102 借金返済作戦
「大丈夫だった? アルトちゃん!?」
ピアノのある部屋に戻ると、ソプラが心配して駆け寄ってきてくれた。
心配性だなぁ、まぁそこが一番可愛いとこなんだけどね。
「大丈夫だよ、ありがとう」
そう言って頭をひと撫ですると、安心したのかにっこりと微笑んだ。
んはー!! 可愛いぃー!! 今すぐに抱きしめ……。
「邪魔よ、早く中に入りなさい」
「ぐふっ!?」
後ろでつかえていたミーシャのチョップが、脳天を襲う! 本当痛いからやめてほしい。
その後、礼拝堂であったことを説明して、子供達は部屋に戻ってもらって、俺とソプラとミーシャとキーキさんとラーラさんで話し合う事になった。
「さて……まずは、あの借金取りと契約書はなんなのかしら? 本部の方からの報告では聞いて無いんだけど?」
ミーシャが机の上に両手を軽く組んで肘を置き、口元を隠してキーキさんとラーラさんを一瞥する。
めっちゃ怖いよミーシャさん。巨大な汎用人型決戦兵器が出てくる、総司令の人みたいですよ?メガネかけてないけど。
「……私が説明します」
キーキさんがミーシャの気迫でビクビクしながら、事の成り行きを語ってくれた。
概要はこうだ。
一年前くらいに子供達が立て続けに病気や怪我で治療費がかさみ、教会の運営資金が底をついてしまった。
どうしようかと頭を抱えていた所に、ゼニルという人がお金を貸してくれると提案してきてくれた。
ラーラが出かけていていなかったが、ゼニルさんはとても優しそうな人だったので善意と受け取り、契約書にサインをして金貨5枚を借りてしまった。
数ヶ月後、ようやくお金を返せる目処がつき支払いに行ったら、利息がついて借りていた金額の10倍の金額になっていた。
契約書を再度確認したら、実は利子がとんでもなく膨れ上がっていく内容が巧妙に隠された契約内容だった。
払えない事がわかると、毎日の様に柄の悪い連中が取り立てに来るようになり、信徒さんも近寄りづらくなってしまい、お布施も減ってしまって……。
という事だった。
「成る程ね……っで、今はその膨れ上がった借金はいくらくらいあるの?」
「……約金貨1000枚です」
「「金貨1000枚ぃい!?」」
俺とソプラが同時に驚き、立ち上がった!
馬鹿げてる! 借りたのが金貨5枚だったのに、金貨1000枚だと!?
「ちょっと! ミーシャ!! こんなのあんまりだよ!!」
「そうだよ! なんとかできないの?」
俺とソプラが食ってかかるが、ミーシャは腕を組み、しかめっ面で返事を返した。
「無理ね……」
「「えええええええええええ!?」」
難しい顔をしたミーシャが更に続ける。
「あの契約書は、そこら辺の契約書とは違うわ。魔力を緻密に練り込んだ背表紙、極上品質の紙、込められている魔量……アルトが王宮で交わした制約の書とそう変わらない品質の契約書よ。契約を交わした以上、支払いを済ませるしか方法は無いわ」
「「そんな……」」
俺もソプラも言葉を失って、そのまま立ち尽くしてしまった。
「そもそも、あの契約書を作るのに金貨1000枚じゃくだらない代物なのよ。だからこそ、こんな借金くらいの契約に使うのが馬鹿げてるの」
ミーシャが鋭い視線でキーキさんを射抜く。
「……多分奴らの本当の狙いは……」
「はい、そこのピアノです……」
「ピアノ?」
後ろのピアノを見ると、よく手入れされてはいるがかなりボロい、年季も入ったあんなピアノがそこまで値がはるだろうか?
