせ上がった奴は一回きっちりお灸据えないといけないのだ。


 目の前に立つと、もうドーラの顔は涙と鼻水でグチャグチャだった……。


「さて、こういう時に聞こえる言葉が聞こえないんだけど? どうしたのかな?」


 ドーラを見下しながらもう一度ニッコリ笑う。


「はひ!? あっ……あの……その……。ご……ごめんなさい!! 許して下さい!!」


 観念したのか額が擦り切れんばかりの土下座で謝ってきた。この世界に土下座ってあったんだな……。

 これでこいつも反省しただろう。全く……親の顔が見てみたいよ。


「よし。じゃあ許し……」

「ゴォラー!!!! アルトー!!!! 何やってんのー!!!!」


 ドーラに許しを出そうとしたら後ろから頭を鷲掴みにされた。

 久しぶりに聞くその声は、今までにないくらいの怒気をはらんでいらっしゃった。


「あらー母さん久しぶりー……。ずいぶん早かったのねー……」


 炎玉がシュンと消え、鷲掴みにされた頭をゆっくり回すと、そこには般若の面のようなシーラさんがいらっしゃいました。


「久しぶりーじゃない……こんな街中で炎玉振りかざして弱い者イジメなんて……いつの間にか自分のこと、俺とか言うようになってるし……どんどん不良娘化してるじゃない……」


 シーラさん、そんなに低くてドスのある声出せるんですね。僕ビックリです。


「アルトちゃんのお母さん……違うの! アルトちゃんは……」

「ソプラちゃん! 今、アルトと大〜事なお話してるから、ちょっと待っててね」

「……はひ」


 ソプラはシーラの笑顔の威圧により一瞬で服従させられてしまった。


「いゃあ! ソプラ! 頑張って! 俺の弁明できるのはソプラだけな……のぉおぉおおおおぉおぉ!!?」


 痛い! 痛い! 痛い!! 頭割れるぅ!!


 シーラのアイアンクローがコメカミをみしみしと締め上げ、持ち上げられる。


「あなた達、うちの子がごめんなさいね。今からキツく締めとくから、また遊んであげてね」


「「「はい……」」」


 ドーラを助けに来たミレとファドも顔を引きつらせながらも素直に返事をした。


 シーラは振り返り、俺を引きずったまま教会に向かった。


(((((母さん怖えぇえぇええぇえ……)))))


 内心でそう叫ぶ3人とギャラリーであった。


 その後、教会に到着したあと拷問紛いの説教が始まり、なんとかソプラの弁明もあり2時間後に解放された……。


 いつの世も母親が最強説はまかり通るのであった。

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