163 試合前日
対戦相手が決まって1か月、ついに明日は試合の日になった。
俺は朝の軽めの練習を終えた後、宅配便の仕事をこなしていた。
「よし! これで全部だな」
ムートの収納魔法から荷物を出し終えると、目の前には山のように積み上がる木箱がそびえたっていた。
もう見慣れてしまったけど本当ムートの運搬能力は便利だよなぁ。転生前の日本でもコイツがいたら物流王になれるわ。
「お疲れ様でした。残りはこちらで分配しますから上がってください。明日は魔球の試合ですね、頑張ってください」
「うん! デリバーさんありがとう!」
俺は運輸ギルドマスターのデリバーさんの好意で早めに上がらせてもらえることになった。
『ついに明日か。お主もあの者達も待ちわびたな』
「あぁ、やっと試合できるんだ。それもミーシャが用意してくれた最高の相手だ、万全を整えないとね!」
ムートを頭の上に乗せ、腕をグルンと回して体の調子を確かめながらギルドを出ると。
「おっ!? 気合入ってるねアルトちゃん」
「ターニャさん! そりゃ気合も入るよ!! めちゃくちゃ練習してきたんだからさ!!」
さっきまで配達の護衛をしてくれていたターニャさんが壁に寄りかかりながら声をかけてきた。
実はターニャさんも魔球が好きみたいで、収穫祭の試合の事を話すとノリノリで手伝ってくれた。
ラスト1か月の追い込み練習は今までの練習がまだマシと思える程に本当に地獄だった。
「死ぬッス! 本気で死ぬッス!!」
「からだ〜動か……ない……」
「俺の屍はここに埋めてくれ……もうダメだ……」
グランドに広がる死屍累々の惨状、知らない人が見たら戦争の後かと思うくらいだ。
ただ、そんな時に活躍してくれたのがターニャさんだった。
身の回りの世話や道具の整備など女子マネージャーとして俺たちを支えてくれた。
中でも効果を発揮したのは、指一本も動かせない程に疲弊した俺たちに薄着のターニャさんが飛び跳ねながら声援を送ってくれた事だった。
……うん、男って単純である。
なんだかんだで死にかけた俺たちにはいいカンフル剤になってくれた。
そして、ターニャさんには明日最後の仕事を頼んでいる。
とても重要なお仕事を……。
「それはそうとアノ件は大丈夫なんだろうね?」
「任せときなって!! アルトちゃんの料理のた……応援の為ならめちゃくちゃ張り切っちゃうんだから!!」
(今完全に料理の為って言いかけたな)
『こやつの思考は胃袋で行っておるようだな』
(お前も大して変わらねえけどな)
そんな会話の後、俺たちは家に帰る前にちょっとだけ上空からグランドを眺めに行った。
あの死にかけた練習も今日で終わりかと思うと妙に寂しく、センチメンタルになってしまう。
上空から見たグランドは、最初あちこちに草が生えていてとてもじゃないが魔球ができるような状態では無かった。
今では過酷な練習のせいで草すら生えていない立派な扇形のグランドになっていた。
『ぬ? アルトよ誰かグランドにいるぞ?』
「え? ……マースか?」
目を凝らすとグランドの隅で素振りをするマースの姿があった。
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