16 お花摘み
新しい生活を始めて数日がたった。
俺とミーシャとソプラは町外の街道沿いの草原に来ていた。格好は修道服だが幾分か動きやすいように袖などを捲っている。
今日はミーシャのお花摘みと言う名の狩りをしに来たのだ。
「さあ、今からこの花を摘んで私に持ってきてもらうわよ、但し一度に摘む数は5本まで。5本摘んだら私に持って来ること。もし、5本以上咲いているのを見かけたら私に報告する事。いい?」
ミーシャが太い指で器用に摘んだ先には、長さ10センチくらいの細い茎の先に赤い花弁がついた実に可愛らしい花があった。レモンに少似た柑橘系の甘い香りがある匂いだ。
花の名前は『モンの花』
この花はちょっと特殊で魔物の死骸にしか咲かない花だ。
街道沿いや町の周りには弱いながら魔物が出て来る。
それを倒し死骸を放置すると花が咲き、その匂いにつられ死骸を食べる弱い魔物が寄って来る。
そして、群がる魔物を食べる為に大型の魔物が寄ってくる。
なので、放置しておくと魔物が寄ってきて大変なので定期的に町周辺と街道沿いのモンの花を摘んで魔物が近寄らないようにしなければいけない。
ちなみに、魔物を喰い強くなった魔物ほど体躯も大きく、種子も沢山着けている為より多くの花を咲かせるという。
花が多いとそれだけ魔物を呼び寄せる匂いも強くなり、それを喰らう魔物もより多く呼び寄せることになるのだ。
どの世界にも食物連鎖はあるんだなー。
更にモンの花の種子には、微量の魔力があり抽出した油はポーションや魔道具の材料などにもなるので良い値で買い取ってもらい中々の収入源になるのだ。
ただし、この仕事は大変危険でもある。
なにせ魔物を呼び寄せる匂いを集めながら外を出歩くのだから、魔物に襲われる危険性は摘めば摘むほど上がるのだ。
普通は匂いが散らないように小さな袋に小分けしてから大きな袋にまとめ、持ち帰るのが基本的な集め方だ。
しかし、ミーシャは違う。
大きな背負かごに摘んだモンの花をポイポイ入れて行く。
俺とソプラも近くに咲いているのを摘んでミーシャのかごに放り込んで行く。
赤い花弁のモンの花は緑の草原の中でとても見つけやすく、あっという間に背負かごの半分くらいまで採取できた。
ミーシャの周りはモンの花の甘い柑橘系の香りが充満している。
「ねぇミーシャ、こんなにモンの花の匂い撒き散らして大丈夫なの?今は草原で魔物も見えないけど、この先の森に潜んでいる魔物とか匂いを嗅ぎつけて襲ってくるかもしれないよ?」
「あら? 心配してくれるのアルト? ふふふ、大丈夫よこの辺りの魔物なんて私の敵じゃ無いから安心しなさい」
ミーシャはニカッと笑い、右腕の太い力こぶを見せつけてくる。
「アルトちゃん大丈夫よ、ミーシャは凄く強いんだから!」
ソプラも自分の事のように小さな胸を張り自慢気だ。
その姿も可愛らしい。
しかし、武器も持って無いし、本当大丈夫なのかよ……っと思っている矢先、森の方からけたたましい雄叫びが響いた。
ゴケェエェエェエェエェエェ!!!!
雄叫びの方を見ると体長1m以上はあるニワトリ『モズクック』が全速力で走ってきていた。
姿形はまんま雄鶏だが嘴は鋭く、鶏冠も走るとブルブル震えている。尾羽は2〜3mはありそうでかなり長いが、走るスピードが早い為地面にも付かない。
多分時速50キロは出ているだろう。
「ソプラ! アルト! 離れてなさい!」
ミーシャは背負カゴを後ろに置き、首の骨を2、3度コキコキ鳴らしたあと、腰を落として体勢を整える。
俺とソプラは言われた通りミーシャから見える位置に距離を置いて身構えた。
モズクックは俺達にはめもくれず、勢いもそのままミーシャに突っ込んで行く。
近づいてよく見ると目が真っ赤に血走っていてかなり興奮しているようだった。
ミーシャは足は肩幅より少し広く開き腰を落とす、左半身が若干前、両腕は適度に脱力して軽く曲げる。まさに空手の構えみたいな体勢で待ち構える。
ケェエェエェエェエェエェ!!!!
モズクックの雄叫びと共に鋭い嘴がミーシャに襲いかかる!次の瞬間!
「ふん!!!!」
ミーシャの腰の入った右のアッパーカットがモズクックの顎を捉え3m程上空に跳ね上がる!
そして、そのまま回転しながら地面に叩きつけられピクピクと痙攣して動かなくなった。
「強ええぇえええ!!!!」
魔法も何も使っていない、ただのアッパーカットをカウンターで合わせ、モズクックを倒してしまった。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
ソプラが微笑みながら振り返る。その表情はどこか自慢気だ。
「うん、一発だったね。魔法も使って無いのに……ミーシャ強すぎ」
ミーシャの強さに呆然としていたら……
「アルトー! この前言っていた血抜きってどうやるのー? 手加減して殺さないでおいたから教えてくれないかしらー?」
ミーシャの野太い声に呼ばれハッとする。てか、手加減してたのか。この人魔法使ったらどれほど強いんだ?
そして、モズクックの血抜きをしている間にもう一羽襲ってきたがミーシャがあっさりと撃退。
背負カゴの中のモンの花の匂いが漏れないよう大袋に入れ俺とソプラが、大きい獲物をミーシャが二羽担いで町へ帰った。
このお花摘み……ミーシャくらいしかできないわ。




