132 紐取り
「ふー。やっと終わりましたぁ」
「はーい、お疲れ様ソプラちゃん」
わたしは、みんなが拾ってくれたクーちゃんの卵をひとまとめにして食堂に持って行き、足早にグランドに戻ってきました。
あんなにたくさんの卵、1人じゃ食べきれないもんね。
「もう、大変でしたよ! クーちゃんを食べようとしないでください!」
『クックゥ!!』
「あははは、ごめんごめん。ついお腹空いちゃってさ」
ターニャさんが笑いながら謝ってきますが、本当にわかっているのでしょうか? 心配です。
「それで、実技はいいんですか? みなさん遊んでますけど?」
目線の先には、みんなが二人組になって、互いに召喚獣と一緒に相手の頭のハチマキを取り合っていました。
みなさんがやっていたのは『紐取り』と言う遊び。わたしも小さい時、ミーシャとこの遊びを飽きるまでやってたなぁ。
「これが今日の実技だよ。暴漢から身を守る為の体術と、召喚獣との連携を深める実技さ。自身のハチマキを召喚獣を使って防ぎつつ、自ら体を動かしてハチマキを取りに行く、体術の基礎訓練さ」
「へぇーそうだったんですか……っえ? ちょっとまって!? 紐取り遊びって、体術の基礎訓練だったんですか!?」
「およ? 知らなかったの?」
今思い返してみれば、朝早くから夜遅くまでミーシャとぶっ倒れるまで遊んでた記憶が……まさか物心つく前から基礎訓練されていたとは思ってもいませんでした。
「まぁ、ここの子達は貴族のお嬢様ばかりだからね。まずは体力作りと身のこなし方を覚えてもらうって所なんだよね。でも、ソプラちゃんはあれを遊びって言うくらいだから、基礎訓練は大丈夫そうだね!」
「えっ!?」
ターニャさんはわたしを見てニヤリと笑います。
「ならソプラちゃんは、わたしが相手をしてあげよう!」
「でもターニャさんは召喚獣いないんじゃ……」
「たしかに私には召喚獣はいないけど、ソプラちゃんとクーちゃんくらいなら1人で十分だよ」
ターニャさんが胸を張って得意げにわたし達を見てきました。
「むぅ!! わかりました。わたしこの遊びならアルトちゃんにも負けた事ないんですよ! それにクーちゃんも一緒なら絶対負けません!」
『クックゥ!!』
そう実はわたし、紐取りは大得意なんです! アルトちゃんとムートちゃんコンビにも負けた事はなく、ミーシャにもたまに勝ったりしているのです!
ふふん、クーちゃんもさっきの事もあったから意気込みもバッチリです!
「おぉ! 凄い自信だねぇ! なら普通のだと面白く無いし……よし! ハチマキの代わりに、これを取ってもらおう」
そう言うとターニャさんは、懐からさっきのクーちゃんの卵を取り出しました。
「えっ!? 卵ですか!? ってそんなところに隠してたんですね!?」
「あははは、後で返すからさ! 私はこの卵を取られないように守るから、ソプラちゃんはクーちゃんと一緒にこの卵を私から奪ってごらん」
なるほど、ハチマキの代わりを小さい卵にして難易度を上げるんですね。
卵なら小さいし、強く握ったりすると割れちゃうから、奪う難しさはハチマキの比じゃありません。
あれ? でも、卵をどうやって取ればいいんだろう? 手に持っていたらさすがに取れないような……?
わたしが疑問に思っていると。
「じゃあ始めるよ……さあ、かかってきなさい!」
「え!?」
『クックゥ!?』
ターニャさんはなんと、卵をちょこんと頭の上に乗せて構えました!
そんな事したら卵が落ちて割れちゃいます! 早く卵を拾わないと!
わたしはすぐに身体強化を使い、一気に卵に手を伸ばしました!