「このピアノはこの町の創設者パステル・レインボー様が教会へ寄贈され、代々受け継がれている由緒あるピアノなんです。
このピアノはこの教会のシンボルであり、誇りなんです。借金のカタに奪われるなんて先代の方々に面目もたちません。
それでも、借金のカタに何度も奪われかけましたが、利息を払う事でなんとか免れてきたんです……でも、もうそれも……」
キーキさんが涙を溜め、かすれるような声になりながら語ってくれて、その悔しさが伝わってくる。
そんな大切に受け継がれてきたピアノだったのか……そりゃこんなボロいピアノでも大事に扱いたい気持ちはわかる。
お金には変えられない大切なものは、誰にでもあ……。
「まぁ、ピアノ本来の価値とこの町の歴史的価値や希少性を考えれば金貨1000枚の10〜20倍はするでしょうね」
「「じゅっ!?」」
俺とソプラは目が飛び出しそうなくらい驚いた!
まじか!? このピアノってそんな値段する楽器なのかよ!?
「ピアノってそんなに高価なもんだったの?」
「当たり前よ!! そもそも、ピアノってのは個人で持てるものじゃないし。作れる職人も少ないし、高価で希少。貴族がパーティーで使う為だとか、豪商の嗜好品としか取り扱いがないものよ」
「いや、だって……広場にでさえピアノが無造作に置いてあったし、こんなに楽器が溢れているんだから、そこまで高価とは……」
「何を言っているんですか? 広場にあるあの白いピアノは、ナカフ音楽祭の開催期間中だけ置かれる超高級ピアノですよ。
ここは娯楽の町ナカフ、たとえ道端でも人前で演奏する者はそれなりの技術を求められますし、練習の為に設置してある楽器を使うなんて誰もしません」
「ピアノは簡単に練習できる楽器ではないし、演奏者も限られてくる、弾ける人が極々希少というわけだよ……だからあのピアノを弾く人なんて、まずいないのさ」
「えぇ……」
まじか……結構ありふれた楽器だと思ってたのに……。
「だからさっき、普段から弾くことのできる私達以外に、あそこまで上手にピアノを弾くアルトちゃんを見て凄くびっくりしたの」
「うん、貴族でも無いみたいだし、その年でどうやってあそこまで上手く弾けるように練習したんだ?」
「え……いや、あははは」
みんな俺を凝視してくるけど、まさか前世で趣味で弾いてました、なんて言えるわけもない。
俺は愛想笑いでその場をごまかした。
「でも、借金の利子を払ってピアノを守るのも、もう限界なんです……この借金を作ってしまったのは私だし……みんなに迷惑ばっかりかけて……うぅ……」
「キーキ……」
キーキさんが崩れるように机に突っ伏して声を押し殺すように泣き出し、ラーラさんが背中を優しくなでる。
そりゃそうだ金貨1000枚なんて平民が簡単に払える額じゃない……相当なプレッシャーを感じていただろう……。
俺もあの悪どい借金取りに、2人の大切なピアノを奪われるのは癪に触るから助けてあげたいけど、流石にそんな大金はない……。
こうなると、後はあれしかないよなぁ……。
非常に不確かで、できるかどうかも怪しい賭けだけど……。
だが、泣き続けるキーキさんを見て、俺も覚悟を決めた。
俺は両頬をバチンッ!! と叩き、真剣な顔でみんなの方を向く。
「俺が金貨1000枚用意する」
「「「「!?」」」」
全員ギョッとした目で俺を見る。
「アルトちゃん!? いくら稼いでるからって金貨1000枚は無茶だよぉ」
「そうよ、あんたの宅配とショーユで稼いだ金額足しても1カ月で金貨100枚くらいがせいぜい……2カ月で金貨1000枚は流石に無理よ……」
「え? ちょっとまって? 1カ月で金貨100枚!? 冗談だろ!?」
「アルトちゃんって何者!?」
キーキさんとラーラさんが、俺の稼ぎを知って、驚愕の目で俺を見てくる。
そりゃ月収金貨100枚の女の子だもん、驚くのも無理ないよね……。
でも、稼いで用意するなんて一言も言ってないんだよね……。
「まぁ聞いてよ……そこにちょうどいいピアノがあるじゃん」
俺はニヤリと笑い、後ろにあるピアノにくいっと親指を指した。
「え? ピアノ?」
「おぃ、まさか売れってんじゃないだろうな!?」
「アルト……あんたまさか」
「もしかして……」
ミーシャとソプラは気づいたようだね。でも、大金を手にするには……これしか道がないでしょう!!
「ナカフ音楽祭で優勝して、金貨1000枚だぁ!!」
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