164 最後の練習
「おーい、マースぅ!……よっと!」
俺はムートと一緒に上空からマースに近づいて目の前に飛び降りて着地した。
「うぉおおっ!? アルトちゃん!? ビックリしたッス!!」
不意をつかれたマースは思いっきり後ろに飛びのき驚いている。
そこまで驚かんでもええやん。
『ふむ、こやつ休みもせずずっと剣を振るっていたようだな』
「え?」
見ると額には大粒の汗、素振りをしていた場所はかなりえぐれていてかなりの時間素振りをしていた事が伺えた。
ははぁん、初めての試合だから緊張して何かしてないと落ち着かないってやつだな?
わからなくも無いが、明日の試合は本気で勝ちにいかなきゃならないんだから休んでもらわないといけない。
「まったく、明日は大事な試合なんだから体を休めとけってミーシャに言われただろ? ちゃんと休むのも大事な事だぞ?」
『そうだぞ戦いの前はしっかり休むものだ』
「うっ……確かにそうなんッスけど。どうも体を動かしとかないと落ち着かないというかなんというか……」
「それでも休むの! キャプテンが試合中にへばってたら元も子もないだろ?」
俺は注意の為マースに近づいて人差し指で鼻をグイッと押し上げた。
「ハハハ……やっぱりアルトちゃんには敵わないし、凄いッス」
「ん? なんだ急に?」
マースがいきなり褒めてくるのでちょっと恥ずかしくなっちまった。
「今朝までの地獄の練習の後でもピンピンして仕事してるし、女の子とは思えないくらい勝気だし、それに……見ず知らずの弱小チームだった僕たちを鍛え上げて御前試合に出してくれるなんて思っても見なかったッス」
「いや、あれは監督のミーシャのおかげだよ」
「その監督を連れてきたのもアルトちゃんッスからアルトちゃんのおかげなんッス!」
「いや、まぁ……そうだけど」
「本当に感謝してるんッス。まさかあの時の出会いがこんな事になるなんて思っても見なかったッスから。僕の行動はやっぱり間違っていなかったんだと思えたんッス……アルトちゃん本当ありがとうございますッス!!」
「い、いゃあ。あははは」
マースは深々とお辞儀をして、まっすぐに俺を見てくる。
なんか改めて言われると気恥ずかしいものがあるよね、はははは……。
でも、本当に凄いのはマースの方だ。
あれだけの地獄の練習にも音を上げず行動でチームを鼓舞し続けていたんだから。
誰よりも多く練習し、誰よりもチーム員を見て、誰よりも声を掛けて励ましていた姿を俺は知っている。
だからこそこのチームにはマースというキャプテンが必要不可欠な存在だった。
本当素晴らしいキャプテンだし誇りに思う。
……ん? なんかマースの眼光が鋭いままなんだけど? どしたん?
なぜか緊張の糸がグランドにピンと張り詰め、心地よい風が二人の間を通り抜け髪を撫でていき、周りの草木がザワザワと音を立てていく。
……あ、この空気感まさか……。
「……ア、アルトちゃん!! 実は……前から言おうと思ってたんッスけど!!」
「ひっ!? ひゃい!?」
あー!! ちょっと待ってマース!! 前からなんか熱い視線は感じでたんだけど試合前にそれはダメーー!!
それ言っちゃうとお互い試合に集中できなくなっちゃう!!爆死確実なイベントだから!! なんたって俺……。
おっさんだから!!
いや、見た目は可憐で美しい美少女ですよ!? でも完全に中身おっさんだし、俺にはソプラと言う心に決めた人がぁー!!
やばい!! なんか俺まで変な動悸が止まらないんですけど!?
緊張がピークに達し、マースが次の言葉を発しようとした次の瞬間!!
「あ〜、マ〜ス〜!いたいた〜」
「おっ!? アルトちゃんもいるぞ」
「何やって……おおおい!? マースどんだけ素振りしてたんだ!?」
「「!?」」
『なんだ?他の奴らもきたぞ?』
見ると残りのチーム全員が道具を持ちながら歩いてくる。
「み、みんなどうしたッスか!?」
「そ、そうだぞ!? なんで道具持ってんだ!?」
2人とも声が上ずってイントネーションがおかしいが気にしないでくれ!!
「なんか休めって言われたけど休み方忘れちゃってさ」
「もう練習無しじゃ生きていけない体にされちゃった感じ?」
「おい、どうした? 2人とも顔が赤いぞ?風邪ひいてんじゃ無いだろうな!?」
どうやらみんなも休みたくても体が疼いてしまうようだった。
なんだかんだでみんなやる気が満ちていて落ち着かないみたいだ。
「ったく!! みんなしょうがねぇなぁ!! いっちょ万本ノックでもいくかぁ!!」
「「「「「「「「それは勘弁してください!!!!」」」」」」」」
爽やかな風が吹く中、俺たちの最後の練習は活気に満ちていったのであった。
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