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14 俺の仕事

 教会に来た次の日の昼、俺は真剣に竃で昼食を作っていた。それは、今までにない程の熱意と共に……。


 昨夜は、歓迎会を兼ねた御馳走を振舞って貰った。

 豚みたいな獣の丸焼き、野菜のたっぷり入ったシチュー、食感の心地よい青菜のサラダ、フワッと柔らかなパン、ブドウを絞ったジュース。


 晩餐を食べながらミーシャとソプラには事の顛末と、ここに来る事になった経緯を話した。

 ミーシャはうんうんと確認するように話を聞いてくれた。多分、ソプラと小枝を拾ってる間にダン達から大まかな事は聞いたのだろう。

 ソプラは顔が青ざめ、涙を浮かべながら俺の両手を掴んで必死に励ましてくれた。本当いい子だ。

 その後は夜遅くまで談笑し合い、今後の話をした、楽しい歓迎会だった……たった一部を除いて……。


 その後は部屋に案内された、広さは四畳半くらい、ベッドと簡素なテーブルと椅子があり隅には持って来た荷物が置いてあり、小さな窓がある個室だった。

 生活感は無い、たまに信仰の深い方がお遍路を兼ねて泊まっていく時があるらしい。とりあえずその部屋を使う事になった。


 隣はミーシャとソプラが共同で使用している八畳くらいの部屋で、ベッドが2つ、それぞれの小さなタンスと大きめのクローゼットか1つあった。

 無駄な物がなく、奥のタンスの上に小さな観葉植物が育てられているくらいで、よく掃除されている。


 ゆくゆくは同じ部屋になるのかと聞いたら、シーラに『ソプラとは時期が来るまで寝床は分けるように』ときつく言われたらしい。そこまで俺が信用ならんのかママン……。


 そして、新生活が始まり興奮冷めやらぬ中、窓からの月明かりを横に瞼を閉じゆっくりと眠りに落ちた。


 一夜明けた朝、窓から差し込む朝日で自然に目覚めた。

 顔を洗いに水場に行くと、すでに修道服に身を包み洗濯に励むソプラの姿があった。


「おはようソプラ、早起きなんだね」


「あっ! アルトちゃんおはよう。なんだか朝から目が冴えちゃって、いい天気だし洗濯を早めに終わらせようと思ったの」


 ソプラは後光が差しているかのような爽やかな笑顔で答えてくれた。

 眩しい! その笑顔で朝から幸せだーーー!


 そんな幸せな朝のひと時に後ろからただならぬ気配がした。


「おはようアルト! ちょうど起こしに行くとこだったんだよ。朝ごはんできたからソプラも食堂においで!」


「お……おはようございます、ミーシャ」


 ミーシャの朝からパワフルな挨拶で俺の眠気も一気に覚めました。



 * *


 食堂に着くとパンとスープと干し肉が用意されていた。この世界の一般的な朝ごはんだ。


 6人がけの長机の端にミーシャ、その左右に向かい合うように俺とソプラが座った。


 そしてミーシャとソプラが手を前に組み目を閉じ祈りを捧げる。


「天に召します食の神ターカ様よ、命あるものの糧をこの身の血肉と変え、生きる事に感謝を捧げます」


 そう言って一礼をして食事が始まる。この世界で一番布教しているターカ教の食前のお祈りだ。


 家もターカ教徒だったみたいで食事前にやってはいたがもっと簡略化された物だった。手を組んで『食の神ターカ様に感謝を』てな感じだ。さっきのが本物なのだろう。


 お祈りを観察していたらミーシャとソプラは食べ始めていた、すぐに俺も食べ始めたがすぐに手が止まって俯いてしまった……。


「あれ? アルトちゃんどうしたの? 朝食食べないの?……ミーシャ、アルトちゃんやっぱり家に帰りたいんじゃ……」


 俺の食事が進んでいない所を見てソプラがオロオロとミーシャと俺を交互に見ている。


「アルト……一晩寝て現実を感じたのね。どんなに強がっていてもあなたはまだ7歳の子供なのよ。その年で親と離れ離れはさぞ辛いでしょう。でも、辛い事は親代わりの私に何でも言って……」


 ミーシャも少し寂しげな表情で俺を見ている。


 違うそういう事じゃないんだ……。親と離れ離れは別に問題ではない、ソプラと一緒に居られる方が今はむしろ幸せと思っている。


 しかし、どうしても許されない事があるんだ……。


「……ずい……」


「「ん?」」


 ボソっとこぼれた声に2人が俺に少し顔を寄せて聞き耳をたてる。









「飯がまずーい!!!!」


「「えええええええええええ!?」」


 俺は立ち上がり思いっきり叫んだ! それに、思いもよらなかった言葉にミーシャとソプラが驚愕の声を上げる!


 そう! 飯が不味いのだ!


 昨晩と今朝の飯だがおそらくミーシャが作ったのであろう。昨夜は我慢して笑顔で食べたが酷かった。


 血抜きしていないからだろうか、獣の臭さが半端ない丸焼き! シチューも野菜が煮えておらずゴリゴリしてるし味はしない! 青菜のサラダはドレッシングが最悪! なんだあの舌に残るヘドロみたいな味わいは! パンもパサパサだし、ブドウジュースは発酵しすぎてワイン通り越して酢じゃねーか! 酸っぱいわ!


 朝食もスープは塩入れすぎて辛い! 干し肉も噛みちぎれないほど、硬いゴムのようだ!


 あぁ、シーラって味付けは薄かったけど素材の旨味を活かした調理をしてから特に不満も無かった。

 少ない調味料でよくできた方だったんだと、これらを食べたらよくわかる。


 こんな飯食ってたら血圧上がるわ! 毎日の活力が無くなるわ!


「ははははは! そりゃすまなかったねぇ! 私は昔から料理はからっきしでねぇ! ここまで直接不味いと言われたのは町に来てから初めてだよ! ははははは」


 笑い事じゃねえ! 町の奴らは多分ミーシャにビビってなんも言えねーんだよ! 誰が好き好んでムキムキマッチョのA級魔術士に喧嘩売るんだよ! 死ぬわ!


「えっ? ミーシャの料理は不味かったの? あっ……だから町の炊き出しの時は皆さん必要以上にミーシャを外に追い出していたんですね。私は昔からミーシャの御飯ばかり食べていて、外食も一度も無かったから……」


 おぉ……ソプラ……よくぞこの料理を毎日口にして生きながらえてくれた。食の神ターカ様に初めて心から感謝したい。


 こんな飯をソプラに食べさせられない!

 俺は、元日本の定食屋店長としてここに誓う! ソプラに美味い飯を食べさせると!


「お昼から私が釜を預かります! ソプラに美味い御飯を食べさせてあげる!」


 2人の前ではっきりと言い切った。


「あら、いうじゃない。相当自信があるみたいね、シーラからの手ほどきがどれほどのものかお手並み拝見させてもらうわ」


 ミーシャが微笑を浮かべて煽ってくる。


「任せなさい! びっくりするくらいの物毎日作ってやるよ!」


 俺のここでの仕事は食事担当になった。

 必ず美味い飯を作ってやる!


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