131 冷たい視線と熱い視線
わたしが学園に来て一週間が経ちました。
クラスのみなさんは、わたしが平民だという事など気にもとめず仲良くしてくれるので安心ではあるのですが、なんだか不思議な気持ちです。
本当にわたし、こんな恵まれた環境で勉強していいのでしょうか……。
授業の方は覚える事が沢山あって大変ですが、クラスのみなさんが色々と手伝ってくれてとても感謝しているんです。
ただ、時々後ろから冷たい視線を感じる事があるんです。
青い目の時に見られていた様な、あの冷たい視線……。
正直怖くてたまらないです。振り向いたら優しくしてくださっていたみんながあの目でわたしを見ていたらと思うと……なかなか振り向く勇気がでません。
でも、そんな弱音を言ってる暇はありません。わたしは自分を変える為にここにきたのだから……。
落ち込んだ気分を振り払うかのように、プルプルと首を降って気持ちを落ち着かせて校庭へ向かいます。
そう、今日の授業は……。
「今日は召喚獣との連携訓練です。各々の召喚獣で実戦及び防衛の訓練を行なってもらいます」
そうです、久しぶりの訓練です。
ミーシャの言いつけで朝のランニングと体術の型の練習は毎日やっているけど、授業では座学ばかりだったのでとても新鮮です。
『クックゥ♪ クックゥ♪』
クーちゃんは外で遊べると思っているのか、とても機嫌がいいです。
「そして、今日は冒険者ギルドより臨時講師もお招きしております。ではどうぞ」
「はい」
先生が臨時講師の人を呼ぶと、物陰から見たことのある、赤い鎧を着た金髪ロングの女の人が歩いて来ました。
その人はわたし達の前に立ち止まると、ニカッと笑ってあいさつをしました。
「みなさんよろしく! 臨時講師で来ましたターニャです! 実戦訓練の担当をしますのでよろしく!」
「ええぇえ!? ターニャさん!?」
目の前に現れたのは、まごうことなきターニャさんでした!
なんでこんな所にターニャさんがいるの!?
「およ? ソプラちゃん!? なんでここにいるの?」
「いえ、あの……先週からここに入学したんです」
「そうなんだ!! 私はアルトちゃんの仕事がない時は、たまにここの臨時講師をやっているんだよ♪融通が利くソロ女冒険者で、高ランクなのは私くらいだからね」
「そうだったんですね!」
たしかにここは女子しか入れない(トランさんは除く)から実戦訓練ならターニャさんはうってつけです。
「でも、あーだからかぁ……最近アルトちゃん元気なかったのは……。仕事はこなしてはいるけど、話しかけてもうわの空で移動の時気まずくってさぁ……よかったら手紙でも書いてあげて、私が持って行くからさ」
「あははは……後で書いときます」
アルトちゃん……心配性だなぁ……。でも、不思議な気分……ちょっと嬉しい自分もいたりします。
「ソプラ、あの方は知り合いですの?」
『ピイッ?』
同じクラスのシフォンさんと召喚獣のタチカちゃんが、小声で質問してきました。
「あ、うん。前お腹すかせて倒れる所を助けて、そのあとアルトちゃんの配達護衛をしてくれてるんだよぉ」
「そうだったんですのね……訓練終わったら食堂に走りますわよ。あの方が来ると食堂のメニューが全て提供不可になってしまうから、私達の間で『食堂の赤い悪魔』って呼ばれてますのよ……訓練後のお昼抜きは嫌ですわ」
「……うん、言いたいことはわかるよぅ……」
ターニャさんはどこに行っても変わらないなぁ……。
互いに色々と察し苦笑いを交わすと、どこからともなく変な音が聞こえてきました。
グキュウゥゥゥゥゥゥ…………。
「「……ん? なんの音?」」
地の底から響く様な重低音が辺りに響きます。召喚獣の鳴き声でしょうか?でもこの音どっかで聞いたことあるような……。
「あっ……」
「えっ?」
わたしは妙な気配を感じて、直ぐにターニャさんに振り向きました!!
「ソプラちゃんがいるって事は……久しぶりに……」
『クウ?』
ターニャさんがクーちゃんの方をジッと見つめています。あ……ちょっと待って、これもしかして……。
ジュルリ……。
『クックゥーー!!!!!!』
スポポポポポポポポポポポポポポーーン!!!!!!
「あーっ!! クーちゃーーん!!!!」
「「「「「キャアァァァァァァァアーー!!!!!?」」」」」
クーちゃんがわたしの手を振りほどき、デコエッグを生みながら逃げてしまいました!
そうだった! お腹すかせたターニャさんがクーちゃんを見ると、こうなっちゃうからアルトちゃんに止められてたんだったー!!
その後、クーちゃんがターニャさんから逃げ回り、グランド中にデコエッグを生み散らし、授業の前にクラスのみんなで拾うはめになっちゃったのでした。
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