139 決闘
「練習通りに行くよ! シフォンちゃん!」
「ええ! ソプラ!!」
『クックゥ!!』
『ピッピィー!!』
クーちゃんとタチカちゃんの応援を受けて、私とシフォンちゃんは別れて走り出した!
「ふっ、やっぱりね……」
『さぁ、決闘が始まり早速動きを見せたのがシフォン、ソプラ組!! フェンリ嬢を挟む形で走り込んで行く!! やはり挟み込んできましたね! トラン様!?』
『まぁ……2対1の戦い方のセオリーですからね。1人が相手の死角に入り機を伺う、基本的手段です。だからこそ……』
『しかーし!! 挟まれたフェンリ嬢は腕を組んだまま微動だにしません!! 一体どうしたのでしょうかー!?』
『私のいる意味は……』
「おかしい、なんで動かないの!?」
私は走り込みながらフェンリさんの様子を見ていました。
フェンリさんは腕を組み、わたしを見つめたまま動きませんでした。
凄い自信なんだとは思うけど、2人がかりでなら大丈夫なはず!
「シフォンちゃん! 行くよ!」
「はい!!」
掛け声と共にわたし達は、フェンリさんに左右から飛びかかりました!
わたしは組まれた腕を押さえに、シフォンちゃんは髪に結ばれた紐を取りに!!
「ふんっ、こんなものですの?」
「「えっ!?」」
フェンリさんは軽くステップでわたし達の攻撃を簡単に交わしてしまいました。
「っく! どんどん行くよ!」
「はい!」
そのまま足を止めず、シフォンちゃんが死角に入るたびに仕掛けますが、全て交わされてしまいます。
「無駄よ……」
フェンリさんはまだ腕を組んだまま、涼しい顔をしています。
凄い、まるでターニャさんを相手にしているような感覚だよぉ。
『凄ーい!! 2人の死角からの挟み撃ちを軽やかに交わしていくフェンリ嬢!! 背中に目でも付いて……』
『あれは、魔力感知ですね。1人は目視確認しておいて、もう1人を魔力感知で位置を探り冷静に攻撃をかわしているんです。あの年でここまでとはフェンリ嬢もなかなかやりますね』
『すいません。今、私が実況してるんで』
『私、帰っていい?』
トランさんの解説が聞こえて状況は理解した。
確かに魔力の操作はシフォンちゃんの方がたどたどしい。足に魔力を集中した魔力が漏れてるのを感知されちゃってるんだ。
わたし達は一旦足を止めて、間合いを取ります。
どうしよう、フェンリさんはこれ以上間合いを詰めると、シフォンちゃんの方に攻撃を仕掛けて紐を奪われてしまう。
でも、まだ始まったばかり。なんとか体勢を崩せば……。
私が機を伺っていると……。
「いつまで、にらめっこするつもりですの? 魔法でもなんでも使ってかまいませんわよ」
「「んなっ!?」」
フェンリさんが自信たっぷりに笑い、魔法を使ってみろと挑発してきます。
わたしはシフォンちゃんを見ると、悔しかったのか唇を噛み締めたままうなづき返してきました。
なら、選択は1つです!
「我が力の熱情より矢となりて裁きを与えん……」
「我が力の水面より矢となりて裁きを与えん……」
『おおーっとぉ!? これは魔法を使用するようですよ!? 普通紐取りには魔法の使用はないのですが』
『さっきフェンリ嬢がソプラちゃんに何か言葉を投げかけてました。多分魔法を使ってみろと挑発したんでしょう……余程自信があるようですね』
「ファイヤーアロー!」
「ウォーターアロー!」
わたし達が放ったいくつもの魔法の矢がフェンリさんに襲いかかります!
フェンリさんは、矢が当たる瞬間にも腕を組んだまま動きませんでした。
ズドドドドドドドドドドドドド!!!!
ファイヤーアローとウォーターアローが全弾命中して、あたりいっぱいに水蒸気がたちこめてゆっくりと風で流されていきます。
さすがに鎧を着ているとはいえ、あの数の魔法矢を全部受けきる事は出来ないはず……。
と思っていたのですが。
『なーんっとぉ!! フェンリ嬢無傷!! あの複数の魔法矢を全て受け切りました!! これはいったいどういう事なんでしょうか!?』
『対魔法鎧ですね。フェンリ嬢は国内でも指折りの魔法防御が高い貴族ですから、自身の魔力を鎧に注ぎ込み魔法に耐性のある鎧にしているのです』
『凄い!! 何という魔法防御力!! 2人からの魔法攻撃にもビクともしません!! あと、さっきからトラン様が真面目に解説されているのにも驚きを隠せません!!』
『ほんと帰っていい?』
「どうしました? もう終わりですの? 所詮は、落ちこぼれと下品な平民のコンビ……たかが知れてますわ」
フェンリさんはねっとりとした視線をわたし達に送ってきます。
これは、乗ってはいけない。わたし達が怒りに任せて攻撃を仕掛けたらフェンリさんの思うツボになってしまう。
ここは冷静に……。
「うるっさいですわぁ!!」
「シフォンちゃん!?」
見るとシフォンちゃんがぼろぼろと涙を流しながら、フェンリさんを睨みつけていました。
「ずっと……我慢してた。私は落ちこぼれだからいじめられても仕方ないと思ってた……。でも、ソプラは違いますわ! 私より優秀で、優しくて、努力家で、どんな辛くても負けない、私が尊敬する誰よりも強い女の子ですのよ!!」
シフォンちゃんが全身に魔力を巡らせて、練り上げいく。
「そんなソプラを『下品』だなんて!! もう我慢の限界ですわぁー!!」
シフォンちゃんは砂埃を撒き上げながら、凄い勢いでフェンリさんに突っ込んだ!
単身で突っ込む気だ! 落ち着かせようとしても、もう間に合わないよぉ!? ならせめてサポートを!
わたしは風の生活魔法でフェンリさんの周りに砂埃を撒き上げた!!
砂埃が舞う竜巻の中に突っ込んだシフォンちゃんがフェンリさんと激しくぶつかりあう音がしたのち、ゆっくりと風が治まっていく。
そこに立っていたのは……。
『シフォン嬢とフェンリ嬢の一騎打ちとなった軍配は……フェンリ嬢だー!! 高々と掲げるその手にはシフォン嬢の紐が握られているー!!』
「シフォンちゃん!!」
私は紐を取られて座り込んでいるシフォンちゃんに駆け寄りました。
「ごめんなさい、ソプラ……作戦あるのに、私どうしても我慢できなかった……グスッ」
シフォンちゃんは涙で顔をぐしゃぐしゃにして私に謝ってきます。
わたしはそのシフォンちゃんにどんな声をかけていいのかわからないまま、肩を貸してその場から離れることにしました。
すると……後ろから。
「さぁ茶番はこれで終わりよ。さっさとその落ちこぼれを隅にでもやって決着をつけるわよソプラ」
フェンリさんはシフォンちゃんなんて初めからいなかったようにあしらってきます。まるで埃でもはらうかのように。
その時、わたしの中でなにか熱いものが込み上げてくるのを感じました。
ソプラが熱くなってきました!
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