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103 色んな問題点

「「ええええええええええ!?」」


「やっぱりね……はぁ……」


「ははは、アルトちゃんらしいね」

『クックゥ』


 俺の宣言にキーキさんとラーラさんは驚き、ミーシャとソプラは呆れたように俺を見る。


「ちょっとアルトちゃん? ナカフ音楽祭(ミュージックフェスタ)で優勝するってどれくらい大変かわかってるの!?」


「そうだよ!! ちょっとピアノが弾けるくらいで優勝できるようなもんじゃないんだよ!?」


 キーキさんラーラさんが、やめろと言わんばかりに俺に詰め寄ってきた。


「ナカフ音楽祭(ミュージックフェスタ)は4年に一度開催される、この町の言わば神事なの。優勝する為に、みんな途方もない時間をかけて練習と準備をしてきているわ。パッと思いつきで出場して優勝できるほど、あまくないのよ!?」


「そうだよ!! アルトちゃんもピアノの腕には自信あるみたいだけどさ、音楽祭(ミュージックフェスタ)の主体は歌なんだよ!? メインの歌い手もいないのにどうするの!?」


 あら? ピアノ演奏だけじゃダメなのね。


「なら、みんなで歌えばいいじゃん!! 合唱だよ! 俺がピアノ伴奏するから!! ここの子供達の歌唱力は馬鹿に出来ないよ、きちんと練習したら優勝狙える実力はあるよ!」


「「いやいやいやいやいや」」


 キーキさんもラーラさんも顔の前でパタパタと手を振り「何言ってんのコイツ?」的な目でこっちを見てくる。


 おかしいかな? 結構マジで言ったんだけど……。


「それに、出場するにしても問題山積みですよ!?」


 キーキさんが俺を心配そうに見てくる。まだ、なんかあるんかい。


「まず、伴奏するって言っても、ピアノを簡単に持ち運べないでしょ?予選で使用する楽器は、全て持参しなくちゃいけないの。全員でもピアノは重くて運べないわ」


 あぁ、そういう事ね。


 キーキさんの言い分はわかる。確かにピアノは重いし毎回持ち運びする奴なんていないだろう……()()()()()ならね。


「それなら心配ないよ。おい、ムート」


『ぬ? なんだ? 飯か?』


「違うわ。今お前が寝転がってるピアノを収納してみてくれ」


『うむ? わかった』


 シュイン!


「「はぁぁぁぁあ!?」」


 ムートがピアノを収納して、そのまま俺の頭の上に飛んできて、もう一度元の場所に戻した。


 どうしました?キーキさん、ラーラさん。綺麗なお顔が台無しになるくらい口開いてますよ。


「俺の召喚獣のムートは収納魔法が使えるんだ。月収が多いのも、こいつがいるおかげで配達ギルドで稼ぐ事ができてるのさ」


 ニカッと笑いながらサムズアップをかます。なぜかムートも一緒に。


「はぁ。収納魔法を使えるドラゴンなんて初めてみたよ。小さいのにすげぇな……」


「ピアノを収納できるほどの収納魔法なんて聞いたこともないわ……。でもまあ、ピアノの持ち運び問題は解決したけど、他の一番の問題があるのよ……」


「そうそう、予選会場はだいたい屋外で行われるんだ。審査員は家2軒分くらい離れた位置から演奏を見てるから、ピアノを弾いて合唱するくらいの音なら、拡散してしまって審査員に聞こえないんだ。いくら上手くても聞こえなくちゃ意味が無いんだよ」


「そんな離れて審査する必要あるのか? でも、全員同じ条件なんだから別に構わないんじゃない?」


「それはね、アルトちゃんは風魔法は使える?」


 キーキさんが人差し指をピンと立てて聞いてくる。


「う……使え……ない」


「ナカフ音楽祭(ミュージックフェスタ)がそこらの音楽祭とは全然違う所は、その風魔法の操作技術の高さにもあるんだ」


「奏でた音を風に乗せて審査員の耳に届ける。演奏と歌唱力の素晴らしさ、魔法操作の技術、音を風に乗せて届けられる音質の良し悪しなど各項目に採点基準があるの。

 風魔法を使わずただ闇雲に審査員へ聞こえるよう、強く音や声を出しても音が割れてしまうし、普通にやっても結局聞こえないから意味が無いの」


「それに音楽祭(ミュージックフェスタ)の優勝狙える実力になると、ただ聞こえるだけじゃなく、迫力や声の振動まで伝えられるようになってくるんだ! 長年の卓越した魔法技術が必要なんだよ」


「う……ぐっ……」


 2人の話を交互に聞いたら、ぐうの音も出なくなった。


 マジか……さすが異世界の音楽事情、思ってたんと色々違う。


 風魔法で音を運ぶのか……辺りの空気を吹き飛ばす風玉しか作れない俺には到底無理な技術だ……。


 だがしかし! 今この場には俺以外にも風魔法を使える人材がいるではないか!!


