13 新しい生活
裏の林に来た。
そこまで大きな林ではない。枝打ちされている木々の間は程よく間隔が開いており柔らかな風と太陽光が心地よい。
よく手入れが行き届いている様だ。
その林の中で木漏れ日を浴びながら青い髪を艶やかに光らせ、片膝をつき小枝を拾っている少女がいた。
俺はその姿が、まるで天使が舞い降りたかの様な幻想的な姿に見えドクン!と鼓動が高鳴った様に思えた。
「ソプラ!!」
体が自然と動く、俺は走り出していた。
「えっ? アルトちゃん!?」
声に気付いたソプラが膝をついたまま振り返り、驚きの表情をみせるが、そのまま顔を胸に抱きしめた。
「会いたかったよー! ソプラー!」
頰を頭に擦り付けると木の実のような少し甘い香りがする。あぁ……このまま食べてしまいたい……。
「むぐー!? ふぐふぐー!!」
しまった、抱きしめすぎてソプラが苦しそうだ、慌てて体を離す。
「ぷはー! アルトちゃんビックリしたよー。相変わらず元気一杯だね!」
優しく微笑み返してくれる天使がそこにいた。
やばい、キュン死にしそうです。
「アルトちゃんまたお使いについて来たの? それにしては早そうだけど?」
「ああ……それは、説明すると長くなるんだけど。結果を言えば私がソプラと一緒に此処で暮らす事になりました。だからこれからずーっと一緒だよ!」
「ええ!? 本当!?でも……ええ!?」
驚きと嬉しいと心配とがごちゃ混ぜになって、なんともし難い表情になっている。
「まぁ、事情は後で話すよ、まずはミーシャから此処に住む最初の仕事でソプラと一緒に枝拾いして来てと言われたからきたんだよ」
「うん……わかった……じゃあ一緒に拾おう! アルトちゃんはそっちをお願いね!」
「おう! 任せて!」
右手を腕まくりして力こぶを見せるポーズをとるとソプラはクスクスと笑い、2人で和やかに小枝を拾ったのだった。
* *
「では、アルトをよろしくお願いします」
日が少し傾きかけた頃、町の出入口でダンがジムの綱を握り深々と頭を下げる。
「ええ、必ず約束は守るわ、だから安心しな。あと、シーラもいつまでもメソメソしてないでアルトを見習いなさい」
シーラはその隣でしゃがみこみ、泣きそうな表情で俺を抱きしめている。
娘とのしばしの別れだ……そりゃ辛いだろう。
「母さん、安心して、私も強くなるから。心配のいらない娘になるから」
俺もそう囁きシーラの胸に顔を埋める。
このオッパイともしばらくはさよならか……うーん残念。
「そうね、アルトに心配かけてるようじゃ母親失格よね……不思議ね、いつの間にかドンドン大きくなって、私よりもずっと大人みたいよ。頼もしくて嬉しいわ」
まぁ中身は40半ばのおっさんですから間違ってはおりませんよ。
「でも!! ソプラちゃんに変な事しないように! いい!?」
「……重々承知しております……。」
両手で肩を掴まれ少し警戒するようなジト目の表情で釘を刺されてしまった。
視線を逸らしつつ答えたが、シーラさんは意外と抜け目無いですね。
そうして、しばしの別れを惜しみつつダンとシーラはジムに跨り、見えなくなるまで手を振り続けイリス村へ帰って行った。
「さあ、帰って御馳走の準備をしましょうかね! 今日はアルトの歓迎会も兼ねて盛大にやるわよ!」
ミーシャの野太い声と共に俺とソプラはヒョイと持ち上げられ両肩に乗せられた。
メッチャパワフルだぜミーシャさん。
けど御馳走は嬉しい、正直お腹ぺこぺこだ。
「やったー! ねぇねぇ、こんな日は果実酒とか飲んでいいのかなー!?」
「私達、子供だからまだダメだよぉ! それに教会は酒精厳禁だよ!?」
「ははははは! 酒精はダメだけどたらふく食べさせてあげるよ!はははは!」
そうして、俺の新たなる生活はスタートしたのだった。