136 シフォンの内情
わたし達は寮に戻り、わたしの部屋でフェンリさんに申し込まれた決闘について話し合いをしていました。
「ごめんなさいシフォンちゃん、巻き込んでしまって……」
「いいえ、私も言い返せなかったのが悪いんですわ」
『クックゥ』
『ピイッ』
2人とも表情は暗く、クーちゃん達も心配そうに交互に顔を覗き込んできます。
「そもそも、フェンリさんは何であそこまでわたしを嫌っているんだろう……ほとんど接点もなかったはずなのに」
隣のクラスで、面識なんて無かったし。初対面の時は紐取りを遊びと言った噂が流れていったからだとは思うけど……。
もしかして青目って事バレてる? でもそうなら最初に言ってくるだろうし。
うーん、わからないよぉ。
「あぁ、その事なら」
わたしが頭を抱えていると、シフォンちゃんが何か知ってる口調で話しを切り出してきました。
「シフォンちゃん何か知ってるの?」
「ええ、たぶん」
一体なんなんだろう?
「王前の儀の参加枠をソプラに奪われたからですわ」
「……ん?」
わたしの聞き間違いでしょうか?シフォンちゃんの言葉が頭に入ってきません。
「だから、王前の儀の参加枠をソプラに奪われたからですわ」
「えぇえええええええええ!?」
わたしはイスから飛び上がるようにその場に立ち上がりました。
「ど、ど、ど、どう言う事!? わたしが奪った!?」
オロオロしているとシフォンちゃんがゆっくりと説明してくれました。
「落ち着きなさいソプラ。いい? 元々王前の儀に選ばれる子供の予想は、ビオラ王子様、シアン様、フェンリさんの三人で確実と言われてたんですわ。
でも、大方の予想を覆しソプラが王前の儀に選ばれた。選ばれれば名誉になるフェンリさんの椅子を直前で奪って選ばれたものですから、恨まれているかもしれませんわね」
「そ、そんな……わたし」
知らなかった……というか、当時はわたしが選ばれると思っていなかったし、王前の儀の作法を覚える事や緊張でそんな事考える暇もなかった。
でも、それが本当なら凄く嫌われるのも納得だよぉ……。
「どうしよう……シフォンちゃん謝って許してくれるかなぁ?」
「あなた、さらに油を注ぐつもりですの? そんな事したら余計に怒りますわよ。もう決闘は挑まれてしまっているのだから勝つしか方法はないんですのよ」
「うぅぅ……」
そうだよね、もう決闘は挑まれてしまっているからやるしかないんだよね……。
「あ、でもそれならシフォンちゃんは関係ないよね? やっぱり、わたしだけ決闘するって事をフェンリさんにちゃんと説明して」
「……私は落ちこぼれですから」
シフォンちゃんは目線を落とし、小さな声で話し始めました。
「私はカスタード伯爵家に生まれながら魔量があまり無く、物覚えも悪くてね。とてもじゃないけど優秀とは言えない存在なの……。
それでも不器用なりになんとか必死に頑張ってみたけど現実は残酷……タチカくらいの小さな召喚獣くらいしか召喚できなかった。
カスタード家の落ちこぼれと言われと学園で馬鹿にされ、いじめられるようになっていったわ」
だんだんとかすれ声になっていくシフォンちゃんの話しを、わたしは黙って聞いていました。
「魔術も体術も学術も全部鳴かず飛ばず……わたしは何も出来ない落ちこぼれなんですわ」
「そんな事ないよ! 召喚魔獣試験に合格してるんだから優秀だよ!」
「平民のソプラならそう見えるかも知れないですけど、カスタード家なら召喚魔獣試験合格くらい当たり前ですの。私がこれ以上迷惑かけることなどできませんわ。私なんかいなくとも優秀な兄弟がいるから……」
シフォンちゃんはうつむいて唇を噛み締めながら肩を震わせていました。
わたしと同じだ……。
周りのみんなからいじめられて、怖くてずっと逃げていた頃のわたしと重なる。
このままじゃ、シフォンちゃんが……。
わたしは、一度深く深呼吸して決意を固めた。
「シフォンちゃん驚かないでね」
「ソプラ?」
わたしは意を決して、指輪を外しまっすぐにシフォンちゃんを見つめた。
「ソプラ! その目!?」
わたしは自分の過去をシフォンちゃんに話すことにした。
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