128 学生寮
「トランさん、今日からよろしくお願いします」
『クックゥ』
わたしはクーちゃんと一緒に頭を下げて挨拶をします。
「いえいえ、よく来てくださいましたソプラさん。さぁ、宿泊する寮までお連れしましょう」
相変わらずボサボサの赤い髪のトランさんはなんとここの校長先生だったようなのです。最初聞いた時はとてもびっくりしました。
「本当はアルトさんに入学していただいて、天属性の研究をやりたい放題行いたかったんですけど……おっと聞かなかった事にしてください」
「あははは……」
アルトちゃんはこの学園には入学しない方が身のためかもしれません。
わたしたちはしばらく歩き、煉瓦造りの建物の前まで来ました。
門には大きな鐘が吊り下がっていて、トランさんがその鐘をカランカランと鳴らしました。
すると建物の中からエプロンをかけたご婦人が歩いてきました。
「お待たせしました。ナーガさん」
「やぁ、待ってたよ。あんたがソプラちゃんかい?」
「はっはい!! よろしくお願いします!」
『クックゥ!』
ナーガさんはとても身体の大きい優しそうなご婦人でした。
「では私はこれで……」
「えっと……あれ? トランさんは?」
「ここから先は男性立ち入り禁止ですからね。中での立ち振る舞いや規則などはそこのナーガさんに聞いてください。あっそれと、この学園内ではトラン先生でお願いしますね」
「はい! わかりました! ありがとうございます!」
「元気のいい子だね! さぁ、部屋に案内するよ。ついてきな」
「はい!」
『クックゥ!』
わたしは歩きながらナーガさんに寮の規則などの説明を受けて、部屋に案内されました。
「さあ、ここがあんたの部屋だよ」
「わぁ! 凄いです!」
『クックゥ!』
その部屋は、わたしとミーシャが使っていた部屋より少し狭いけど、椅子と机、タンスとベッドまで付いている明るい綺麗な部屋でした!
クーちゃんもはしゃいで窓側のタンスの上でピョンピョン跳ねています。
「あははは! この部屋を嬉しがる子は久しぶりだねぇ!」
ナーガさんがわたしのはしゃぎぶりを見て豪快に笑いました。
「こんな素敵な部屋わたしにはもったいないくらいですよ! 1人の部屋は初めてですし、とても広くて使いやすそうです!」
「そりゃよかった。ほとんどの子は貴族のお嬢様ばかりでね、この部屋は狭いとか暗いとか文句ばかり言うもんだから、あんたみたいに喜ぶ子は珍しいねぇ」
「確かに貴族の方々には狭いかもしれませんねぇ……ん? でも前にも喜ぶ人がいたんですか?」
「そうだね、もう何年も前の話になるけど、その子は食堂に一番近いからって大はしゃぎしてたよ。とにかく食い意地の張った子だったね……名前はなんだったかな? 最近歳のせいで物忘れが多くてね」
ナーガさんは眉間にしわ寄せ考え込んだけど、中々思い出せないようです。
「あははは、食いしん坊さんだったんですね」
貴族のお嬢様にもそんな面白い方がいらっしゃるんですね。
そういえばアルトちゃんの料理がしばらく食べられないのは、ちょっと寂しい気がしてきました。
「まぁ、そんな事より寮内を案内するよ。荷物を置いてついておいで」
「あ、はい! わかりました!」
わたしはとりあえず、荷物を机の上に置いて部屋を出ました。
「ごきげんようナーガさん」
「ふえ?」
部屋を出るなりいきなり違う人の声がして、変な声が出てしまいました。
「ごきげんようシフォン、もう帰ってきたのかい?」
その子は学園の制服を着て、フワフワの髪と大きなクリクリとした目、顔立ちの整ったとても可愛い女の子でした!
「ええ、今日の授業は終わったから一旦荷物を置きに部屋に戻って来ましたの……あら? そちらの方は?」
「あぁ、前話をしてただろう? 王前の儀に出た平民出身のソプラ嬢さ。今日からうちに編入する事になったのさ」
ナーガさんに背中を押されて慌てて挨拶をします。
「あっあの……初めまして!ソプラと言います! よろしくお願いします!」
『クックゥ!』
「まぁ!! あなたがソプラさんなのね!! わたしはシフォン=ティナ・カスタード! 気軽にシフォンって呼んでください! 貴女の噂は色々と聞いておりますわ!!」
「ふぇえ!?」
シフォンさんはわたしの手をぎゅっと握ってきて、大きな目をパチパチしながら近づいてきました。
初対面だけどこんなにグイグイくる子はアルトちゃん以来かもしれません。
「そうだ! シフォン時間はあるかい? 寮の案内を頼みたいんだけど?」
「ええ、大丈夫ですわ!ソプラさん行きましょう!」
「えっ!? はっはいい」
わたしはシフォンさんに強引に手を引かれ、寮の案内に付いて行くのでした。
よろしければブクマ、評価、感想など頂けると嬉しいです!よろしくお願いします!
 




