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15 始めての料理

「さて、食事担当となったのだが何を作ろうか……」


 俺は調理設備と食材、調味料を前に悩んでいた。


 この世界の主食は大麦を使ったもの、要はライ麦パンとオートミールだ。

 あとは豆類、ひよこ豆や大豆などスープによく入っている。

 中世のヨーロッパみたいな食文化だ。


 肉はもっぱら魔物の肉だ。この辺りでポピュラーなのは、昨晩丸焼きになっていた豚獣、頭に角のあるウサギ、ニワトリみたいのもいるが体長1mもある魔物だ。


 基本、強い魔物は総じて美味いらしい。

 強いからいい物食べているからだろうか?いつかドラゴンとか食べてみたい。


 野菜も結構ある、玉ねぎみたいな『オニオ』・にんじんみたいな『キャロ』・じゃがいもみたいな『ポテ』・にんにくみたいな『ガーリ』・トマトみたいな『トマー』・セロリみたいな『セーリ』・カブみたいな『カプリ』……まぁ前世と似通った名前で覚えやすくて助かった。


 調味料はほぼ塩一択、香辛料は高級で貴族くらいしか手が出ないようだがハーブは結構流通しているみたいだ。


 そして、目の前の食材を見てみよう、野菜はオニオ、ポテ、キャロ、トマー、オニオ、セーリ各種。

 昨晩の豚獣の丸焼きの残り、牛の乳で作ったチーズ、大麦の粉、ワイン通り越したワインビネガー的な何か、調味料は塩


 これらはミーシャが狩ってきた魔物の肉を換金して購入しているようだ。


 魔物を狩れる者は町にはそうそういないらしく肉は貴重なようだ、そう考えるとかなり食材は揃っている方だろう。


 だから、余計にあの味には腹が立つ!

 これだけの食材を無駄にしているのも同じだ。


 俺もしがない定食屋だったが新メニューを考案するにあたり世界各国の料理はほぼ味見がてらに作った事がある。


 しかし、大問題がある……。


 実は……俺はこっちにきて、まだ料理を作った事がないのだ。


 シーラの横で作業を見てはいたが火のそばは危ないからと全部の作業はやらせてもらえなかった。


 火元は日本みたいにガスコンロでは無く、火力調整の難しい薪での調理だし。子供には鍋を振る力もないからね。


 だが、大見得切った以上もう後には引けない。こっちの人達の口に合うかわからないが全力で取り組もう。


 今回作るのは何の変哲も無い『豚獣の野菜スープ』である。

 鍋は振らなくていいし、煮るだけだ。

 素材の旨味を引き出すには、やはりスープだろう。


 ただ、この豚獣は血抜きしていないから、かなり獣臭い。

 臭みの少ない足の肉を取り出して煮立たせてアクを取っても何回かは洗わないと臭みが取れないだろう。


 うまくできるかわからないがミーシャの料理よりはマシに作ってみせる!


 俺はお昼までの3時間位をフルに使い、火力調整に苦心しつつも、迫り来るのアクとの戦いを制し何とかスープが完成した。


 あとは実食のみ……。




 * *




 昼食の準備をしていたら午前中の仕事を終えてミーシャとソプラが帰ってきた。


「帰ったよ! お昼はできてるかい?」


「ただいまー! うわぁ! いい匂い! お腹空いたよー!」


 食堂に入るなりソプラは目をキラキラさせ炊事場まで走り寄ってきた。

 ミーシャ以外の人が作った食事に興味津々みたいだ。


「おかえり! もうできてるからすぐに食べられるよ! 座って待ってて」


「うん! あぁ〜本当にいい匂いね。朝から楽しみでソワソワしちゃて、お仕事も早く終わらせてきたんだよ!」


 そんなに楽しみにしてくれたなら期待に応えなきゃ男が廃るってもんだね!


 俺はスープを深めの木皿に注ぎパンを配った。

 パサパサのパンでもスープと一緒なら大丈夫だろう。


「アルトちゃん早く早く! 待ちきれないよ!」


「うん、いい匂いだね。なかなか楽しみだよ」


 2人共早く食べたいのか急かしてくる。


 さて、本来なら失敗作と言える程の出来……味は薄く旨味も足りないし調味料は塩のみだ。今ある材料で出来る俺の精一杯の物だが、不味いと言われてもしょうがない……。


 俺も席に着き、全員で祈りを捧げる。


「「「天に召します食の神ターカ様よ、命あるものの糧をこの身の血肉と変え、生きる事に感謝を捧げます」」」


 俺は反応を見る為様子を見る。


 ミーシャとソプラが木匙を取りスープをひと啜りする……








「美味しいーー!! アルトちゃんこれすっっっっっごく美味しいよ!!」


 ソプラは目を見開きバクバク食べ始めた。


「凄いわね……ここまでの味は想像していなかったわ……国づきの料理人並みよ……」


 ミーシャは木皿を見つめ驚愕している。


 思った以上の反応に安堵して、俺も食事を始める。

 うん、まずまずのスープだ、日本なら客に到底出せる味では無いけどね。


「アルトちゃん……凄いね! こんな美味しいスープ生まれて初めて食べたよ!」


 目をキラキラさせてソプラが褒めてくれた。俺も笑顔で「お粗末様です」と返す。

 あぁ、ここまで絶賛されるとちょっとむず痒いが素直に嬉しい。

 料理人は相手の笑顔が1番のやる気の原点だ。


「それでね……あの……」


 急にソプラがモジモジし始めた。


「ん? ソプラどしたの?」


「……おかわり……いい?」


 すでに空になっていた木皿を両手で顔を隠すように持ち、顔を赤らめ見つめてくる。


 可愛すぎやー! もうこれで食パン3斤位いけますよー!!


 俺は笑顔で了承したあと木皿にたっぷりおかわりをあげた。


 料理は何とかなりそうだ。

 ちなみに晩御飯にハーブで臭みを抑えたハンバーグを作ったらソプラが悶絶して大変だった。


 こうして俺は無事、給仕担当となり新生活をスタートさせたのだった。

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