170 決意の咆哮
「ムート、出せ」
『うむ』
ムートが尻尾をクルッと回転させると、大きな光の輪が後方に展開されドスンッと地響きを立てながら巨大なスピーカーが現れた。
「なんだあの箱!!」
「おい! あの箱って!! ナカフ音楽祭で使われてたデカい音が出る新型魔道具じゃ無いか!?」
「やっぱりそうだよ!! あの頭にドラゴン乗っけてる子ナカフ・ターカ教会合唱団でピアノ弾いてた子だよ!!」
「合唱団の子がなんで魔球の試合に出てるんだ!?」
ざわつく観客を尻目にマイクをマースに渡す。
使い方は事前に教えている。
マースはマイクを握りしめて小刻みに震えながらゆっくりと喋り始めた。
「本日は我々チームのご要望をお受けいただき、誠にありがとうございますッス。我々は、王都の誇る由緒ある憲兵の中でも短所の多き半端者共の寄せ集め……いざ戦場で成果を上げられるかわからない、弱き者たちッス……」
マースの震える声がスピーカーを通じて球場に染み込むように広がっていく。
普通の風魔法ではこんな声なんかは風の音にかき消されてしまう所だけど、俺の作ったスピーカーはクリアにマースの想いを響かせる。
「先制の儀で弱音とは……これだから8軍は」
「神聖な魔球の試合をなんだと思っているんだ」
「風魔法も使えないキャプテンなど笑えるな」
「う……」
マースがジャイオンズの奴らのヤジに言葉が詰まり次の言葉が出てこない。
頑張れマース!! 試合前に負けんな!!
俺が目で励ましてもマースの目は右往左往して焦点が合ってない。
いかん、ここにきて緊張がピークに達したのかマースの臆病な地が出てきてしまった。
どうする!? 今さら俺が変わる事もできないし、声かけたらマイクが声拾っちゃうし。
なんとかマースを立て直す方法を考えていたら。
『何をやっておる。ほれ、頑張らんか』
ムートがマースの後頭部を軽く尻尾でペチンと叩いた。
するとマースの目の色が戻りマイクをグッと握りしめる!
「しかしッ!!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
さっきまでの様子がガラッと変わり、いつも練習で出していた腹から出る声に戻る。
いいぞ! ナイスだムート!!
「そう言われるのもこの試合で最後ッス!! この日まで血反吐吐く程もがき倒した我々が、今までの全てを覆すッス!!」
さっきまでおどおどしていた態度が一変し、徐々に語尾を荒らげながらマースのボルテージが上がっていく!
そのマースの変貌ぶりに観客が騒めき始めてきた。
「見下げていた弱者が、猛獣へと変わり! 危機感を無くしてだらけきってた喉元を食い破って貴様らに地べたの味を思い知らせてやるッス!!!!」
マースは力強くジャビッツを指差して睨みつける。
その目に迷いは一切ない、チームキャナヴィスのキャプテンの姿があった。
「覚悟しろッス!! 我々はここで、お前たちを!!」
マースがマイクを高々と放り投げると、それを合図にチーム全員が右足を力強く一歩踏み出し首を掻っ切るジェスチャーをかまし!!
「「「「「「「「「ぶっ!! 潰すっ!!!!!!!!」」」」」」」」」
全員の叫びがスピーカーを通じて増幅され、唸りを上げながら球場をビリビリと震え上がらせた!!
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
ジャビッツの時よりも壮大な歓声が俺たちに降り注ぐ!!
驚愕、賞賛、罵声、興奮、高揚。全ての高ぶる感情が入り混じり球場のボルテージは試合前から最高潮だ!
ジャビッツを見ると「上等だ……」と言わんばかりの表情でこちらを睨みつけている。
歓声が鳴り止まぬ中、互いに一礼をして後攻の俺たちは広いグランドに散らばる。
スピーカーを収納し、頭上にいたムートをベンチに下がらせて肩を慣らしていく。
そんな中、俺は自分の鼓動の速さに気づいた。
すげぇ、ナカフ音楽祭決勝よりも心臓バクバクしてるかもしれない。
でも、悪くない。こんな状況で魔球ができる興奮の方でいっぱいだ!
さあ、おっ始めようぜ。試合開始だ!!
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