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134 響く言葉

「本当に! 本当〜にアルトちゃんは女の子なんです!」


「そんな顔を赤くして必死になってる所が、更に怪しく感じますわ。フフフ」


「うぅ〜……」


 教室に戻り、シフォンちゃんの誤解を必死に解いているんだけど、シフォンちゃんの疑惑は解けそうにありません。


 なんか頑張るほど、ドツボにはまっていくよう……うぅぅ……。


 そんなわたし達の後ろに、カツカツと靴音を鳴らして、どなたかが歩いてきたようです。


「ずいぶんと楽しそうですわね、シフォン?」


「ん?」

「フェンリ……さん」


 振り返ると金髪ロングの高身長で、凛とした佇まいの人が腕を組んで立っていて、その後ろには少し笑っている女の子が2人付いてきていました。


「シフォンちゃん、この人誰?」


「この人は隣のクラスのフェンリさん。代々この国の守護を生業とする貴族のご令嬢ですわ……」


「ヒソヒソ何話してるのかしら? 落ちこぼれのあなたが最近楽しそうにしてるなんておかしいと思ったら、なるほど……平民の子を手なづけたからですのね」


「「!?」」


 何を言い出すのこの人!? 平民を手なづけた!? どういう事!?


 わたしが突然の事に混乱していると、その後ろに控えていた2人組が更に声をかけてきました。


「仕方ないですわ、ずっと底辺だったシフォンだったんですもの。やっと自分より下ができて嬉しくてしょうがないのよ」

「部下を1人持ったら急にイキリ出すなんて……ねぇ?」


「っ違いますわ!! ソプラは私の……」


 シフォンちゃんが凄い剣幕で立ち上がり、フェンリさんを睨みつけました。


「私の何ですの? 言ってみなさい?」


「う……」


 しかし、フェンリさんは物怖じせず睨み返すと、シフォンちゃんの方が言葉を詰まらせて顔を背けてしまいました。


 うぅ……嫌な空気だよぅ……。


 でも、シフォンちゃんが困ってる、わたしがなんとかしなきゃ。


「あ……あのぉ……シフォンちゃんが困ってますので……」


 わたしは恐る恐る声をかけてみました。


「あなた、確かソプラでしたわね? あなたにも言いたいことがありますわ」


「え?」


 すると、フェンリさんの鋭い目線がわたしに向けられました。


「あなた、わたし達の実技を遊びだといって馬鹿にしてたそうじゃない」

「そうよ! 平民のくせに何様のつもりよ!」

「フェンリ様だって紐取りなんて児戯に等しい物ですのよ!!」


「いや、それは……」


 確かに紐取りを遊びだとは思ってたけど、馬鹿になんてしてないよぉ。


「平民で王前の儀に選ばれ、魔力特性が多いからって調子に乗っているんではなくて?」


「そんな事……うっ……」


 わたしはフェンリさんから向けられた鋭い視線に、目をそらしてしまいました。


 それは青い目の時に向けられていた、わたしを嫌い、蔑み、差別する、あの怖い目つきそのものでした。


 怖い……。


 久しぶりに見たその視線は、わたしの胸の奥をざわつかせ、トラウマを一気に呼び起こし、体を動けなくしてしまいました。


 呼吸がしづらくなり、目の焦点がチカチカして、体が小刻みに震えてしまう……。


 そのまま、わたしもシフォンちゃんも黙ってしまいました。


「ふん、何も言い返せないなんて、あなた達本当つまらないわね……時間の無駄だわ、いくわよ」

「「はい、フェンリ様」」


 フェンリさんはつまらないと吐き捨てて、踵を返して歩いて行ってしまいました。


 その後、シフォンちゃんはわたしと一言も喋ってくれませんでした。




 * *




 寮の部屋に帰っても気分はすぐれません。


 机に突っ伏して嫌な事を忘れようとしても、胸のざわつきは止まりませんでした。


『クー』

 コンコン。


 クーちゃんは外に出たいのか、窓をつついています。ごめんね、今は窓を開けてあげる気力もないんだよぅ。


 せっかく……自分を変えるためにここにきたのに……これじゃ何も変わらない……。


『クゥー』

 コンコン。


 それに、シフォンちゃんとフェンリさんの間に何があるんだろう……凄く険悪な雰囲気だったなぁ……。


 ついでにわたしも嫌われてるみたいだし……。


 はぁ……わたしどうしたら……。


 アルトちゃん……怖いよぅ……。


 わたしは涙をこらえながら必死に自分の体を抱きしめ……。


『クー!!』

 コンコンコンコンコンコンコンコン!!