「おーっとぉ! 甘い甘い♪」
「ふぇ!?」
ターニャさんはわたしの手をひょいと避けて、ほっぺをプニプニとつついてきました。
頭の上の卵を落とさずこんな事できるなんて……相手にとって不足無しです!
「むーっ!! 絶対取ってやりますぅ!! クーちゃん!! いくよ!」
『クックゥ!!』
わたしはすぐに体制を立て直して、卵を取りにターニャさんに突っ込んで行きました!
それから1時間後……。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! うぅー!! 取れないぃーー!!」
『クッ……クゥウ……』
「いいよ! ソプラちゃん! ほらほらこっちこっちぃ♪」
わたしは汗だくになりながら、まだ卵を追いかけていました。
その間、ターニャさんは頭に乗せた卵には一切手も触れず、体捌きとステップのみで卵を守り抜いています。
凄いです……わたし達はこんな激しく動いているのに、ターニャさんはまるでダンスを踊っているかのように、わたしとクーちゃんの攻撃をヒラヒラとかわしていきます。
しかもかわしながら、他のみんなの訓練にも声を出して指示までしてるし……。
こんなのミーシャでもできないよぉ〜。
そして、わたしの体力も尽きようとした時。
キーン! コーン! カーン! コ〜〜ン
訓練の終わりを告げる予鈴が鳴り響きました。
「おっ!? 終わりか。はい、ソプラちゃん卵返すね♪」
「ふぇ?」
息も絶え絶えのわたしに、ターニャさんはそう言って、頭の卵をひょいとわたしに手渡してきました。
あんなに動いていたにも関わらず、ターニャさんは息一つ切らさず、卵にはヒビも入ってなく、きれいなままの卵でした。
わたしは、ふと力が抜けて卵を持ったままその場にへたり込んでしまいました。
卵にさわれもしなかった……。
自信はあった、得意の遊びだったし、ミーシャにもたまに勝ったりしてたのに……。
「はい、みんなー!! 今日の実技はおしまい!! 体力が続かなかった人はちゃんと走り込みとかやるようにね!!」
「「「「「「「「はい!! ありがとうございましたー!!」」」」」」」」
「わ! あ……ありがとうございました!!」
『クックゥ……』
わたしもみんなの挨拶を見て、すぐに立ち上がって挨拶しました。よく見たら、みんなもホクホクと湯気が出るほどの汗だくでした。
挨拶が終わるとみんな急に校舎に走っていってしまいました。汗だくだったし、急いで水浴びにいったのかな?
わたしはもう体力残ってないから、少し回復魔法かけてから行こう……。
「ソプラちゃんは、なかなかいい動きだったよ! もう少しクーちゃんと連携の練習しなきゃね! さぁ、いい運動もできたし! あとは、ん〜ふふふ〜♪」
ターニャさんは楽しそうにスキップしながら校舎に向かって行きました。
ターニャさんの事、ただの食いしん坊さんだと思ってたけど、凄い人だったんですね……手も足も出なかった……。
さすがA級冒険者……まだまだ敵わないなぁ。
『クックゥ……』
「ん?」
足元を見ると、クーちゃんが心配そうにわたしを見上げています。
「大丈夫だよクーちゃん。お勉強も訓練もわたしはまだまだ未熟者、2人で一緒に頑張ろうね!」
『クックゥ!!』
わたしがニンッと笑って返すと、クーちゃんも翼をバタつかせて喜んでるみたいでした。
エヘヘ、クーちゃんにまで心配されてたらダメだよね。もっともっと頑張らなきゃ!
ぐぅ〜……。
「あ……」
久しぶりに汗だくになるほど運動したから、お腹空いちゃいました。あれ? 何か忘れてるよう……な……。
……。
「あーーっ!!!!!!」
その後、わたしは急いで着替えたのち、食堂に向かったけど、既に全てのメニューは食堂の赤い悪魔によって駆逐されていたのでした。
シフォン「こうなるだろうと思って2人分確保しておきましたわ」
ソプラ「シフォンちゃんありがとー!!!!」
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