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105 2人の歌声

 翌朝から音楽祭に向けて練習を始めた。


 昨日の輩がまた来てもいいように、ミーシャには入り口を見張っていてもらうことになった。


 ピアノがある部屋に子供達も集めて、俺がピアノの伴奏をしながら2〜3曲程合唱してもらった。


 まず子供達が、どれ程の実力があるのか確認するだけだったんだけど……度肝ぬかれた。


 なんなの? この子達……音感や声の質や歌い分けと抑揚なんかも子供と思えないんですけど!?


 しかも軽い振り付けの踊りまでこなしながら……。


 前世のテレビ番組で、6歳くらいの女の子が演歌をプロ並みに歌い上げるのを聞いただけで衝撃だったてのに……こいつら。


「すご〜い! みんな上手だねぇ!! これなら優勝ねらえるよぉ♪」


 ソプラも拍手しながら子供達を絶賛するけど……。


「えー? 全然ダメだよー?」

「こいつ、サビで半音外してたし」

「なにおう!? あんただって歌い出しまごついてたじゃない!!」


「……みんな、すごいねぇ……」

『クックゥ……』


 これである……細かな指摘する部分も教えずに自分達で対処できるってさぁ……。


「すごいね……ナカフの子供達はみんなこんなに歌唱力高いの?」


「ん〜、ナカフに住んでいると自然と音感など身につきますし、さほど珍しくもないんです。私達もこれと言った練習や訓練なども行なってきていませんし」


「まぁ、これくらいの歌や踊りができないとナカフでは笑い者だよなぁ、あははは」


 なにそれ……ナカフすごい。


「凄いって言ってますけど……アルトちゃんの演奏の方が、私達から見たら凄いんですからね?」


「そうだよ! 毎日ピアノ触ってる私達でさえ、そこまでの演奏技術はないんだから!」


「おっ……おう。そんなもんなのか……」


『アルトよ、もうやらんのか? 我はまだ音楽とやらを楽しみたいぞ!』


 ムートはピアノの上に乗って早く演奏しろと、ペシペシ尻尾でピアノを叩く。


「ピアノを叩くな!! これ超高いんだぞ!! ……ったく」


「そういえば、キーキさんとラーラさんの歌声聴いてないな」


「あっ、そういえばそーだね」


「私は、その……」


「キーキは借金の事があって、歌ってる途中で声が出なくなっちまうんだ……気にしすぎだって言ってんだけどね」


「まぁ、それでも2人の歌唱力も知っておきたいし歌えるところまでお願いするよ。曲は何がいい?」


「……えっと。じゃあ、さくらで」


「じゃあ、あたしが合わせるよ。アルトちゃんお願い」


「はいよ!」


 そして、俺はさくらを弾き始めた。


 静かな前奏が流れ、2人は歌い始める。


「「さくら、さくら〜♪」」


「「!?」」


 歌いだすと同時に、俺は2人の世界に飲み込まれた!!


 何!? この耳に心地よすぎる声色は!?


 まるで世界がふわっとした、やわらかいマシュマロにでも包み込まれたように、甘くてとろけるような……。


 あぁ……ずっとこの中にいたい、なんて心安らぐハーモニーなのだろう……。


「……ちゃん……アル…………アルトちゃん!!」


「あぁ……んぁ!?」


「あっ、気がついた。いきなり目をつぶって伴奏やめちゃうから、何事かと思っちゃったよ」


 ラーラさんに肩を揺すられて、目を覚ました。どうやら軽く意識を持っていかれていたらしい。


 子供達も心配そうに周りに集まっていた。


「2人のハーモニーがあまりにも心地よかったから意識飛んでたよ……こんな歌声始めてだ……すごかった」


 まだ、半分ボーっとしたままだったけど、ラーラさんに俺の感想を伝えると。


「あははは! そこまであたし達の歌声に、聞き惚れてくれたのかい!? 嬉しいねぇ……キーキ! あたし達も捨てたもんじゃないよ! あははは!」


「そうね、私達の歌声を子供達以外に褒められたのは久しぶりだわ」


 キーキさんとラーラさんは俺に褒められたからか、まんざらでもないように笑みを浮かべている。


「いや、この歌声なら本気で優勝狙えるよ!! 2人とも!! 自信持って!!」


「ふふふ、ありがとう」


 キーキさんは笑ったけど、どこか不安げに眉をひそめていた。


「ね!? キーキ姉ちゃんとラーラ姉ちゃんの歌はすごいでしょ!!」

「2人が歌うの好きー!!」

「シーちゃんと同じくらい凄いのー!!」


 子供達が俺に集まってきて2人の歌声を口々に絶賛する。いや、本当に凄い歌声だった。前世を含めてもこんな歌声は始めて聞いたよ……子供達がはしゃぐのにも納得だ。


「ねぇアルト姉ちゃん、ソプラ姉ちゃんもボーっとしてるよー」


「えっ!? ソプラ!?」


 子供の1人が袖をくいっと引っ張るのでソプラをみると、トロンとした表情で、目の焦点が合ってない。俺と同じように夢心地の世界に入っているようだ。


 と言うかその表情かわいすぎ!! 今すぐキスしたくなっちゃうんですけど!?


 ル〇ンダイブでもかます勢いで、立ち上がろうとしたら。


「おーい、ソプラちゃん起きなー」


「んぁ!? アルトちゃんのふわとろオムレツ!! ……あれ?」


 ラーラさんに起こされた……くそぅ。


 でもソプラ、オムレツって……夢の中でふんわりとしたオムレツを食べていたのかな?


 よし、今夜スペシャルなやつを作ってあげよう。


 そんなやりとりをしていたら、扉がノックされミーシャが入ってきた。


「あれ? どうしたのミーシャ?」


 ミーシャは無言でドアを押さえながら、誰かに前を譲った。


「おい! お前達無事か!? 早く避難しろ!!」


 すると突然1人のおじさんが勢いよく中に入ってきた!


「どうなさったんですか!?」


「どうもこうもねぇ! 町に新種の魔物が現れたらしいんだ! 昨日の夕暮れ時に奇声をあげながら高速で飛び回る、人くらいの大きさがある魔物らしい!! 今のところ実害はないようだが、ギルドで討伐隊が組まれてるから、住人は安全の為に避難しろだとよ!」


「「「「……」」」」


 おやおや、みんなどうしたのかな? そんな目で俺を見て。まるで俺が犯人かと言わんばかりじゃないですか?


 泣き叫ぶキーキさんを連れてムートと飛び回った、俺だろうけども。


 みんなの視線が痛いんですけど……ほら、伝えてくれたおじさんが、みんなで俺を見てるから戸惑ってるじゃないか……。


 よし、とりあえずしらばっくれてみよう。


「へー……そんな、魔物が出たのかー。コワイナー、ソーカソーカ、タイヘ……」


「しらばっくれたらどうなるか……わかってるわよね? アルト?」


「すんませんっしたぁ!!」


 俺は勢いよく教会を飛び出した。

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