「んもー!! クーちゃんうるさ……ふぇ?」


 クーちゃんがしつこく窓をつつくので怒ろうとしたら、外の窓枠にどでかいバスケットがぶら下がってました。


 なんでこんなとこにバスケットが?


 窓を開けてバスケットを部屋の中に入れて蓋を開けて中を見ると……。


「うわぁあ!」

『クックゥー!!』


 そこにはまだほんのり温かく出来立てホヤホヤの、クッキーやフルーツパイや色とりどりのお菓子が詰まっていました!


 そして、蓋の裏には封筒が貼り付けてあり、わたしはすぐにその封筒を開けて中の手紙を読み始めました。


『ソプラへ

 ターニャさんから手紙受け取りました、ありがとう。ソプラに心配させちゃったみたいでごめんな。こっちはソプラからの手紙で元気モリモリになったからもう大丈夫!! なんの心配もいらないよ!! そういえば、ミーシャがこの前トイレでさ……』


 何枚もつづられた手紙には、アルトちゃんの楽しくて元気な文字がたくさん詰められていました。


 昨日、ターニャさんに渡した手紙の返事がこんなに早く届くなんて。フフフ、さすがバハムートの宅配便だなぁ。


 さっきまで落ち込んでいたのに、手紙が嬉しくて顔が緩んでくるのが自分でもわかります。


 そんなアルトちゃんの手紙を読み進めていくと、一言一言が胸にじんわりと染み込んできます。


 何気ない文章だけどわたしには、何よりも嬉しい言葉でした。


『……まだまだ、いっぱい書きたいけどミーシャが「いい加減にしろ」ってうるさいからこれくらいにしとくね! ……最後にソプラ、挫けそうになっても負けるな! 俺はソプラを信じてる。頑張れ!!!! また手紙書くよ!

 アルト』


「アルトちゃん……グスッ……ありがとう」


 信じてる、頑張れ……今一番かけてもらいたい言葉が、一番欲しい時に、一番言って欲しい人から聞けるなんて……。


 わたし、今凄い幸せだよぅ。


 アルトちゃんの手紙を抱きしめると、さっきまでモヤついていた心が一気に浄化されていきました。


『クックゥ!!』


 クーちゃんもクッキーをつつきながら応援してくれてるようです。


「心配かけてごめんねクーちゃん。もう大丈夫だよ」


 これくらいで泣きごといってたらアルトちゃんに笑われちゃう! 頑張ろう!!


 わたしは涙をグイッと袖で拭き取り、ふんっと気合いを入れました。


「でも……これどうしよう……」


 目の前のバスケットにはたくさんのお菓子。


 ほんのりと立ち上る甘い香りは、わたしの胃袋を刺激して夕食後だというのについつい手が伸びてしまう。


 ……さすがに1人では食べきれないよねぇ。うーん。


「そうだ! シフォンちゃんとフェンリさんにも渡してみよう! 美味しいお菓子を食べながらお話したら仲良くできるかもしれない!」


 女の子は誰だって甘いお菓子が大好き!! これは世の中の心理だってアルトちゃんが言ってた!!


 よし! 明日、このお菓子を持ってシフォンちゃんとフェンリさんとお話してみよう! きっと何かきっかけがつかめるかもしれない!


 アルトちゃんありがとう。


 わたしはバスケットに手を添えてニッコリと微笑んだ。




















 ん? でもこれ、どうやって持ってきたんだろう? たしか、学園や寮には防犯対策の結界が何重にも張ってあったはずなのに……。


 次の日の朝、学園の結界が根こそぎ破られているとの事で学園は大騒ぎになり、わたしはトランさんや学園関係者に必死に謝る事になるのでした。

アルト「急げ! お腹を空かせたソプラが待っている!」

 ムート「しかし、良いのか?ミーシャに学園とやらへ行くのは止められておるのだろう? それにあそこは何重もの結界が張って……」

 アルト「お前作ったお菓子を味見と称して半分以上食ったよな? 行け」

 ムート「御意」


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