127 ソプラの一歩目
新しい章のスタートです!!
ナカフへの御奉仕も終わって、俺たちはベルン教会へ戻り、いつもの日常に戻っていた。
「よし、今朝の特訓はここまで!!」
「ブハァー!! 死ぬぅー!!」
「ミーシャ……はぁはぁ!! ありがとう……はぁはぁ……ございました……!!」
街の外れの平地でミーシャの早朝の戦闘訓練が終わり、俺はその場に倒れこむように寝そべった。
いつも思うんだけど、ゴリゴリの戦闘訓練行う教会っておかしくねぇ!? 普通こういう訓練って憲兵さんとか魔物を狩る冒険者とかがやるやつだよね!?
ターカ様に祈りを捧げ、民衆の平和と炊き出しを行うターカ教会のシスターがやる事じゃないと思うんだよね。
『なにをこれくらいで、へこたれておるのだ?我との契約にわざわざ魔界まできたりする者達はお主より何倍も……』
「俺を歴戦の勇者とかと同じと思うなよ!! こちとら魔量が多いだけのか弱い乙女なんだからな!?」
こいつは何を言っているのだろうか?転生前はただの食堂の店長で、転生後は雷に打たれた後に魔量が増幅しただけの超絶美少女アルトちゃんなんだぞ!? どこぞの名も知らない猛者と一緒にされてたまるか!!
「あら、アルトまだそんなに大声出せる元気があるのね? もう一本いっとく?」
「ミーシャは悪魔かな?」
「まぁまぁ、早く帰って朝ご飯作らなきゃいけないんだから今日はおしまいだよ。アルトちゃん上体起こせる?」
「んあ、頼むよソプラ」
上体を起こした俺の背中に手をあてがい、ソプラが詠唱を始める。
「芳醇なる恵みを糧に、汝に命の躍動を呼び覚まさん……ホーミィ!!」
ソプラが詠唱を終えると体がほんのりピンク色に輝き、疲れ果てた体に活気が戻ってきた!
「くぅー!! やっぱりソプラの回復魔法はよく効くなぁ!! 元気モリモリだ!!」
さっきまでの疲れが一気に吹き飛び、小さな切り傷なんかもきれいに全部塞がってしまった。
回復魔法覚えたての頃と比べると、回復量と速さが格段に向上しているのがわかる。
「ソプラの回復魔法も随分上手くなってきたわね。魔力を巡らせる速さや精度がとてもスムーズだわ」
「そりゃ毎日ボロボロになるアルトちゃんに魔法かけるんだもん、嫌でも上手くなるよぉ」
『クックゥ!!』
「完全に実験台だよね俺」
そんな中、げんなりする俺の頭の上にムートがちょこんと降り立った。
『よし! 元気になったなアルトよ! 早く朝食に取り掛かるぞ!!』
「いててててててて!! だから頭に爪たてんな!! 血出てる!! ちょっ!? おい!! 下ろせ!! ぬぁあああああああああああああ!!」
「帰ったらまた回復魔法ね……」
「ふふふ、早く帰ろう!! 朝食食べたらすぐに出発なんだから!!」
* *
「すげぇーなんか建物がキラキラしてるぞ」
『建物全体から魔力を感じる……常に魔法障壁が施されているのか』
「おっきいねぇー」
『クックゥー』
ムートに乗って王都に到着した俺たちの目の前には、黄金のレンガでできた壮大な四角い大建造物がそびえ立っていた。
その建物の中には黒を基調としたローブを羽織った女の子達が和気あいあいと喋り込んでいる姿が見える。
「さて、受付も終わったわ。準備はいい?」
「うん! バッチリだよ!」
『クックゥ!!』
大きなカバンを両手で持ち上げ、元気な声で返事をするソプラ。
実はソプラはこの度王都での名門、王都魔導女学園に入学することになったのだった。
学園で色んな事を学び、魔法をより向上させる為にチューバ爺さんとトランさんが推薦状を書いてくれたのだ。
学園は女子ばかりの全寮制で、魔法の才能がある女子を集めたエリート学園だ。
そりゃ、4属性使えて王前の儀にも参加した超有能なソプラだ、入学できない訳がない……だけどさ……。
正直寂しい!! ソプラと離れ離れに暮らすなんて嫌だ!! 毎日の俺の癒しを奪わないでくれ!!
「なぁ、ソプラ……本当にいいのか? 離れ離れなんだぞ?寂しくないか!? なんなら毎日ベルンからムート飛ばして通っても……」
『我は毎日同じ所を飛ぶのは嫌だぞ。もっとあちこち飛び回りたいのだからな』
「召喚獣は主人の言うことに絶対服従じゃなかったっけ!?」
「もう、アルトちゃんは心配性なんだから……ずっと寮にいるわけじゃないって言ってるじゃない。1月に1度はお休みがあるんだから、全く会えないってわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさぁ……」
人見知りだったソプラが1人で学園生活ができるのか!? 友達とちゃんとコミュニケーション取れるのか!? いじめられたりしないのか!?
心配なのもあるんだけど、ソプラと離れ離れになるのがこんなにも辛いとは……遠距離恋愛してるカップルの気持ちが今ならよくわか……。
『アルトよ、赤鎧の奴が言っておったが、重い女は嫌われるらしいぞ』
「ターニャさんにはあとで問い詰めることにするよ」
最近ムートが変な知恵つけてきたと思ったが、情報源はそこだったのか……。
「心配しないで!! わたしもアルトちゃんに負けてられないもん!しっかり勉強して世の中の役に立てる人にならなきゃ!!」
ソプラは両拳を胸の前で握りしめて、自信満ちた表情でまっすぐに俺を見てくる。
あぁ……なんて期待と好奇心と決意を混ぜた、輝かしい眼差しをしているのであろうか。
子供の巣立ちを見守る親の気分ってこんな感じなんだろうか……グスッ、大きくなりやがって。
「わかったよ……しっかり勉強するんだぞ!」
「うん! 任せて!! アルトちゃんなんかすぐに追い越しちゃうんだから!!」
そう言って俺たちは笑い、硬い握手を交わした。
こんなにも小さな手だけど、とても力強く頼もしくもある手だ。本当……いつのまにこんなに大きくなったんだろう。
うん、心配しすぎだったな……ソプラなら大丈夫だ。
俺が安心して手を離すと、そこにミーシャがソプラの前に片膝をつき、顔にそっと手を添えた。
「ソプラ、自分のやるべき事に信念を持ってやり切りなさい。……大丈夫あなたならやれるわ」
「……うん」
ミーシャはソプラをそっと抱きしめて優しく送り出した。
ちくしょう! いいな!! それ俺がやりたかったやつぅ!!!!
『おぬし……』
「ありがとう! アルトちゃん! ミーシャ!! 行ってきます!!」
『クックゥ!!』
ソプラは満面の笑みで大きく手を振り、学園内に走って行った。
今回の主役はソプラ!!無事に学園生活を送る事が出来るのでしょうか!?作者もハラハラしながら書きますので一緒に見守って下さい!
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