182 勝利の為に
ブゥーーーーー!!!!!!ブゥーーーーー!!!!!!ブゥーーーーー!!!!!!ブゥーーーーー!!!!!!
観客の大ブーイングが球場内に響き渡る。
「なんでここで交代なんだ!! 勝負しろー!!」
「見損なったぞカルロスー!!」
「逃げんな!! 戦えー!!」
さっきまでの対戦の盛り上がりが一気に反転し、不満と怒号が飛び交うカオスな状態になってしまった。
盾の人は無言でにミーシャを見据えて立ち尽くしている。
俺は不満が爆破しそうだった! こんなにも心踊る勝負に水を差されたんだから!!
俺は怒りをあらわにベンチに走り、ミーシャに詰め寄った!
「ミーシャどう言う事だよ!!」
「どうもこうも、ピッチャー交代の指示を出しただけよ」
熱くなっている俺とは対象的に、ミーシャは至極冷静と言わんばかりに淡々としていた。
「なんで交代なんだよ!! 俺はまだ投げられる!! 盾の人からも真剣勝負を挑まれてるんだ!! ここで引き下がったら男が廃……女が廃るってもんだ!!」
「アルト……」
「グッ!?」
ミーシャが俺の右手を取り軽く握ると、全身の神経がビリビリと痺れ体が動かない。
「完全に魔力焼けね……体を酷使し過ぎたせいで全身の魔力神経が悲鳴を上げてるわ……こんな状態でバルガウォールをノックアウトできるとでも思っているの?」
いつになく鋭い目が俺を見下ろしてくる。
体がボロボロってのは俺だってわかってる……でも、引けない戦いだってあるんだ。
「やっ……やってみなきゃわからなかっただろ!? それに、俺が代わったら確実に負けちまうし、そもそも誰が投げ……」
パンっ!!
「ふぇ?」
俺の左の頬に衝撃が走り、乾いた音がベンチに響いた。
急な平手打ちに頭にのぼっていた血がストンと落ち、頬を押さえてミーシャを見た。
「思い上がりも大概にしな。お前一人で戦っているとでも思っているの?」
ミーシャはそう言うと顎でくいッと後ろを見ろと促した。
見ると、みんなは各々守備の連携の確認をしていた。
その目に恐れや不安は無く、真剣に勝つために何をすべきかを考えているようだった。
「もっと仲間を……チームを信頼するのね」
そうだ、俺はなんで1人でやらなきゃと思っていたんだ。
今まで苦楽を共にしたチームを信じないでどうするんだ。
確かにこんなボロボロの俺が頑張っても盾の人には勝てない。ミーシャは一球で俺の状態と盾の人の力量差を判断し、交代を告げたただけに過ぎなかったんだ。
この試合に勝つ為に。
球場の雰囲気に呑まれ、一時の感情で視野が狭くなっていた自分が恥ずかしい。
「ごめん、ミーシャ。ありがとう」
「お礼は勝ってからにしてちょうだい。しっかり守ってきな」
「押忍!!」
俺はベンチを後にし、最後に盾の人に歩み寄り言葉をかけた。
「ごめん、真剣勝負やりきれなくて……」
盾の人は俺の言葉を聞くと、片膝をつき俺の太ももくらいの大きさがある右手の小指を目の前に突き出してきた。
「その体で見事な一球だった。客はわかっていないようだが、カルロス様の判断は冷静で間違いない。今度はお互いベストな状態でお手合わせ願おう」
その佇まいは正に騎士の鏡の様に見え、盾の人の敬意が込められているのがわかった。
「うん、約束する!!」
俺は小指の先をガシッと掴み固い握手をして再戦を誓った。
そして、俺は代わった選手の守備位置につき、心の中でエールをおくる。
……次にマウントに上がったのは。
* *
冷たい汗が背中を伝い、足がガタガタ小刻みに震え、手に汗が滲む。アルトちゃんはこんな緊張感の中で投球していたのか。
カウウと投球練習を終えマウンドから見下ろす景色は、今まで守っていた所より広く高く特別な場所だと言う事を実感する。
次のバッターが大手を振りながら観客にアピールしてからこちらを見据えて話しかけてきた。
「どうだ? そこから見下ろす景色は? 中々いいものだろう?しかし、まさかお前と直接対決となるとはな。カルロス様もこの対決を盛り上げてほしいと願っておられるようだ……なぁ、マース?」
「ジャビッツ……」
僕とジャビッツの因縁の直接対決が幕を開けようとしていた。
ボツネタ供養
アルト「ぶったね!?親父にも打たれた事……いや、あるわ。めちゃくちゃぶたれまくってたわ……」
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次回更新は6/5となります。
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