167 試合の黒幕?
夕方になり試合会場に到着すると既に観客席はお客さんで満席だった。
会場の外も中も屋台が立ち並び、それぞれ個性豊かな飲食物が振る舞われていた。
『ほほー!! おいアルト!! よい匂いがそこかしこに漂っておる!! 食いに行くぞ!!』
「ターニャさんみたいな事言うなバカ!! 今から試合なんだからそんな時間ねぇ……いてででででで!! やめろ!! 行けないからって無言で頭に爪立てるなぁああああ!!」
ムートはこんな時でも平常運転だ。少しはこっちの緊張感って物を理解してくれい。
そんな俺たちは、今日の為に新調したユニフォームに袖を通してグランドで最終調整をしている真っ最中だった。
みんな試合前だけど真剣な眼差しで良い緊張感を保っている。
これも死ぬ程の練習の賜物だろう。いや、そうであってもらわないと大変困る。
しばらくすると試合前の集合がかかり俺たちはベンチの前に整列をして、その時を待った……。
* *
『王都メインスタジアムに夜の帳が下り、ひんやりとした空気を運ぶ夜風が肌を撫でていきます。
王都メインスタジアムでは試合開始を待ち侘びる観客達が期待と感動と興奮を待ち望み今か今かと待ち侘びております』
ナカフでも圧倒的存在感を出していた自称ナカフナンバー1の司会進行役、コンディーさんのよく通る声が球場内に響き渡っていく。
『既に両チームはベンチへと入り熱を溜め込んでいる最中でしょう。
しかし、この会場全体が騒がしい中にもどこか緊張の糸がピンと張り詰めているのはこの異色の対戦カードのせいでしょう……』
コンディーさんのナレーションにスタジアム全体が俄にざわつきはじめる。
『世界最高を自負するこのチームは世界最高される選手たちの最高到達点。最強でありながら一才の妥協を許さない徹底した組織力と不撓不屈の精神をもつ選手達が誇りと実力の差を見せつける!!
中でも、国中の期待を背負うスーパースターはこの人!! 類まれなる美貌と実力を有した奇跡の魔球選手!! ジャビッツーー!!』
「「「「「キャアァァァァァァァアアアアアアアア!!ジャビッツ様ぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」」」」」
紹介と共にベンチからジャビッツが出てきて手を振って答えると、会場全体が揺れる程の黄色い声援が響き渡る。
「やっぱり凄い人気ッスね」
「間近で感じるとやっぱすげぇな」
「す〜ご〜い〜ねぇ〜〜」
『世界最強と人気を誇る我が国No.1チーム、ジャイオンズが今年も栄光を掴むのかぁ!!!!!!』
「「「「「うぉおおおおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
怒号のような声援が俺たちにもビリビリ響いてくる。
あぁ、なんか懐かしい。ナカフでのステージ前もこんな感じだったなぁ。前に同じような事経験してると肝が座るってこの事かぁ。
『角して対戦相手はなんと……ジャイオンズが強すぎて対戦相手がいないという中、突然名乗りを上げた超新星!! チームキャナヴィスーー!!!!』
「「「「「ブゥーーーー!!!!!!」」」」」
一斉にブーイングの嵐が吹き荒れる。
『手元の資料によると本格的な練習を始めたのはなんと半年前! ジャイオンズの雑用係である8軍の選手達!! クズでノロマで魔球の才能もないとレッテルを貼られた者達の溜まり場だったはず……そんなチームがどうして収穫祭で試合ができるんだ!? 一体何処をどう間違えた対戦カードなのでしょうか!? いくら対戦相手がいないからと言ってもまさかの同一チームでの試合!! それも実力があまりにも違いすぎる!!まるで砂利とアダマンタイトだぁ!!』
「そうだー!!」
「引っ込めー!!」
「相手にならねぇよ!!」
さっきのジャイオンズのチーム紹介と違い観客からは罵声が飛び込んでくる。
想定はしてたけどこうもアウェイの洗礼を浴びると、やっぱり悲しいものがあるね。アルトちゃん泣いちゃうぞ。
『しかぁし!! それには重大な理由があったぁ!!』
「ん?」
コンディーさんの一言にスタジアムの罵声が徐々に鎮まっていく。
そして、充分な間を取った後コンディーさんが意味深な声色で語り出した。
『この大胆な試合を組んだ1人の男の存在……皆様はかつて魔球界に旋風を巻き起こし、数々のタイトルを総なめにした唯一のレジェンドを覚えているだろうか……!?』
「え? レジェンドって誰ッスか!?」
「まさかその人が裏でこの試合を組んだってのか!?」
「ミーシャさん!! まさかそのレジェンドと知り合いなんですか!?」
みんながこの試合を組んだミーシャを凝視する。
俺はなんとなく察しているが言わないでおこう。
『その男が今宵再びグランドに帰ってきた!! 元王宮近衛兵第1隊隊長にして魔球界の伝説!! カルロス・エーリッヒィいいいいい!!!!』
「「「「「「「「えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!?」」」」」」」」
観客とマース達の叫び声が王都に響き渡った。
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