 自分ができない事は、他人を頼ればいい!!


「ねぇ! ソプラはできないの!?」


「え!? わ、わたしぃ!? えっと……その……風魔法で音を大きくして拡散するくらいは大丈夫だけど、音を離れた位置に届けるとか繊細な操作は、まだちょっと……」

『クゥー』


 むむむ……まあ、仕方ないか。ソプラも風魔法が使えるとは言え繊細な操作は難しいのだろう。


 次は……。


「ミ、ミーシャは?」


「ある程度はできるけど、やらないわよ。あんたがやるって言い出したんでしょう? 魔力操作の練習にもなるから、自分でやりな」


 ですよねー! ミーシャならそう言いますよねー!! クソッタレ! ケチ!! この教会のシンボルを奪われていいのかよ!ばー……。


 あっ、めっちゃ睨まれてる。すいません、イキリすぎました。そんな「殺すぞ?」みたいな殺気混ざりの眼差しで見ないでください。


 うーむ、ミーシャからの支援も受けられないとなると、こりゃホントに詰みか?


 魔法の操作技術なんて俺には無理だよ……代わりに音を運んでくれる方法が無いもんか……。


 ……ん?


 まてよ? もしかしたら……。


「ねぇ、魔法を使って声や音楽が審査員のとこまで綺麗に届けばいいんだよね?」


「まぁ、簡潔に言えばそうだけど……」


「道具とか使ってもいいの?」


「道具? 魔導具の事? 魔法を付与した楽器に規定はないから、魔導具も大丈夫かと思うけど……魔法の補助的なものだし、今の時期は魔法付与してある楽器はかなり高額だよ。それでも、軒並み売り切れてると思うけどね」


 2人ともどこか諦めたような雰囲気出してるけど、諦めてないからね!?


 諦めたらそこで試合終了ですよ?


 だがふむ……なるほど……。

 それならば……やれるかもしれない!


「ん? アルトちゃん? なんかいい事でも思いついたの?」

『ククゥ?』


 ソプラが俺の思考を読んだかのように、好奇心旺盛な子供っぽい笑顔を向けてくる。


 俺のほんの小さな事でも、いち早く気づいてくれるソプラが大好きですよ。


「うん、ちょっとね」


 今思いついた事が実現できるかわからないけど、あの人達にお願いしたら……なんとかいけるんじゃね!?


 俺は微かな光を見出した!!


「ちょっと準備が必要だけど……いけるかもしれない!!」


「「えええええええええええ!?」」


 俺の自信たっぷりの発言に、また驚く2人……いいリアクションしてくれるなぁ。


「どの道、他に方法ないでしょ? ミーシャ!!」


「……そうね。まぁ、行動起こさないよりはマシね。やるだけやってみなさい」


 よし!! ミーシャの許可も降りた!


「ねっ!? 2人とも!! やろうよ!!」


「うぅ……でも……」

「その……あたしらが人前でってのは……」


 2人の歯切れの悪い返事が返ってくる。


 多分、キーキさんもラーラさんも、青い目のせいで大勢の前に出るのが苦手なんだと思う。


 でも、行動しなくちゃ何も変わらない。


 俺は目に力を込めて、ジッっと2人を見つめた。


「はぁ……諦めなキーキ。この子の目は本気みたいだよ。どうせ他に方法が無いなら最後くらい足掻いて見ようよ」


 俺の目力にラーラさんが折れて、キーキさんに話しかけた。


「そうですね……このまま何もせずにピアノを手放す事になるなら、最後まで足掻いてみます。アルトちゃん、よろしくお願いします!」


 2人とも吹っ切れたように、目に力がこもる。


「よっしゃ! 任しといて!! 優勝できるようにがんば……」


「ああっ!! ちょ待って!! キーキ。そういえば、参加申請っていつまでだっけ?」


 俺の言葉を遮って、ラーラさんが慌てて参加申請日の確認をする。そんなに焦らないてもいいのに。まぁ、2人がやる気を出してくれるのは、ありがた……。


「え? 確か……音楽祭(ミュージックフェスタ)の1カ月前だから……今日の日没までじゃない!?」


「「「えっ!?」」」


 窓の外を見ると、すでに空は赤みがさし、日は沈もうとしていた。


「ムート! 急げぇええええええええ!!」


『ぬ? どこへ行くのだ?』


「え!? ちょ!? ふぎゃああぁぁぁぁあ!!」


 俺は目の前のキーキさんを道案内として抱え、すぐさまムートに乗り、窓から飛び出しだ。

いつもブクマ、感想、評価、誤字報告などありがとうございます!

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