121 リエル戦決着
「アルトちゃんそれ本気で言ってんの!?」
「本気も何も、やらなきゃ殺されちゃうよ! キーキさん我慢して!」
「そんなの我慢ってレベルじゃ……んみゃあああああああああああああ!!!?」
激しさが増すリエルの攻撃をムートがアクロバティックに回転しながら交わしていく!
「何コソコソしてんだい!? もっと……もっと……もっと!! 絶望に満ちた顔を私に見せてごらんよぉおおおおおおおおおお!!!!」
リエルの土槍の本数が更に増し、俺らに襲いかかってくる!!
「うぉおおおおおお!! ムート準備するからとにかく逃げろ!!」
『ぬう!? 何しておるのだアルトよ!! あのカラス倒してくるから早く降りろ!!』
「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
そんな暴風雨のように荒れ狂う土槍の中をムートが更にスピードを上げかいくぐっていく!
こんな中でも俺やキーキさんにも土槍が当たらないように避けまくるムートは、小さくなっても流石龍神バハムートと思えた。
感心しながら準備をする俺をよそに、キーキさんは必死にしがみ付いて大絶叫してるけどね。
「よし、セットできた! ムートいいぞ!! 雲の中に入れ!!」
『うむ!』
「ヤダヤダヤダ!! まだ心の準備が……イニャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
準備を整えた俺たちは作戦を実行するために、巨大な雲の中に突っ込んだ!
「行くよキーキさん!! しっかり掴まってて!!」
「フグゥ!! むぐぐうぅうううう!!」
俺にしがみ付きながら、袖を噛んで必死に声を出すまいとするキーキさんを抱えて、全力でムートの背中を蹴り二手に分かれた!!
あとは頼むぞムート!!
* *
もっと足掻け!もっと鳴き叫べ!! もっと絶望を噛み締めろ!!
ようやくこの時が来た、全身の火傷の痕を見るたびに、幾度となく煮えたぎる怒りを押さえ込んできたことか!!
あの日、年端もいかないガキだったアルトに全身を焼かれて瀕死に追いこまれ、死の淵を彷徨った……。
アジトに帰った時には、全身ズタボロで生きているのが不思議なくらいだったらしいが、私はあの方に生かされた。
あの方の奇跡が無ければ、確実に死んでいただろう。
それから数年の地獄のようなリハビリを強いられたが、私は耐え抜いた……この火傷の恨みを、屈辱を、絶望をあのクソガキに返す為に!!
そして訪れた最初の抹殺計画。あの方からアルトが召喚魔獣試験に落ちる事があれば殺してよいと通達が来た。
すぐにでも殺したかったが、奇しくもアルトはあの計画の候補の1人になっていたようで、手が出せなかった。
やっと復讐を果たせると思ったのだが、王前の儀での襲撃は失敗。その後、なぜかあの方は再び「まだ殺すな」と言われた。
わけがわからなかった……今まで抹殺の対象を取り止める事など無かったからだ。
殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい……殺したい!!!!
日々強くなる内なる欲望を抑え込むのは大変だった。
しかしそれも今日まで、ついにあのお方がアルトを殺る機会を下さったのだ!
私は歓喜に震え、アルトが鳴き叫び命乞いをする姿を想像しただけで絶頂しそうだった!!
すぐにでも殺りたいが、アルトの側には元王宮近衛兵第1隊隊長だったカルロスが常に目を光らせている。
忌々しくも微量に漏れる殺気を瞬時に察知して牽制してくる。あいつさえいなければ……。
そんな中、一か月が過ぎ音楽祭の決勝戦の直前、アルトはカルロスから離れた。
好機!!
外に連れ出されてきた娘を餌に、アルトを単体空中へ連れ出す事に成功。さあ、これからアルトの絶望と悲鳴を聞く私だけの音楽祭が始まるのだ。
私は一思いに殺さず、じっくりといたぶるように土槍を放つ。
何本も、何十本も、何百本も、何千本も!!
アルトの苦難に満ちた表情や鳴き声は、私の嗜虐心をビンビンに刺激してくる。
あぁ……快感だ……。
溜に溜め込んだ復讐心が、嗜虐心によって快楽へと上塗りされていく。
それにしても連れてきた娘はいい声で鳴く。これ程、心を揺さぶる叫び声は中々いない。
あの娘はできれば連れ帰って、もっと鳴き声を聞きたいものだ……。
だが、土槍を防ぐアルトの顔にまだ希望があるかのように見える。あぁ……早くその顔を苦渋に満ちた表情に変えてあげる!
「雲に隠れても無駄だよ! あんたのアホみたいな魔量は目をつぶっていてもどこか丸わかりさぁあ!!!!」
コソコソ話をして策を練っていたようだけど雲に隠れて目くらまし程度、やはりガキの浅知恵だ。
雲の中から大小様々な土玉が落ちていく。その土玉の陰に隠れながらアルトの魔力反応が見えた。
雲に入り目をくらまし、中で別れてバハムートを囮にして逃げようとしたみたいだね。
私は囮のバハムートには目もくれず、すぐにアルトの魔力の反応に標準を合わせ、土槍を向ける。
いくらバハムートが早かろうが、この距離なら私の土槍の方が早くアルトを射抜く。
アルトが死ねばバハムートも青い光となって消えてしまうからね。
今度は土玉で防げるような生半可な本数じゃないよ……。
「さぁ! おしまいだよアルト!! その絶望に満ちた表情を見せてごらん!! ヒャハハハハハハハハハハハハハァ!!!!」
私が一斉に土槍を放とうとした瞬間!!
『残念! 俺はこっちだよー!!』
「っ!?」
私の背後からアルトの声が!?
思いもよらぬ事に咄嗟に振り向いた!
「あれはっ!?」
そこにはバハムートが使う収納魔法の光の円が出現していて、その中から音楽祭で使用していた音を増幅する魔道具と、録音した音を出す魔道具が空中に放り出されていた!
『あははは! こっちは偽物でしたー!』
魔道具からは私をバカにしたようなアルトの声が聞こえる。
「クソッ!!」
一瞬の虚を突かれ、すぐさまアルトに意識を戻したが。
『その一瞬が命取りだ』
目の前にバハムートが迫っていた!
「っく!!」
すぐに新たな土槍を生成し、バハムートに向け……。
『遅い』
バハムートが高速で回転しながら小さな体にそぐわぬ強靭な尻尾で召喚獣と私の右腕を薙いだ。
次の瞬間には召喚獣は青い光に変わり、右腕を失った私の数千の土槍はチリと消えた。
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