179 仲間の思い
最終回のマウンドで投球前に足場を慣らしながら、俺はこの回をどう乗り切るか考えていた。
点差は一点のみ……打順は1番からなんだが、1人でも塁に出してしまうとあいつに打順が回ってきてしまう。
4番ピッチャー、ジャビッツ。
ったく、高校野球かよ! プロ魔球なんだろ!? 普通ピッチャーなら体力温存する為に後打順だろが!!
目立つからか!? 舐めてるからか!? おちょくってんのか!? ……とも思ったがコイツはしっかりと4番の風格がありやがる。
実際、ジャビッツとの戦績は三打数一安打と抑えてはいるが、打ち取ったというような当たりは一度もない。
完全初見の打席からでも、しっかり剣の芯を食うような鋭い当たりのものばかり。
アウトにできたのも、たまたま守りやすい所に球がいってくれたからだ。
それに、後半の方が球が重くなっているにも関わらず、打球も外野に運ばれている。
だから絶対アイツの前にランナーを出すことはできない。
球を重くする事でスピードが落ち、打たれる事も多くなってきたし、守備も頑張ってくれたんだけど球が重くなるにつれ打球を捕球する事も難しくなってきている。
今の球の重さは成人男性の砲丸投げの球と同じかそれ以上……例え身体強化を駆使して捕球したとしても、小柄な体躯での送球は間に合うかどうか。
やはり、俺が押さえないと。
決意を固めて投球練習を終え、大きな深呼吸をしてみんなに視線をおくると。
「さぁ!! アルトちゃん僕の方に打たせるッス!!」
「いいや!! 俺の所だ!! どんな球でも止めてみせらぁ!!」
「特訓で死にかけたんだ!! まだまだ体が動くんだから断然余裕だ!!」
みんなヘロヘロに疲れているはずなのに顔はまだ死んでない、いやむしろ生き生きしているようにも見え……あっ。
そこで俺は魔球で1番大切な事を思い出した。
そうか……コイツら今、『心底魔球を楽しんでいる』んだ。
前世で野球をやっていた俺とは違い、みんな魔球の試合は初めて。
それも俺にとってはそうでなくても、みんなにとっては最初で最後になるかもしれない晴れ舞台となる試合……。
この一試合の為に、みんなで何ヶ月も血反吐吐く特訓を連日続けてきたんだ、楽しまないなんて損だよな。
「へへ……俺が忘れてどうすんだよ」
俺は大きく息を吸い、めいいっぱい声を張り上げた!!
「お前ら! 背中は任せたぞォ!!!!」
「「「「「「「「ドンと来いヤァ!!!!」」」」」」」」
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
俺たちの掛け声と審判の合図と共に客席のボルテージも一気に上がり、ビリビリと空気が振動して体を叩いていく!!
大きく腕を後方に振りかぶりながら玉を練り上げていき、ステップを踏みながら腕を一回転させ重い球を射出する!!
ズバーンッ!! という音と共に、空を切る剣とカウウの構えるミットに球が収まる。
よし!! まだ球は走ってる! いける!!
一球投げ込む毎に歓声とため息が混ざり合う球場の中、なんとか2人を討ち取り試合終了まで後1人!! という所まできた。
「アルトちゃんあと1人ッス!!いけるッス!!」
「あっ……あの一軍に勝てる……」
「俺この試合に勝ったら、たらふく肉を食べるって決めてるんだ!」
球場もあと1人コールが響き渡る中、みんなが声を掛けてくれるんだけど、なんでフラグっぽいの立てまくるの!? やめて!!
確かにあと1人で試合は終了なんだけど、次のバッターが中々出てこないのと、ジャイオンズのベンチがやけに落ち着いてる。
まるで勝利を確信してるかのように帰り支度したり、談笑してるやつまでいる。
恐らく代打を使用してくる気なんだろうけど、そんな態度を見ると気持ちがざわつき、背中に嫌な汗が流れていく。
ック! あと1人なんだぞ!! ここまで投げてきたんだから根性見せやがれ!!
俺は決意を固め、長い待ち時間の末やっと審判から代打が宣告された。
そして、その人物を見た瞬間俺は絶句したのだった。
そういえば4/12でバハムートの宅配便が投稿して4年経ちました。まさかここまで長く書き続けるとは思ってもいなかったんです。これも読んで頂いてる読者の方々のおかげでございます。本当にありがとうございます。
ペースは遅くダラダラと続いてる作品ですがラストまで書き切るので今後もよろしくお願いします。
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